「旅立ちの乙女」
「じゃあお婆ちゃん!行ってくるね〜!!」
「お婆ちゃん…今までありがとうございます」
「リアよ…本当に行くのじゃな」
占い婆は心なしか悲しそうな表情を浮かべる。
「今や魔王として知られるあの男じゃが…私等がここで修行している間に更に力を付けたようじゃ…リアよ、最早あの男の元に辿り着く事すら困難かもしれんぞ?」
占い婆の言葉を受けても、リア・タナルカ・アーネルの表情に迷いはない。
「分かってるよお婆ちゃん、でもね…あの悪魔を止めるのは私の役目なの。私が止めなきゃならないの…」
リアは自らの手を見ながら内に秘めた想いを馳せる。
「隊長って本当にあの人の事ばっかり考えてるんですね〜」
「ハンナ!!あの悪魔の事を考えてるのはどうやって倒そうか考えてるだけであって…」
「何が隊長をそこまでさせるんですかぁ〜?」
普段と同じ様に腑抜けた感じの口調で話すハンナだが、この質問の際はその視線が鋭く光っている…様な気がした。
「あの悪魔の始まりを…あの男がまだ一人だけだった頃に私はあの男に会ったの。あの時はこんな…手が付けられないような魔王になるなんて思いもしなかったけれど…。もしあの時にきちんと拘束していたらこんな事には…」
リアは遠い昔を思い出している様な気がしたが、実際には僅か一年程前の事である。
それ程までにこの一年はリアにとって時の流れを忘れる程の激動の一年であったのだ。
「へぇ〜、隊長って責任とか感じるタイプだったんですね〜。私みたいな可愛い女の子の頭をいつも叩いてることにも責任を感じて欲しいですけどぉ〜」
「うるさい!」
「あ痛っ!!」
二人のやり取りを温かい目で見守っていた占い婆だったが
「うんうん。リアよ…いつかハンナの存在がお前さんを救うかも知れんぞ?もしくはお前さんを破滅させるかも知れんがのう」
「えぇ?!お婆ちゃん何言ってんの〜?!私がそんな…」
「そうだよお婆ちゃん!!こんな役立たずが私の命運を握ってるなんて………占いで見たの??」
「隊長〜…や、役立たずって…」
占い婆は誤魔化す様に
「さあな。年寄りの戯言じゃよ…。さて、リアよ。お前さんの"占術"、その能力自体はかなりのもんじゃが…」
「隊長、魔力量はゴブリン以下ですもんねぇ〜…あ痛っ!!!」
ハンナの脳天には再び拳骨が炸裂する。
「分かってるよお婆ちゃん、私が1日に使える占術は数回だもんね。気をつける」
「分かってるなら良いんじゃよ…魔力量はそう簡単には増えたりしないからのぉ。それこそ"才能"なんじゃろうな〜」
「ですねぇ〜。でも私は占術も使えなかったし、そういう意味では隊長なんかにも才能があったんですね〜」
「…なんかにも?」
「あ…いやぁ〜口が滑ったと言うかなんというか…」
再び拳骨が繰り出されそうな不穏な空気が流れる中
「それでお前さんたち、何処へ向かうのじゃ?」
占い婆の言葉で鉄拳制裁を中止したリアは
「うーん、取り敢えず内戦中の王国は避けようかなって思ってる。帰ったら騎士団に召集されちゃいそうだし」
「隊長ってナチュラルにクズですよね〜」
「違っ、今召集されたらあの悪魔を追えないからであって…」
「それならば元帝国南部都市バフースでも目指したらどうじゃ?」
「でもお婆ちゃん、そこって確か…」
「今は魔王軍の管理下じゃのぉ」
リアとハンナは顔を見合わせる。
「まあ、占って見たらそこに行くのが一番"核心"に迫れるらしいのじゃ」
「核心??」
「まあまあ、お婆の最後の助言じゃよ。素直に従って損は無いぞ」
「そうですよ隊長〜、お婆ちゃんの言う通りバフース?に向かいましょ〜」
リアは何故か急に真剣な表情になったハンナを不思議に思ったが…
「そ、そうね。じゃあ最初の目的地はバフースにしましょう。それじゃあお婆ちゃん!今度こそお別れね。今まで本当にありがとう!」
「じゃあね〜お婆ちゃん〜!」
こうしてリアとハンナ、ナオス騎士団魔王対策部隊(仮)の二人は占い婆の元を後にする。
「バフース…神セオスか…運命ってやつはこうやって交差していくのかのぉ」
二人の背中を見ながら占い婆はなんとも言えない表情で静かにそう呟いたのだった。