「幸運の乙女」
「隊長〜、私たち完全に忘れられてないですかね〜??もう充分休めたし、帰りたいです〜」
隣で駄々をこねるハンナを他所に、リアは牢屋の天井に付いている小さな小窓から、少しでもこの地の情報を集めようと必死に顔を出している。
「うるさいわハンナ、そんな事言ってる暇があったら少しでも情報を集めなさい!!…あっ!あれはドワーフかしら??いや…肌が少し黒いわね、もしかして発見されていない種族の可能性も…」
「は〜い…あっ、隊長。見張りが来ましたよ」
「え?!いつもより早いわね、早く下に降りないと………あれ?」
リアは小窓の鉄格子から、顔を抜いて下に降りようとするも…
「………抜けない」
「えぇ?!大丈夫ですか隊長〜。ぷぷっ…見張りのオークがもう来ちゃって、ぷふぷっ。早く降りないと…ぷはぁーーー!!」
ハンナは豪快に吹き出して、ケラケラと笑う。
「何笑ってるの!!!早く助けなさいよ!!」
「だって隊長!!ぷーくすくす、天井に突き刺さってるみたいに見えるんですもん。ぷぷっ」
リアはハンナの言葉通り、天井に直立で突き刺さってるかのような体勢のまま、身動きが取れなくなっている。
「おいおいおい、何を騒いでいる?」
「あっ…」
「…」
「おい人間よ!この度見事"看守長"に昇進したこの俺、オームに何か隠そうとしてるのか?」
見張りのオークがやってきたようだ。
「いや〜、聞いてくれ人間よ。この前の襲撃の時にな、侵入者と激戦の末惜しくも敗れてしまったこのオームに対して魔王様は激励も兼ねて看守長に昇進させると言ってくれて…ん?おい!もう一人はどこに行った?!」
「え?!…いや、天井に突き刺さってますけど…」
「脱走か?!?!こうしちゃいられねぇ!!直ぐに魔王様に報告をしなければ!!看守長としての責務を果たすべく!!」
「…」
オームは凄い勢いで牢屋から飛び出して行ってしまった。
「行っちゃいましたね隊長」
「…そうね」
「それにしても隊長…ぷぷっ」
「バカハンナ!!早く手伝いなさい!!!」
リアとハンナのやり取りを尻目に、牢屋の通路に突如として空間に亀裂が入る。
不自然に歪んだ空間にハンナが気づく。
「隊長…あれ見てください」
「は?!」
歪んだ空間からは人間の腕が飛び出てきて、小さく入っていた亀裂を徐々に広げていく、やがて…
「よいしょっと…ふう。どうやらここで合ってるみたいじゃな」
歪んだ空間から一人の老婆が出てきた。
全身にローブを羽織り、片手には杖。腰は大きく曲り、老婆の年齢を表しているかのようだ。
「おばあちゃんが…出てきた?」
「はあ?!?!ふざけるのも大概に…」
周囲を見回す老婆の視界に、ハンナ達が入ったようだ。
「なんじゃお主らは?ここの者か??」
「えーっと…私たちは一応ナオス騎士団の…」
「え?!?!誰ですか?!誰かそこにいるの?!?!」
相変わらず天井に突き刺さってるリアには、老婆の姿が見えることはない。
「わしか?うーん…、まあわしのことは占い婆とでも呼んでくれれば良い」
「「…占い婆?」」
二人の声は見事に重なった。




