「再会」
「隊長〜、ここどこですかぁ〜?」
デズデモーナ大森林を進む2人の乙女。ナオス騎士団所属のリア・タナルカ・アーネル
とその部下ハンナは遭遇した魔王軍兵士を上手く掻い潜りながら進んでいた。
「うるさいわね…まったく、、、真剣な時は頼もしいのに、普段の貴女ときたら…」
「ちょっと隊長〜!どういうことですかぁ?」
「良いから行くわよ!ヘルハウンドの鳴き声のようなものが聞こえたわ…きっと近くにいるのよ、早くこの辺から離れないと!」
「隊長?今のはヘルハウンドでは無くてケルベアーの鳴き声だった気がしますけど〜?」
「………。け、ケルベアーならあの悪魔が従えていた奴の可能性があるわね。…しかし私たち2人でケルベアーを倒せるかしら?いや、私の占術の中でも最大の…」
「ちょっと隊長?なにブツブツ独り言を………って、何か来ます隊長!!隠れますよ!!」
「えぇ?!ちょっと!…」
ハンナは素早い動きでリアを掴んで近くの茂みに隠れる。
「ヒャッッッホーーーーーーー!!!」
ビュンッ!!
上空から奇怪な声が聞こえた直後、2人の真上を何かが高速で通過していった。
リアとハンナは思わず顔を見合わせる。
「い…今のは…?!」
「さあ………!!隊長!!隠れてっ!!!」
「ん?!ふぐぅふぐ!!!」
ハンナは咄嗟にリアの口を塞ぎ、体を伏せた。
「バゥゥゥゥゥウ!!!」
「シャァァァァァア!!」
2人のすぐ脇を通りかかったのは三つ首に鋭い牙、樹々をなぎ倒す程の怪力を持つ猛獣ケルベアー。それに漆黒の鋼鉄のような鱗と即死級の猛毒を持つ大蛇ヴェノムボアの2匹だった。
「…しぃーっ」
ハンナはリアに向かって、口の前に指を立て静かしにするように促す。
ケルベアーだけならまだしも、ヴェノムボアまでいるとなるとただの人間である2人には万が一にも勝ち目は無い。それこそこの2匹に勝てるとなると英雄級の人物でないと無理だろう。
その為、ここで見つかれば一瞬で終わってしまう。
2人はじっと息を堪え、祈るようにして2匹の動向を伺う。
「………………………………」
目の前を2匹が通り過ぎるまでの1秒1秒が、2人にとっては非常に長く、そして非常に重く伸し掛かる。
そして2匹の姿が視界から消えかけたその時だった…
「……………………………きゃっ!」
「隊長?!?!?きゃぁぁあ!!」
思わず出してしまった声は、大森林の中で頭上の木々から落ちて来た1メートル近くのムカデの所為であった。
「バウ?!」
「シャ?!」
当然2人の声に気づいた2匹の魔獣は、2人の隠れる茂みへと近づいて行く。
「もうやるしか無いわハンナ!」
「で、でも隊長〜絶対勝てませんよ〜!」
「馬鹿ハンナ!こんな時にいつもの頼りない貴女に戻るのはやめなさい!!」
「だってぇ〜…しょうがないなあ。私も戦ってみますよ!!」
半分投げやりな様子のハンナも、己の腰に刺してある剣に手をかける。
「私の占術で攻撃を予測して避けるから!ハンナはその隙をついて攻撃しなさい!!」
「全く無茶な事いうなぁ…分かりましたよ隊長!」
「ふっ……来るわよ!!ハンナ!!」
「はいっ!!」
「バゥゥゥゥゥウ…バウッ!!」
「シャァァァァァア…シャアッ!!!」
2匹はその巨大な身体で2人に向かって突進する。
リアは鞄から手のひらサイズの小さな水晶を出して、それに魔力を込める。
すると水晶は発光し始め、リアの額には小さな魔法陣が浮かび上がる。
「ハンナッ!蛇が左前方から、熊が右前方から来るわ!!私は真ん中を突っ切るから!!!その隙を突きなさい!」
リアはそう叫ぶと、前方から猛スピードで迫って来る魔獣たちに向かって走り始める。
「そんな無茶な!!隊長!!!…まったく」
ハンナもリアに続いて走り出す。
見るからに凶悪で巨大な魔獣が迫って来る所へ突っ込んで行くのは、一見すると自殺行為に見えるが…
「見えたわ!!…ここよっ!」
リアの額の魔法陣がより一層強く浮かび上がると、ハンナの手を引っ張り目の前まで迫った2匹の間にある僅かな隙間に滑り込む。
「ひぃぃぃぃいい!!」
2人は間一髪で魔獣と魔獣の隙間を通り抜けた。
「バウ?」
「シャア??」
2匹の魔獣は互いに不思議そうに顔を見合わせる。目の前にいたはずの人間が急に消えたために、少し混乱しているようである。
そして2匹が消えた2人を探そうと振り返ると…
「斬撃ッッ!!!!」
「「?!」」
背後から切断性のある衝撃波のようなものが飛んで来ていた。
そしてそれはヴェノムボアよりも防御力の低いケルベアーを狙ったものだった。
「もらったぁ!」
ハンナは渾身の一撃を放ち、手応えを感じているようであった。
斬撃はケルベアーに迫り、そして…
「シャァァア!!!」
「何っ?!?!」
「そ…そんな馬鹿な…」
ケルベアーに迫った斬撃を庇うようにしてヴェノムボアが身を呈して受けたのだった。
「助…けたのかしら??」
「そんな馬鹿な…魔獣のはずですよ?!」
「バウッ!」
「シャアッ!!」
2匹の魔獣はハイタッチをするかのように首と首を当て合っていた。
「魔獣が連携するなんて…そんなの反則よ…」
「ど…どどどどどうします隊長!この後は!」
「ど…どうするって…私の魔力はさっきの占術でもう尽きてしまったわ」
「そ、そんなぁ…!!、来ますよ隊長?!」
ヴェノムボアは俺に任しておけと言わんばかりにケルベアーを退けさせて、何やら口に紫色の塊を貯め始めた。
「不味いですよ隊長!!触るだけで致命傷と噂のヴェノムボアの毒腺ですぅ〜!!」
「くっ…こんなところで…終わるわけには…」
リアは拳を力強く握りしめる。
「シャァァァァァア!!!」
しかし無情にもヴェノムボアは今にも毒の塊を2人に向けて発射するところで…
「おぉーい!スネ夫〜ケル吉〜!!」
上空から男の声が響いた。
「シャアッ!!シャアシャアッ!!!」
「バゥゥゥゥゥン!」
するとそれまで臨戦態勢だった2匹は急に子犬のように甘えた鳴き声を出し始める。
「なんだその人間は??…ん?どっかで見たことあるような気が…」
リアとハンナは腰を抜かして倒れてしまっていたが、空から現れた男の姿を見て直ぐに立ち上がる。
「た…隊長?もしかしてあの男って…」
「えぇ、そうよ…また会ったわね悪魔め」
こうして乙女たちは再び魔王と相見えたのだった。