「堕天」
「神に使えていたって…貴方何者なの?」
声の主を探す為、隣の牢屋を覗き込むリアとハンナ。そこに居たのは…
「ああ…俺の名はアンドレ。かつては"聖人"なんて呼ばれていたが…今はこの通り、ただ死を待つだけの愚かな堕天だ」
特徴的なドレッドヘアーに彫りの深い顔。上半身は大部分が包帯でグルグル巻きにされていて、背中からはうっすらと血が滲んでいた。
「堕天?…まさかとは思うけど…」
「ハンナ?何をぶつぶつと…」
「んで、お嬢ちゃんたちは何なんだ?その格好…どっかの騎士か?さっきも言ったが魔王に一泡吹かせようってんなら協力してやっても良いけどな」
ケタケタと笑いながら喋るアンドレ。上から目線のその態度にリアは若干の苛立ちを覚える。
「貴方のような者が魔王に何かできるとは思えないけど?」
「何だと?言っとくが俺はなあ!」
牢屋の壁越しなのでアンドレの表情はわからないが声の感じから苛立っているのは分かった。
すると慌ててハンナが横からリアを遮る様にして…
「隊長!ここは私にお任せを」
「え?!あ…うん…」
普段ののんびりとした雰囲気では無く、たまに見せる真剣な表情と口調のハンナにリアは思わずたじろいでしまう。
「アンドレと言いましたね?…聖人アンドレ…セオス教国の12使徒の中にそのような者がいたと記憶していますが、貴方は使徒で間違いないですか?」
極めて真剣な表情で語りかけるハンナ。
「ああ、よく知ってるな。その通りだ…いや、その通り"だった"と言った方がいいか?今はご覧の通りだよ…翼を失った憐れな"堕天"だ。…だが魔王には借りがあるんでな。お前らに手を貸すことくらいならできるぞ?」
「わ、私たちは貴方なんかの力に頼らなくたって…」
「お願いします!!」
「?!」
男の態度や雰囲気から到底役立つとは思えず、リアが断ろうとするとハンナが突然大声を上げたのだった。
「ハンナ!貴方勝手に…」
「隊長!!この方はこんなナリをしていますが、セオス教たちの崇める神セオスの懐刀として有名な12使徒の1人です。魔王軍の幹部クラス…いえ、それ以上の実力があるはずです」
「そんな風には見えないのだけど…」
「こんなナリって…まあ事実だし構わないが」
ハンナは更に大きな声で訴えかける。
「ですから是非!私たちにお力添えを!!」
ハンナの勢いに思わず黙り込んでしまうリア。
すると少しの間をあけてアンドレが声をあげた。
「いいだろう。そっちのお嬢ちゃんは気にくわない様だが…このアンドレ、お前たちに協力することを約束しよう」
「よろしくお願いします!!…良かったですねぇ?隊長ぉ??」
急に普段の調子に戻るハンナに対してリアはいつも通り頭を叩く。
「痛っ!!」
「バカハンナ!隊長は私なのに…前から思っていたのだけど、貴女って本当は…」
叩かれながらもニコニコと笑顔を浮かべるハンナ。リアはハンナの顔を見ながら何かを問いかけようとするも…
「よし!それじゃあそろそろここから出るとしよう。急がないと魔王たちも俺の元同僚も、なんて言ったけな?何とかって街に行ってしまうからな」
アンドレの声が聞こえ、リアはそれ以上何かを聞こうとはしなかった。
「はぁ…簡単に言うけどね。貴方一体どうやって…」
「こうやってだな」
「「!!」」
気づいたらリアとハンナの真後ろにアンドレは立っていた。
よく見ると牢屋の壁が僅かに壊されていて、隣の房との間に穴が空いていた。
「ま、まさかここから?」
「おっと、これも壊しとかないとな」
そして軽く跳ねたアンドレは監視カメラを殴って破壊した。
「すごいですぅ!ね?隊長??」
「そ…そうね。それでこれからどうするつもり?」
アンドレは軽く笑うと…
「ふっ…ここからは正面突破だなっ!」
そう言いながらアンドレは軽く腕を振って牢屋のドアを破壊したのだった。