「死者と使者」
金色に輝く金の腕輪。この腕輪のおかげでドンファン君は俺の頼みごとを実に忠実にこなしてくれている。
そしてそのドンファン君のおかげで俺の生活は劇的に改善された!!
なんとドンファン君が近くの街から調味料を大量に買い込んで来てくれたのだ!まあ、命令したんだけど…
いやー、でも本当に助かったわ!塩とか胡椒とか無いと本当に味気なかったんだよね。素材の味を楽しむのはさすがに飽きてたからさ!
もちろんドンファン君1人で行かせると途中で魔獣にやられちゃうと思ったから、ゴブリン30人くらいを護衛につけたんだけどね。
まあ、そのくらい俺にとっては重要度が高いことだってことだよね。
え?なんで俺が行かないんだって?…
だってめんどくさいじゃん?
今の時代、通信販売っていうものがあってだね…俺は金もないのに乱用してたって訳よ。もちろんカード払いで。
だからここでは人力通販って事で、これからもドンファン君には頑張ってもらおう。
ああ、それとお金の事なんだけど…ここでは円じゃなくて銅貨とか銀貨、金貨がお金らしい。
ドンファン君がふざけてるのかと思ったけどジーバ君もそう言ってたから本当なんだろう。
まあ、なんでもいいか。
…クズは意外と柔軟に環境に適応するのだ。
で、そのお金をどうやって稼いだかと言うと…
今まで食べていた魔獣…ケル吉とかスネ夫とかゴブリン達が狩って来たやつだね。それの残りというか、食べなかった部分…毛皮とか角とか。それがどうやらお金になるってドンファン君が大騒ぎしてたから、それをドンファン君に持たせたって訳。
そうしたら思った以上に金になったらしくて、残りの銀貨と銅貨をドンファン君が持ち帰って来た。
え?これがお金なの??
ドンファン君が持ってきた銅貨や銀貨は、ただの丸い塊だった。顔とか建物が刻まれていたりはしていない、ただの丸。
今時子供が遊びで使うお金だってもっとちゃんとしてるぞと思ったが…まあこういうものなのかと考えるのをやめた。思考放棄だ。
とにかくドンファン君のおかげで生活水準がだいぶ向上した気がする。
後でなんか褒美を与えないとな…。
…今魔王っぽくなかった?俺?
利央が自画自賛してニヤニヤしていると
「リオ様、例の人間の女がリオ様に話したい事があると申しています」
とゴブ一郎が話しかけてきた。
「ああ、シャーリーさんか!うん。今行くわ」
利央はゴブ一郎を引き連れて、シャーリーがいる牢屋へと向かう。
するとシャーリーはなにやら神妙そうな顔をしていた。
そういえばこの前ジーバ君が俺の魔力が魔龍?だったっけ、そいつより多いって聞いたあとからシャーリーさんの様子がおかしかったんだよね。1人ぶつぶつ言ってる事が多くてさ、正直ちょっと怖いよね…。
「話ってなんですか、シャーリーさん」
「きたのね…魔王リオ」
「おお!魔王リオ!!…いい響きっすねー」
「非常に良い響きですリオ様」
シャーリーは2人を無視して続ける。
「………それで今日は私の力について話そうと思うわ」
「ちから?」
「そう…実は私の家は代々"禁術"とされている魔法を受け継いでいる家なの」
「うん、それで?」
「…あまり驚かないのね。禁術っていえば大体の人が忌み嫌うようなものなのだけど…」
「いや、だって…知らないし」
「ふふっ、…前から思っていたけど、貴方って変わってるわね。なんていうか常識が通用しないというか…」
…不意に見せたシャーリーさんの笑顔がとても可愛かった。
「そ、そうですか?俺からしたらここの方がよっぽど非常識なんだけど…まあ、それで禁術って?」
「そうね、私が使う禁術っていうのは…死者を司る魔法"死霊術"っていうの」
「しりょうじゅつ?」
「ええ、死者の霊を自分自身や周りの人間に憑依させて身体能力を強化したり…それこそ貴方の配下にいるリッチ、あんな高位のアンデットは無理だけど…スケルトンくらいのアンデットなら創り出すことが出来るの」
「うんうん…ええ?!すごっ!!!そんなこと出来るのシャーリーさん?!」
「え?!す、凄い??」
「凄いに決まってるやんシャーリーさん!…いや、シャーリー!!!シャーマンやんシャーマン!漫画で昔見てたんだよね〜。いやー、リアルシャーマンだったとは…ん?」
見るとシャーリーは顔を赤く染めて…照れている?様子だ。
「どうしたんですかシャーリーさん?」
「いや…私の力をそんなに褒めてくれる人なんて、今までいなかったから…」
シャーリーの声は尻すぼみに小さくなっていく。
「え?なんて言ったの??」
「なんでも無い!!それと私の事はシャーリーで良いわよ。てかさっきもそう呼んだでしょ?」
「え?!呼んでた?!テンション上がってつい呼んじゃってたのかも…。うん、わかったよシャーリー!!」
シャーリーは嬉しそうにニコッと笑う。
…その笑顔100万ドルだね。
「そっ、それでね。魔王リオ…わ、私もね…その、貴方の為に…」
「リオ様ーーーーーー!!!!!!!!」
「「?!」」
シャーリーが何か言いかけていたのだが、ジーバ君が大声で叫びながらカタカタと走って来た。
「どうしたんだよジーバ君?」
「それがですなー、オベロン王国から使者が来たみたいですぞ」
「ん?使者??」
「とにかく来てくだされリオ様!」
「わ、分かった!…シャーリー、話の続きはまた今度で!」
「…ええ、待ってるわ」
利央はジーバ君と共に正門へと向かう。