「囚人」
「飯だ!ここに置いておく」
今日も黒いゴブリンがやたらと美味しい果物と焼いた獣肉を持ってきた。
こんなに美味い果物は王都でも食べたことが無い!それに肉も魔獣の肉だろうか、とにかくジューシーで肉厚があって、歯ごたえも抜群だ!何もせずに食って寝るだけの生活をしていて良いのだろうか…
というかそもそも私は囚人なのだった。
私…シャーリー・ミーシャは呑気に食事に舌鼓を打っている同僚のドンファンを見ながら一人、危機感を感じていた。
隙を見てケルベアーを討伐し、白銀等級へ昇格しようとしてあの男を接待していたまでは良かったのだが…まさかあんなに強いゴブリンが現れるとは…。
希少種か王族の類よねあれは、そう考えるとあの強さにも納得がいく。あんなゴブリンが沢山いてたまるもんですか。
そして気づいたらここ、見たことのない城の牢屋に幽閉されていた。
どうやらこの城はあの幸の薄そうな男…リオの城らしい。
しかし、また後で話を聞くと言われてもう3日は経過している。
あの男、私達の事忘れてないでしょうね?
そんな気がするわ…なんか抜けてる顔してるものね。
はあ…これからどうなってしまうのかしら。
完全に忘れてた!!!!
そういえばゴブ一郎が2人…シャーリーとドンファンを持ってきちゃってたんだった。
「それで魔王様、いかがなさいます?」
「う、うーん…どうするか」
逃してしまうとここの場所とか俺の能力がバレるよね、なんか警察的な人達に。かといってこのまま監禁するのもなあ…。
なんかこう、可愛い同級生のリコーダーにイタズラしてるのをあまり仲良くない男友達に見られてしまってどう口止めするかを悩む気持ちと似てるな…。
いや、そんな事した事ないけどね。
利央が彼らをどうするか悩んでいると
「リオ様、お困りですかな?」
「おお、ジーバ君いい所に来た。あの2人どうするべきだと思う?」
「ああ!あの冒険者達ですか」
「冒険者?…そういえばそんな事言ってた気がするな。冒険者って何?職業なの?」
「まあ簡単に言ってしまえばそうですな。魔物や魔獣、それに亜人なんかを討伐して生計を立てている者たちの事ですな」
「魔獣はケル吉とかスネ夫の事で、亜人ってゴブ一郎なんかの事だろ?そういえばあいつらもゴブ一郎の一族を容赦なく殺してたな…冷静に考えると腹立つ奴らだな冒険者って」
「まあ、基本的に人間からしたら亜人は忌むべき存在ですからな…私のようなアンデットも討伐の対象ですぞ」
「ジーバ君や亜人のどこに忌むべき要素があるか教えてほしいわ」
利央は苛立つ感情を抑えて、目の前のゴブ一郎の肩をポンポンと叩く。
「人間というのは愚かで無力が故に、自分達は優れていると思いたいんでしょうな」
「やっぱ人間はクソだな、、、まあ俺も人間なんだけどね」
「私も生前は人間だったのですがな、フォッフォッ」
利央とジーバ君は顔を見合わせ、笑い合った。
「それで冒険者達の事ですが…殺してしまうのが手っ取り早いかと思いますぞ」
「ん?!、殺す?!」
「はい、殺してしまえばこの場所も、見られてしまったリオ様の能力も王国や帝国に漏れる事は無いでしょうな」
「殺す…か」
いくら自分がクズとしての人生を送ってきたと言っても、さすがに人は殺したことは無い…。人を殺すのは抵抗があるなあ…。
「ま、まあとりあえずあの2人と話してから決めてもいいでしょ。ジーバ君も来てよ」
3人は牢屋へと向かう。
「こんにちはー!シャーリーさんにドンファンさん」
「…リオ殿」
「…ふんっ、何を聞きたいの?それとも私の身体が目当て?」
利央の目線は豊満なシャーリーの体へと動くが、なんとか自分を保つ。
「それは…興味はありますけどまたの機会にという事で。じゃなくて今日は2人とお話がしたくて…でも俺だけだとあれなんで、知識人のこの方にも同席してもらいたいと思います!紹介します!ジーバ君です!!」
「どうも!リッチのジーバだ!よろしくお願いする」
…
「リ?!リリリリリリリリッチ?!?!」
「ケルベアーにヴェノムボア、黒いゴブリンにリッチまで?…一体どんな戦力よそれ、小国なら簡単に滅ぼせそうね」
ドンファンの顔には驚きと畏怖、シャーリーはもはや冷静に分析しているようだ。
「とにかく私はリオ様の補佐をする。お前らの回答次第では殺害もありうるのでな、まあ注意してくれ」
「お、脅したって無駄よ!ねぇ?ドンファ…」
「リオ殿!いや、リオ様!!このドンファン、貴方様の力に感服いたしました!是非貴方の元で働かせてください!」
「ちょ、ドンファン!!何言ってるのよ!!!」
激怒するシャーリーだが、ドンファンは無視して続ける。
「貴方様のその力、国を…歴史を動かすことの出来る力だと確信しました!!何卒、何卒私めを貴方の元に置いてください!こう見えても金等級冒険者に恥じぬ力はあると自負しています」
「黙りなさいドンファン!!私たちが金等級になれたのは私のあの力が大きいでしょ!!」
「黙れシャーリー!俺よりもキースを選びやがって!!」
「そ、そんなの今は関係ないじゃない!!」
「うるさい!はっきり言ってお前らに気を使うのはもううんざりなんだ!!気まずかったしな!!」
「そんな事言うならドンファン!貴方だって…」
2人は今にも摑みかかる勢いで言い争いを始めてしまった。
「…どうするよジーバ君」
「これは…困りましたなあ」
利央とジーバは顔を見合わせた。