「影の国王」
「ルシュコール公!やったぞ!!モルガン公は行方不明だそうだ。この戦争は私の…んんっ、我々の勝利だぞ!」
南部の大都市モルガンが魔王軍の軍門に降り、反王家派の組織だった反抗が完全に集結したとの一報を受けてオベロン王国現国王オスカー・ネル・オベロンは喜色の色を隠せないようだ。
「ふっ…そうですね。魔王軍が上手いこと彼奴らの軍勢を片付けてくれましたね」
ルシュコール公はこの世界では高価な魔導具として知られる眼鏡を磨きながら、その鋭い表情を崩すことなく答える。
「それに魔王軍に奪われた土地も殆どが元反王家派貴族の領地。我々には痛くも痒くも無いときた。こんなに上手くいくとは…流石であるぞルシュコール公!」
「ええ、幸運でしたね」
「何を言うかルシュコール公。これも全てそなたのお陰ではないか!この勝利はそなたの知恵あってのこと、望む物なら何でも褒美として与えようではないか」
非常に機嫌の良いオスカー王の様子を見て、ルシュコールは突然…
「ふっ…ふふふふ…はっはっはっは!!」
大声で笑いだす。
「ど、どうしたのだ?ルシュコール公よ」
困惑するオスカーを見ると、ルシュコール公は相変わらず鋭い眼光で王を見ながら言うのであった。
「ふっ…オスカー王、いや…オスカー・ネル・オベロンよ。私の望むものはただ一つだ」
「そ、それは一体…」
するとルシュコール公は、腕を真っ直ぐに伸ばして、そのままゆっくりと上昇させていく。
そしてそれはオスカー王の顔の高さのところで止まり、真っ直ぐに伸びた人差し指はオスカーを指していた。
「ど、どういうことなんだ!ルシュコール公!」
「ふっ…私が欲しいのは王座…それ以外にありません」
謁見の間には沈黙が流れる。
周囲の国王派の貴族たちは静観を貫いている。
「じ、自分が何を言っているのか分かっているのか?ルシュコール公」
「ええ、もちろん。私はその玉座がほしいのですよ。…平凡王よ」
オスカー王の顔は次第に赤く染まって行く、
「ぶ、無礼者め!!誰かこやつをひっ捕らえろ!!!」
………。
しかしオベロン王国の現国王の命令を受けても、付近にいる近衛は微動だにしない。
「何をしている貴様ら!!早くこやつを捕らえろ!!!」
しかし動き出す者はいない。
「ふっ…ふふふふふ、はっはっはっはぁー!!まだ気づかないのですか?オスカー王よ」
「何がおかしい!!」
ルシュコール公はオスカー王を嘲笑う。
「最早貴方の味方は誰もいないのですよ!」
貴族たちは国王の近くから、両手を広げ大きく笑うルシュコール公の後ろに移動する。
「なっ…お前たち…」
「彼らは私に着いたのだ。…数百年に続いた無能なオベロン王家による統治をここで終わる。これからは私がこの国を治める」
「何を…」
ルシュコール公はオスカー王の絶望に満ちた表情を鼻で笑うと…
「おいっ!こいつを捕らえろ!牢に入れておけ」
「はっ!!」
近衛たちは直ぐに動きだし、オスカー王を拘束する。
「…ルシュコール公よ!お前は必ず後悔するぞ!オベロン家の血筋とは無関係の貴様が統治するなど愚の…」
「ふんっ、統治は血でするものでは無い。頭でするものだっ!愚か者め!」
そしてオスカー王は地下の牢屋へと引きずられて行った。
玉座に座ったルシュコール公は、鋭い表情のまま小さな声で呟く。
「遂にこの時が…ふん。待っていろ、、、セオスめ」