「断罪」
リアとハンナが連れて来られたのは、最早人間の都市よりも遥かに発展している魔物たちの住まう魔都。その中でも、壮大であり荘厳な雰囲気を感じさせる一際目立つ巨城クーズー城であった。
「魔王様!お疲れ様ですっ!」
「おう!」
「魔王様!その人間はどうされたんですか?!」
「ちょっとね〜」
「魔王様〜、新しい料理考えたので今度味見して下さいっ!」
「まじか!!楽しみにしとくわ!」
場内ですれ違う亜人たちは皆魔王に対して好意的な声を掛ける。
その様子をリアとハンナの2人は驚きの表情で見つめていた。
「なんでよ…極悪非道の悪魔のはずでしょ?なんで部下に慕われてるのよ…」
「何か言いましたか?隊長ぉ?」
「…なんでもないわ」
2人はそのまま城の地下にある、以前収容された事がある牢屋へと収監された。
「よし、しばらくここで待機な!…我が魔王軍では人殺しは基本的に死刑か魔法の実験に使われることになるから!!覚悟しといてね」
「えぇ〜?!ちょっと待ってくださいよぉ〜!私たち亜人さんを殺したりなんてしてないで…」
「黙りなさいハンナ!!敵に命乞いなんて騎士として恥ずかしいわよ…。ついに本性を現したわね…悪魔め」
親の仇を見るかのような鋭い眼光で利央を睨みつけるリア。
しかし当の本人は…
「それとも女だし、亜人と人間の交配実験なんてのも良いかもな。なんかより強い種族が誕生しそうだし…課金ガチャ的な?うん、凄え面白そう。一考の価値ありやな」
楽しそうにブツブツと独り言を言っていた。
「い、今何か恐ろしい事が聞こえたようなぁ…」
「…クズね」
リアたちが連れて来られたのは地下牢。以前収容されていたのと同じ場所のようだが…
「じゃああとはよろしくー」
「了解です魔王さま」
利央は見張りの亜人にリアたちを渡すと何処かへ行ってしまった。
「なによこれ?!こんな広かったかしら?!」
「凄いですぅ…何人収監出来るんですかね〜これ」
以前とは比べ物にならない程独房の数が増えていた。そしてただの空間が広がっていただけであった独房内にはベットと机。それに見たことのない水の溜まった容器が板で隠されるようにして設置してあった。
「これは何?…水飲み場?」
「うぇっ!!辞めてくれよ人間の嬢ちゃん。トイレの水を飲むなんてよ」
見張り役の亜人だろうか何の種族かは分からないがリアの言葉に引きつった顔で反応した。
「といれ?…なんだ何なの??我々を悪魔への供物にでもするの!?」
見張りの亜人はやれやれといった風に首をかしげると無言でその場から離れて行く。
「ハンナ、やっぱりこの場所はやばいわ。急いで逃げないとあの悪魔に…」
「落ち着いて下さいよ隊長ぉ〜。今回もこの前みたいにお婆ちゃんが助けてくれるかもしれないしぃ」
「いやぁお嬢ちゃん?今回はそんなことは起きないよ?」
「なに?!?!どこからっ?!?!」
突如として地下牢全域に聞き覚えのある声が響く。
「この声は…あの悪魔ね」
「どっかで見たことあると思ったら、結構前に捕まってた2人組だったんだね君たち。どうやって逃げ出したのかは知らんけど、もうそんな事できないからね??牢屋の天井を見てみ?」
2人が天井を見上げると…
「あれは何??」
「魔石…ですかね?」
「それは正解でもあるけど不正解だね。正確には我が魔王軍の技術開発班が作り出した"防犯カメラ"だね」
「…何よそれは?」
「君らの行動は常に見られてるって事だから。変な行動は起こさない方がいいよ?ただでさえ俺の部下を殺した疑いがあるんだからさー。本当だったら直ぐにでも…まあいっか。兎に角変なことはしないよーにね〜」
何処からか聞こえていた声はそれ以降聞こえなくなった。
「見られてるですって?そんな馬鹿な事が…」
「試して見ます?…えいっ!」
ハンナが見張りが離れた隙に牢屋の扉目掛けて魔法を発動させると…
「おいっ!!何をしているっ!!!」
遠くにいたはずの見張りが直ぐに駆けつけてきた。
その見張りはよく見ると耳に魔石をはめていた。
「す、すいませんでしたぁ〜もうしません〜」
「次やったら上に報告するからな?」
見張りは再び巡回に出たようだ。
「うーん…どうやら本当に監視されてるみたいですねぇ〜。そんな技術が実現できるなんて…危険というよりは…」
「というよりは何?ハンナ?」
「なーんて…なんでもないですよぉ〜隊長?」
「…まぁいいわ。私の占術は空間を移動するまでは出来ないけれど、お婆ちゃんに連絡することはできるわ。…しかし、あの悪魔を目的として来たのだから殺されるような事が無ければ出来るだけ近くで機会を伺いたいものだけれど…」
「そうですねぇ〜。魔王までは幾重もの壁がありそうですけどね…」
リアとハンナが相談を重ねていると…
「おい!お嬢ちゃんたち?魔王になんかすんのか??」
「っ!!誰?!」
となりの独房から聞き慣れない声が聞こえた。
「まぁまぁ、そう警戒すんなよ…俺はアンドレ。以前は神に仕えていたんだ。それでお嬢ちゃんたち?ここを出たいってんなら協力してやってもいいぜ?」
そこには翼を失った使徒の姿があった。