「新人オーム」
俺の名前はオーム。つい最近ここクーズー城にやって来た新人だ。
俺の種族はオークと呼ばれる亜人であり、人間からは豚と人間が混ざったような亜人だと言われる。
失礼な話だ。人間は猿と似てると言われて不快に思ったりしないのだろうか?
そもそもここには一族総出でやって来たのだが、俺がいた部族はもともとこの城がある森には住んでいなかった。
ここよりずっと西のそのまた西にある平原に住んでいたんだ。
そこではオークの部族がいくつも集まって、大きな村になっていた。
数千人はオークが集まって暮らしていたんだ。
しかし…ある日突然人間の国に攻撃されて、多くの同胞が殺された。
理不尽に殺され、理不尽に住む場所を奪われた…。俺たちは人間に対して生涯忘れることのない怒りを持つことになった。
笑いながら巨大な棒を振り回して、同胞を葬っていた人間の指揮官…あいつだけは絶対に忘れることは無いだろう。
そして、それぞれの部族は散り散りになって各地へ逃れたのだ。
俺たちの部族はこの森の噂を聞きつけて、藁にもすがる思いでここにやって来た。
最初はとても戸惑った。
何故なら外ではお互いに土地や資源を巡って争うリザードマンやゴブリンがここでは親しく接してくるのだ。
それにここを支配しているのはなんでも人間の男だって話だ。
ここの奴らは最初"魔王"だなんて大層な事を言っていたが、俺はなにかの冗談だと思っていた。
何せ直接見た時にはただの人間にしか見えなかったからだ。それも筋肉があるわけでもない弱そうな奴だった。
俺たちは人間に対していい感情を持つことは出来なかったが、それでも他に行くとこも無く、しばらくここに留まって様子を見ていたのだ。
そして…ここに来てから直ぐのことだった。
人間の軍隊がここにも攻めて来たのだ。
それも俺たちの村を襲った奴らと同じ格好をした奴らだった。
そしてその時に俺たちは見た…
この世のものとは思えない"魔王様"の力に配下の幹部の人たちの力を…。
そしてその後の突撃で奇しくも命を落としてしまった俺たちオークの同胞…。
俺たちのような新米の雑兵の死、支配者にとっては気にもかけない出来事だろう。
しかし、あのお方は違った。
同胞の亡骸を見て涙を流したのだ。
あの姿を見て我らオークは魔王様の為に命を賭ける事を決めたのだ。
ここへ来て親友になったリザードマンのリザロも魔王様への忠誠についていつも口うるさく語っている。
ここの亜人はみんな口を揃えて魔王様への忠誠心を自慢し合っている。
改めてここは良いところだと思う。
人狼もゴブリンもオーガもバグベアもドワーフもエルフもコボルトもリザードマンもオークもみんながみんな一緒に笑っていられる。
そんな事はここ以外ではあり得ないだろう。
だから俺はここを守る為に命を賭けるのだ。
警備という重役を魔王様から任された以上は、例え敵わない相手でも俺が逃げ出す事は無い…。
そして目の前に一族の…種族の仇がいようともだ。
「リザロ!!悔しいがこいつらは俺たちが叶う相手じゃない!」
「ああオーム、わかってるさ!…だが俺たちは逃げない…そうだろ?」
流石は親友だ。俺の言わんとする事をわかっているようだ。
こいつと会えたのもここがあったおかげだ。
だから俺は逃げない、命の尽きるその時まで。
「いくぞぉぉおおおおおお」
「うぉぉぉおおおおおおおおお」
2人は雄叫びをあげ、隔絶した実力を理解しながらも侵入者に対して突撃して行った。




