「乙女の意志」
「隊長〜、そろそろ休みませんかぁ〜?ねぇ、隊長ってば〜!」
占い婆の館から元帝国領バフースを目指した旅に出たリアとハンナ。
デズデモーナ大森林の北部に広がる大山脈の更に北側。山嶺の合間にひっそりと佇んでいた占い婆の館を出てから数週間。2人は殆ど休む事なく歩き続け、ようやく長きに渡る山脈地帯にも終わりが見えて来たところであった。
「いや…もう少し進むわよハンナ。あと少しであの悪魔が治める大森林に入るはず、、、森に入ってから休むわよ」
「でも森に入ったら魔王軍とかいて休めないんじゃないんですか〜??」
「…」
「ねぇ隊長〜!?それ休ませるつもりありませんよね?!?!」
涙を浮かべながら懇願するハンナを無視してリアはひたすら足取りを進める。
幸いなことにここまで野生の魔獣や亜人との遭遇は無かった2人だが、デズデモーナ大森林を前にして…
「…!!ハンナっ!静かに!!」
何かに気づいたリアはハンナに静かにするように促すが、、、
「隊長〜、そうやって怒鳴りつければいつまでも私が言うことを聞くと思ったら大間違いで…あ痛っ!!!」
ハンナの頭を殴りつけたリアの視線は、目の前に広がる大森林の入り口に立つ2人の亜人を捉えていた。
「静かにっ!!あれを見なさい!」
「ほへ?…あぁー!」
「馬鹿っ!!」
ハンナの大声に反応して、2人の亜人…毛深くなった人間のような姿をした亜人が音に反応してリアたちの元へと近づいてくる。
2人はとっさに近くの茂みに隠れる。
「おい!なんか声がしなかったか?!」
「あぁ、たしかに聴いた…それも人間の女の声だったぞ?!」
2人組の亜人は見るからに高級そうな装備を身に纏い、それぞれが上位の冒険者が手にするような属性が付与された剣を持っていた。
「…魔王軍の兵ですかね?」
普段の口調とは異なり真剣な様相を呈したハンナの表情に、リアも一段と気合いが入る。
「…そうね、あんな上等な装備をただの亜人が持てるわけないもの。それにしても…なんて種族なのかしら?」
「あれは猿猴ですね。猿と人間が混ざったような亜人です」
「ハンナ?!なんでそんな事知って…」
「隊長!奴らは鼻がとても良いです!!それに奴らの大好物は人間…それも若い女です」
「居たぞ!!!人間の女だぁ!!」
猿猴と呼ばれた亜人たちは2人の存在に気づいたようだ。
「仕方ないわね…早速占術で私が…」
「隊長!本当にやるんですね?」
ハンナはいつになく真剣な面持ちでリアに尋ねる。
「ここでこの亜人たちと戦うという事は…魔王軍全体から狙われることになりますよ?」
ハンナの言葉を受けてもなお、リアの顔に浮かぶのは恐怖や迷いではなく…その瞳に宿るのは彼女の固い意志であった。
「えぇ!分かってるわよ!!最初からそのつもりで来たんだから!!あの悪魔を止めるのが私の役目…いえ、私の宿命なのよ!!!」
力強く言い放ったリアを見て…
「分かりました隊長…やはり団長の言った通りだった。リア・タナルカ・アーネルは強い人間だったのね」
「何ボソボソ言ってるのハンナ!!来るわよ!!」
「はい!隊長!!」
こうして2人は向かってくる猿猴たちと対峙するのであった。