「帝国軍第4軍団」
俺の名前は帝国軍第4軍軍団長コーカス。
"元帥"から王国との国境線に向かうように指令が下ったのだが…向かう途中に重要な情報を入手した為、その真偽を確かめるべく死の森とさえ呼ばれているデスデモーナ大森林を進んでいる。
なんでもオベロン王国軍が我々を挟撃する為にデスデモーナ大森林内に陣地を構築しているとのこと…。
どう猛な魔獣や凶悪な亜人が数多く潜む大森林内で軍事行動など、とても正気とは思えないが…もし本当にそんな事をされた場合、帝国軍が受ける被害は甚大なものになるため確かめない訳にはいかないのだ。
それに今回共同戦線を張る第2軍と第3軍だが…不安だ。第3軍のヒリエはともかく、特に第2軍のラモン。あんな脳筋と共同戦線なんて…。
コーカスは10人いる軍団長の中でも、個人の武という部分では最弱であると自覚している。
彼が軍団長になれたのはその卓越した頭脳と戦術眼を評価されてのことであるため、指示に従わない脳筋の軍団長は彼にとっては不安要素でしかないのだ。
とにかく背後から王国軍が現れたら戦術的に致命的になるのは間違いない。
ラモンやヒリエは部下がどうなろうと知った事で無いのだろうが…
私は部下の損害の少なさで自分の有能さをアピールしなければならないのだ。
ただでさえ軍団長という、帝国軍の実力者たちが常に狙っている地位にいる訳なので結果を出さねばならないのだ。
そんな思いを秘めてコーカスはデスデモーナ大森林を進んでいる。
進んでいるのだが…
おかしい。
先程から森の様子がおかしい。
本来であればもっと被害が出て然るべき死の森を歩いているはずなのに…
魔獣との遭遇や亜人の襲撃も無い…。
静か過ぎる。
…嫌な予感がするな。
「全軍止まれ!!!魔術師!前に出て探知魔法で周囲の魔力反応を探れ!!」
「はっ!!」
本来であれば多種多様な生命がいる森において探知魔法はまったく役に立たないのだが、私の勘が何かを訴えているのだ。
「!!コーカス様!!!周囲に、弱魔力反応およそ3万!!!それに中魔力反応が1万!!!!囲まれています!」
「何?!?!そんな大軍が?!」
しまった!いつの間に包囲されていた?
…弱魔力反応か。農民出身の急増の部隊だろうな。
しかし…中魔力反応が1万?!
どういう事だ?…中魔力反応など帝国の兵士が"装備"を付けた状態と同じだぞ?!
それが1万だと?…圧倒的に不利だな。
コーカス率いる帝国軍第4軍は総数がおよそ1万5000。視界の効かない森で包囲されていることを考えれば圧倒的に不利な状況である。
そんな中…
「あいつが指揮官かな?」
「そうですな!彼だけ魔力反応が大きいですな!!それでもゴブ一郎殿よりは下ですな」
「恐縮です」
「あれ?やっぱり王国じゃないわね??」
この状況を切り抜けるべく、頭を必死に回転させているコーカスとは対照的な呑気な喋り声が聞こえて来たのだった。




