「侮り」
「12使徒が一人アンドレの戦死に合成獣一匹の喪失だと?…あり得ん!!!その報告は真実なのか?!?!」
セオス教は総本山、セオス教国の首都。大神官と創世官によって開催される教国の意思決定機関である円卓会議において、教国の実質的トップである創世官は愕然とした表情でそう叫ぶ。
「ええ、器に宿ったセオス様からの御言葉ですから間違い無いかと」
これまで多くの場において姿を見せてきた、一際目立つ巨大で純白な翼を持った使徒が表情一つ変えずにそう述べた。
議会は使徒の言葉を受けて更に沈黙が加速する。
「じゃが…一体誰に、、、」
「あの男しかいないだろう」
大神官の一人の言葉に答えたのはいち早く冷静さを取り戻した創世官であった。
「あの男…魔王の事か…」
「しかしモルガン公とやらの救援の際、撃退した魔王軍には使徒を討ち取れるような敵はいなかったと聞いているぞ?」
「それに"あの"合成獣はモルガンの民を生贄にかなり強化されていたはず…対人では負けることなど…」
「フッフッフッ…皆さん、敵は数千年前にセオス様を討ったかの魔王と同じ力を持つとされている魔王なのですよ?少し敵を舐めすぎてませんか?」
「シモン…やめないか」
シモンと呼ばれた使徒はこれまで見てきた魔王軍の情報から、大神官たちの反応に対して苛立っているようで、丁寧な言葉遣いとは裏腹にその場に殺意の波動を放っていた。
大神官達の間に緊張が走るが…
「フッ、まあいいでしょう。兎に角敵は我らが使徒を既に2人も倒しているのですよ?アンドレは誰にやられたか知りませんが、イスカリオに至っては敵の配下の1人…それもオークなどという低俗な亜人によってね」
「そうじゃったな…」
「我々は少し侮り過ぎていたようだな…」
シモンは大神官たちの様子は気にもとめず、上空を見上げる仕草で続ける。
「セオス様からの啓示では早く復活の儀を執り行うよう言われております。あの魔王が何か強大な力を手に入れたらしく、このままだと世界の理が傾きかねないと仰っていました」
「強大な力とは…セオス様はその力をお見になったのか?」
創世官の質問に使徒シモンは首を横に降る。
「いえ…しかしこの世界における巨大な力の一角が魔王に組した恐れがあるとの事でした。そうなってしまうと世界のバランスが崩れ、いずれはセオス様でさえ………これ以上は私の口からはとても…」
嘆き悲しむ仕草を見せるシモンを見て、大神官たちは顔を見合わせる。
その様子を見て進行役の創世官は声を大にして議論を再開させるのであった。
「それでは、我らが創造神セオス様の"復活の儀"について大至急準備を進めよう」