「動き出す歯車」
「おーい!!誰かぁぁあ!!」
クーズー城内に響くとある亜人の声。彼の仕事は牢屋の番人である。しかしそれをかき消すように城内を行き来する大勢の亜人たち。
「おい!お前!何してる!!」
慌ただしく城内を駆けていた亜人の1人が大声で叫んでいる亜人を見つけると荒々しく声をかけてきた。
「聞いてくれよ!囚人が脱走を…」
「そんなことはどうでもいい!お前も急いで武装しろ!」
声をかけてきた亜人はかなり焦っているようであった。
それにどうやら城内を行き来している亜人は鎧や武器などの装備を整えていたり、魔獣やスケルトンウォリアーの準備にかかっているらしい。そこら辺の兵士が慌ただしく魔獣使いや死霊術師を呼んでいたのがわかった。
スケルトンウォリアーなんかは滅多なことが無い限り動員されることは無いので、彼は何か大変なことが起きているのだと理解した。
「どうしてあんな強力な部隊を…一体何が起きているんだ?!魔王様が何か命令を?」
「ああ、魔王様は戦いの準備をしろとだけ言うと幹部の方々と慌ただしく出て行った。何でも人間の国が攻めてきたらしい…それもかなりの大軍だそうだ」
「何だと?!この前あれ程人間の領土を奪ったというのに…なんと愚かな種族だ」
「ああ、全くだ。…兎に角、お前も早く武装を整えて出発の準備をしろ!!」
「わ、わかった!!」
こうして牢屋の番をしていた亜人も城内を駆け巡る亜人たちの中へと加わって行った。
ー 数時間前 ー
「魔王様!!大変です!魔王様っ!!」
「なに?寝るところだったんだけど…」
「え?昼間ですが…」
「…それで何?」
「ああ、えっと…そうです!大変なんです魔王様っ!!人間の軍隊が突然侵攻してきました!!」
「え?人間の軍隊?」
利央は未だに寝ぼけているようだ。
「そうなんです!元帝国領のバフース近郊に"白い身なり"の人間達が突然攻撃を仕掛けてきたんです!!それも大軍で」
「ふーん…。はぁ?!?!」
やっと事の重大さに気付いた利央。
「兎に角…ジーバ君!!ジーバ君を呼べ!」
「魔王様がそう言うと思いまして、既にジーバ様を呼んでおります!」
「え?!…お、おう。やるな」
タイミングを合わせたかの様にジーバ君が部屋に入ってくる。
「リオ様!!話は聞きましたぞ」
「おお!ジーバ君!!敵は…」
「敵はセオス教国の主力部隊およそ10万。それに使徒も全員動員されているとのことですな」
ジーバ君はやや食い気味で正確な情報を伝える。
「お、おぉ。流石ジーバ君。俺すら知らない情報を正確に把握してるとは…。うん、それじゃあ早速全軍を…」
「全軍には既に命令を出しましたぞ。出陣の準備をせよと」
利央の動作が僅かの間止まる。そして
「さ、流石ジーバ君!優秀過ぎて困っちゃうわぁ〜…。俺よりも魔王っぽいな!いや、まじで!!」
「そんなことよりもリオ様!どうしますかな?」
ジーバ君の言葉が弱メンタルの利央を貫く。
「そ、そんなこと?!最近魔王らしさ全然無いから地味に気にしてたのに…そんなことって…」
「…どうされたのですかリオ様?何かありましたかな?」
豪胆な性格のジーバ君も流石に凹んでいる利央に気がついた様だ。
「いつもの様に"だらけて"いたと思ったのですがな?さてはシャーリー殿を怒らせたりしたんですかな??」
「いや…もういいよジーバ君。それ以上俺を傷付けないでくれ。嫌なことからは常に逃げたいんだ俺は」
「そう言うわけにも行きませんぞ。敵にはこの前激戦を繰り広げた"使徒"アンドレ、あれと同等の者が役10名いますからな。奴らは避けては通れませんぞ」
「あ、あぁそっちね。…てかまじか!!よく考えたらそれ結構やばくね?!いやまじで!!…どうしようジーバ君!!!!」
ものの数秒で利央はジーバ君に縋り付く。その姿にはどう見ても魔王らしさは感じられない。
「安心してくだされリオ様!このジーバ、リオ様の為…この魔王軍の為ならばどこまでも尽くしますぞ!!!先ずは幹部たちを集めますかな!」
「そうだな!!おい!君!!幹部全員集合だからダッシュで呼んできて!!」
「はいっ!!」
伝令役の兵士は急いで駆け出して行く。
「実はリオ様。私の調べたところ、セオス教国のみならず帝国、王国にも怪しい動きがあるらしいですな」
「何っ?!あいつら…一回ボコしたのにまたやろうって感じなの?!」
「ですから両国国境線にも一応警備を…」
「ちょっとリオ!また戦争なの?!?!」
「マオウサマ!タダイママイリマシタ!!!」
「魔王様?!セオス教国軍が大規模な侵略行動とは本当ですか?!この"使徒狩り"ことオームの出番って事ですね!!」
「おいオーム、あまり調子に乗るな」
「クソっ、こんな奴に先を越されたなんて…竜人として私も負けてられないな」
「全くだ…俺も不覚にも空の戦いで負けるなんて…次こそは必ず」
「リオ様。新旧幹部、全員揃いました」
ゴブ一郎を先頭に次々と魔王の居室へと集まった幹部一同。
それを見てジーバ君は深々と頷く。
全く…伝令の兵士1人とっても魔王軍は優秀過ぎるなまじで。最初はただ楽して暮らしたいなんて軽い気持ちだったんだけどな。ケル吉たちとのんびり森でアウトドア生活してた頃が懐かしいな。
1人だったらこんなだるいこと絶対やってないもんな。仲間が…部下がいるから…なんてこんな臭い事を言って、らしくないわ!!
「良し!!じゃあ話し合い始めるか!!!」
それから数時間に渡って、クーズー城内には幹部たちの騒がしい声が滞りなく響くのだった。