「焦る乙女」
今日は久しぶりの休日!
そしてこの私、リア・タナルカ・アーネルのテンションは珍しく高い。
辛さしかない騎士団での生活から1日だけ解放されて、今はウタヤ村から1番近くにある街…トイエスにいる。
自分で選んだ道なので辛いなどとは言っていられないが…それでもたまに羽を伸ばすくらいは許されてもいいはず。
日々むさくるしい男達に囲まれて過ごしている為、自分が年頃の夢見る乙女であることを忘れてしまいそうになる…
なので今は自分が乙女である事を思い出すことができる、貴重な時間を過ごしているところだ。
それはどんな時間かと言うと…
貴族だった頃の友人と会って、甘いスイーツを食べながら語り合うのだ!
うん!!なんて女の子らしい事をしているのかしら、素晴らしいわ!!
「ねえリアー??聞いてる?!、それでさ、騎士団にイケメンっていないのー?」
「そうそう!私もそれ気になってた!!で、どうなのリア?」
そして彼女たちが貴族時代からの親友、ローザとミツェルだ。そんな彼女たちは騎士団の男に興味津々の様子である。
普段の私にはそんな呑気な事を言っている余裕など無いが…今は親友たちのそんな呑気な言葉が私を癒してくれる。
「そうね…団長と幹部の人たちはみんなイケメンって感じよ」
「あのリアが言うのだから間違いないわね!!」
「とんでもないイケメンのはずよきっと」
「ちょっと!!あのリアってなによ!」
「だって…ねえミツェル、昔からリアって異常に理想高かったものね」
「そうねローザ、リアが人の事をイケメンなんて言ってるの見た事無いもの。というかリアって恋したことあるの?」
「ねえまって!!そんなのあるに決まって…」
待って!!私って…
恋したことあったっけ?
いつか物語に出てくる王子様みたいな人と結ばれたいと思ってはいたけど…そんな人と会ったことあったかしら?
「どうしたのーリア?まさか無いなんてこと…無いわよね?」
「ミツェル、リアのことだから…いつか王子様が迎えに来てくれるとでも思ってるんじゃないかしら?」
くっ、こいつら…
「そっ、そんな訳ないでしょ!!あるわよ!恋くらい!!」
「へぇ?どこの誰が相手だったのかしら?」
「そうね、リアの恋してた人なのだから私たちも把握しておかなくてはいけないわ」
「なんでよ!!そ、そんなの秘密よ!秘密!!!」
リアは顔を赤く染め、ぷくっと頬を膨らませる。
「もう、リアったら赤くなっちゃって」
「これだからリアといるのは楽しいわね」
ローザとミツェルは心底楽しそうな様子だ。
私としては昔からこういったいじり方をよくされて不本意だが…まあ、こういうのも含めて彼女たちといるのは非常に楽しい。
それによくいじられるのは私が彼女たちよりも成長が遅く、幼く見えるというのもあるのだろう。彼女たちは同い年には見えないくらい大人びている…気がする。
はあ…このまま優雅な貴族生活に戻れたらどんなに幸せなことか。
でも忘れちゃダメよ私!!夢を叶えるためには辛さも乗り越えていかないと。
「ところでリア、大丈夫なの?」
「なにがよローザ」
「聞いた話なのだけど貴女の騎士団が担当する土地に、なんだっかしら…ケル、、、なんとかっていう魔獣が出たんでしょ?」
「私もメイド達とのお喋りでそんな事を聞いたわ。なんでもその魔獣を操る男がいるとかなんとかって」
ん?
「ええ?そうなの?!私が聞いた話ではなんとかっていう凶悪な魔獣が暴れまわってるとかなんとかって…」
「情報が遅いわねローザ、貴族の娘としてはまだまだね。なんでも辺境で暴れまわっていた魔獣をなだめて、飼い慣らした人がいるらしいわよ」
「…ちょっ」
「さすがねミツェル!やっぱり来年から嫁ぐ女は貴族としての心構えが違うわね」
「ねえミツェ…」
「でしょ?情報には特に注意して…」
「ねえ!!!ミツェル!!!!」
「?!どうしたのリア?!いきなり大声出して」
「それってどこからの情報?!」
「メイドが言ってたのだけど…父親が冒険者組合の関係者らしいから、かなり確かな情報よ」
いやいやいや、それって絶対ケルベアーだしあの男だよね?!?!
ミツェルが知っているということは王都の人々…というか遅かれ早かれ王国中に広がってしまうだろう。
…終わった。
天が私に与えてくれた唯一の道がたった今、途絶えてしまった。
闇属性魔法の使い手を倒す!!未曾有の危機を未然に防いだ女騎士、リア・タナルカ・アーネル!!!と世間からもてはやされ、私は晴れて英雄となり王子様と結ばれるはずだったのに…。
ん?待って…闇属性魔法?それに…飼い慣らした?!
「ねえミツェル!その男ってケルベアーを飼い慣らしたの?!」
「そうね!そういえばケルベアーって魔獣だったわね。そうらしいわよ、なんでも凄腕の魔獣使いだとかなんとか」
どういうことだろう?あの男が闇属性魔法の使い手ってことは分かってない…いや、わかっているが国民が動揺しないようにあえて伏せられて…
それに魔獣使いって言ったのって、そういえば私じゃあ?…あの冒険者!!生きてたのね!…いや、良いことなのだけれど…。
まあなんにせよ情報が足りないわね。
「すごいわよねー、そんな魔獣を飼い慣らすなんて」
「ええ、王国民だったなら英雄になれるんじゃないかしら?」
ん?英雄?!…あの男が?!
…
いや、ないない!!闇属性魔法って大体悪の代名詞みたいなものだし…なんていったってあの男、英雄って顔じゃないもの。せいぜい小悪党って言ったところかしら、、、我ながら上手いこと言ったわね。
「なにニヤニヤしてるのよリア」
「そうよ、王子様の事でも考えてたの?」
「いや、なんでも無いの!…2人ともこの後王都に戻るのよね?」
「そうだけど…」
「私も連れていってくれない?!」
「ええ、私たちはいいけど…騎士団は??」
「それどころじゃ無いのよローザ!!私にはやらなければならないことがあるの!!」
2人はしばらく考えるような素振りをみせ、やがてはっとした様子で
「!!…そう、わかったわリア」
「!…そうねローザ、私たちはリアの応援をしましょう」
2人はやけに真剣な表情を見せる。
「応援って…嬉しいけどさ、なんのことかわかってるわけ?」
「もちろんよ!」
「ええ」
「「…恋、でしょ?」」
「…はあ?!?!?!?!」