「帰還」
「ちょっとリオ!!!一体なんなのよ!!」
「おぉぉぉおおおおお!龍?!…まさか龍ではないか!?おぉぉぉぉぉ、生きているうちに本物の龍を見れるとは…」
「フォーブル先生…よ、良かったですね」
「龍だぁあ!迎撃を!!」
「待て!!魔王様が龍の上に乗ってらっしゃるぞ!!」
利央が居城であるクーズー城に龍に乗って帰還した際は、魔王軍は完全にパニックに陥っていた。
「ただいまシャーリー!どうしたの?そんなに慌てて」
「………ただいま」
クーズー城の城壁に降り立った利央にシャーリーとフォーブル、ソフィーが駆けつける。
「あら!!ナナちゃんじゃない!久しぶりねぇ………じゃなくて、今はあの龍たちよ!!なんなのあの龍たちは!」
シャーリーは久しぶりに会ったナナの頭を撫でながらも利央に詰め寄る。
「前に言ったじゃん!ナナちゃんのドラゴン部隊って!!それだよ!ねー?ナナ?」
「………うん。みんな友達」
ナナはそう言うと、ここまで来るのに乗っていた一際巨大な白い龍であるハクをポンポンと撫でる。
「と…友達って…」
シャーリーは力無くヘタヘタと地面に座り込んでしまう。
「ちょっとちょっとシャーリーさん?少し大袈裟過ぎない?ドラゴンなんてこの世界にはいっぱいいるんでないの?」
「ドラゴンはたくさんいますが、"龍"は違うんですよ魔王さん」
「ドラゴンと龍って同じじゃない…って誰?!?!?!」
「ああ、これは失礼。私は亜人研究家のフォーブルこちらが…」
「助手のソフィーです」
フォーブルとソフィーは改めて利央に自己紹介する。
しかし利央は…
「う、美しい…」
その瞳はソフィーを固定したまま動いていない様子である。
「こ、この感じは…またか」
それを見てフォーブルはやや呆れ気味に呟く。
「先生、"例の"話を魔王様に…」
ソフィーはそう口にするが
「いや、今はまだ…それよりも龍たちだ。魔王さん、ドラゴンと龍は生まれから強さから何もかもが違うんですよ」
「んんー、ダークエルフに似てるが…色が違うしなぁ………え?何?」
フォーブルは呆れながらも続ける。
「ドラゴンってのは魔王軍にも元々何体かいるって聞いてるぜ。ワイバーンとかも分類上はドラゴンの一種だ。確かに魔獣などに比べれば強いがそこまでじゃない。知性も有していないしな」
「ああ、ワイバーンならドラ男君の部隊に一杯いるな。…で龍はどう違うの?」
「はっきり言って龍は別格だ。そこに"白龍"もそうだが、特に成長した龍…数百年以上生きた龍は1匹で大国の軍隊をも凌ぐ。私が見たところそんな龍がそこ白龍とあそこにいる緑龍で2匹もいる…空を飛んでいる龍たちは生まれて数十年と言ったところか、まだ子供だがそれでも十分すぎるほどの強さを持っている、それに龍たちは…」
そこまで言いかけたフォーブルだったが、それ以降を口にする事は無かった。
「へぇ、ハクとチャカがねぇ…」
「………みんな強いもんね」
「そうだなぁナナ」
ここでフォーブルは利央と話す白髪の少女に気がついたようで…
「その少女…その腕は?!?」
「………」
フォーブルの言葉を受けて、ナナは不快そうに自分の腕を隠した。
…が
「大丈夫だよナナ、隠さなくって良い……腕がどうかした?亜人研究家さん?」
利央は明らかに不機嫌な様子でフォーブルに問いかけるが…
「じ、実に興味深い!!もっと近くで見ても良いだろうか?!それにその鱗に触ってみても?龍のようにみてるが…その腕で私を殴ってもらっても良いだろうか?」
「え、…え?」
予想していた答えと全く別のものが返ってきた為に、利央は拍子抜けしてしまう。
「………なんか嫌」
「頼む!!お願いだ!!そのような興味深い、美しい腕は見たことがない!!構造や成分など…強度も知りたいな!!頼む!一回私を殴り飛ばすだけで良いんだ!!」
「せ、先生…」
「何こいつ…ヤバイな」
「……美しい…………じゃ、じゃあ一回だけ…」
「おぉぉぉぉぉ!!ありがとう!!ありが…ごふぅぅぉぉおおおおお!!!!!」
感謝しながら吹き飛ばされていくフォーブルの姿を見て一同は言葉を失っていたが…
「笑ってるみたいね、ナナちゃん」
いつの間にか利央の隣に来ていたシャーリーの言葉通り、ナナは心なしか笑顔を見せていた。
「だね。悪い奴…じゃなさそうだな、あの変態」
「あ!そうだソフィー、貴方たちってリオに話があったから来たんじゃなかったかしら?あれ?それともオームが連れて来たんだっけ?」
「ああ、それならまだ大丈夫です!今は色々と大変そうですので、またの機会に…」
「ふーん…あ、リオ!ジーバさん達は??」
「ああ、背中に乗れる龍がハクだけだったからジーバ君たちはスケルトンウォリアーに乗って陸路で帰るよ、あの数日はかかるかな」
「そうなのね………それで、これからどうするの?」
シャーリーの声のトーンは、それまでの穏やかなものから真剣味の増したものになっていた。
その様子をソフィーも鋭い目で観察しているようであった。
「うーん、取り敢えずみんな帰ってから話すけど…決まってる?てか避けらなさそうな事はあるんだよねぇ〜」
「それって…」
「使徒たちとは近いうちに必ずぶつかるんじゃないかなあ」
「使徒…」
ぼそりと呟いたソフィーの目には、穏やかな口調ながらも拳を固く握っている魔王の姿が映っていた。