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クズが異世界を通ります  作者: 山崎トシムネ
第6章「クズ VS 神」
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「vsアンドレ(後)」

「魔王ちゃ〜ん?魔王ちゃ…!!」



利央は横から問いかけてきたミランダに向けて片腕を振り上げると、至近距離で闇球を放った。



「きゃあっ!!」



ミランダは魔法の直撃を受け、大きく後ろに吹き飛ばされる。



「ハッハッハッハァー、仲間割れの上に自爆だと?!気でも狂ったか人外の王よ」




爆煙の中から現れた利央は、ゼロ距離で炸裂した自らの魔法の被害を受けて血まみれであったが…



「コロス…ミナゴロシダ」



相変わらず理性を失っているようで、自らの傷は気にもしない様子である。




「あ痛たたたぁ…中々効くわねぇ魔王ちゃんの魔法は」



吹き飛ばされたミランダは無事な様子であったが…



「ふんっ、相変わらず醜いな。魔人よ」



「相変わらず失礼ね!!これだから天使は…全く、レディになんて事言うのよぉ」



アンドレの言葉通り、至近距離の魔法を防ぐために魔人としての力を行使したミランダの顔は、先程の美しい顔とは打って変わり歪な化け物へと姿を変えていた。


そして身体中に赤い模様が浮き出ていて、深い青色の肌に浮かび上がる真っ赤な紋様は、純白を好む使徒のアンドレからすると決して綺麗なものでは無かった。



そして頭から生えた二本の角とその歪で凶悪な容姿は、日本で言うところの"鬼"にそっくりであった。




「この姿じゃないとぉ…危なかったかもねぇ」



ミランダの口調からは普段のおっとりとした話し方とは違い、少し真剣な雰囲気が感じられる。




「ふんっ、さながら狂戦士といったところか?…愚かな化け物め」



アンドレはそう吐き捨てると、再び両手を天にかざす。



「全ての始まりにして全ての生みの親、偉大なる創造神セオス様の理想郷にお前ら人ならざる者の居場所は無い!…これは浄化だ!私とて使徒の1人。この姿になったからには私欲を捨てお前らを滅ぼすとしよう」



空には再び黒雲が集まる。



「魔王ちゃん!来るわよぉ〜!って、聞こえてないわよねぇ」



利央は怒りのままにアンドレに向かって走り出すが…



「愚かな…天罰!!!」



アンドレは無策に突撃を繰り出す利央に向かい、先程と同じ魔法を詠唱する。



「危ないわよ魔王ちゃん!!」



攻撃力こそ並外れたものがある利央であるが、その防御力となると人並み程度の物しか無い。


日々鍛錬を繰り返し、利央への攻撃を常に防いで来たゴブ一郎が一撃でやられた魔法を利央が食らうとなると…




黒雲から生じた雷は真っ直ぐに利央目掛けて降り落ちる。




「魔王ちゃん…ここまでの男だったのかしらねぇ」






ミランダが悲しそうにそう呟いた刹那。



雷よりも速く風を切り裂いて疾風の如く現れた巨大な影が爆風を生じさせ、神の怒りが如き雷と相殺させた。





「何だ?!?!これは一体…」



あの自信家であり神の執行者であるアンドレでさえ、目の前の光景に思わずたじろいでいるようだ。



「魔王ちゃん…の仲間なの?この…龍たちは」




先程までの戦場…王国南部都市モルガン上空には、物語や神話で謳われるような巨大な龍種が数頭…いや、数十頭は旋回していた。




そして雷から利央を守った、一際巨大な純白の龍の背中には…



「………間に合った」



戦場には余りにも不釣り合いな可憐な少女がちょこんと座っていた。


将来はさぞかし美しい女性へと成長することを予感させる整った顔立ちの少女は、彼女の乗る純白の龍のように真っ白な髪をしている。


そしてその少女の腕にはまるで龍のような鱗が生えていたのだった。




「龍ねぇ…それも本物の」




「あり得ん…プライドの高い龍種がこんなにも集まって…セオス様ですら"創り出せなかった"龍種がこんなにも…」




驚愕する2人を他所に、少女は龍から降り真っ直ぐに利央の元へと向かう。



パタパタパタと走った少女は、そのままの勢いで利央に抱きついた。



「………やっと会えた」



常に無機質な表情を浮かべていた少女だったが、ここに来て初めて笑顔を見せる。




しかし、利央は未だに理性を失ってしまっている。



「コロス…コロス…コロス…ニンゲン、、、ニンゲンモナニモカモミナゴロシダ」



利央は抱きついて来た少女に向かって魔法を発動させようとするが…





「………ナナの事忘れちゃった?…この腕も?」




ナナはその龍のような腕で利央の頬を触る。







(コロセ…コロセ…コロセ…ニンゲンハミナゴロシ…ソバニアルモノスベテコワセ)




利央の頭の中に常に鳴り響く聞きなれぬ声。



自分の事ならばどんなことでも笑って流せるが、自分を慕ってくれる部下…仲間の事となると直ぐに頭に血が上ってしまう。



ゴブ一郎やアラちゃんがやられたのを見て、怒りの感情が自分の中から溢れて来た。



そして怒りがある点を超えると、突然身体が言う事を聞かなくなって、辺りの音も聞こえなくなってしまう。



聞こえて来るのは悍ましい声だけだ。





今もそう、自分が何をしてるのか、何処にいるのかも分からない。



聞こえて来るのはさっきから同じ事ばかりだ…



人間を殺せ。全て壊せ。



でもそんな声が段々と心地よくも感じて来たりもする。



何というか、温泉の寝転びの湯的な場所でそのまま眠ってしまうような…体全体がとろけそうな心地良さ…



もうこのまま全てを委ねて眠っちゃおっかな〜なんて、今はそんな事を考えて…



「…た」



ん?何か別の声が



「…な…こと…わ…たの?」



なんか聞き覚えのある声がする。




「この腕も?」





!!!!!!!!!!!!!!!!!!!







「いや…忘れてないよナナ。相変わらずかっこいいなその腕」





「………!!ただいま!」




目の前で天使のような笑顔を見せるナナに利央は思わずニヤニヤしてしまう。



危ない危ない、あのままとろけちゃってたらこの笑顔を見れなくなる気がしたわ。




「あら魔王ちゃん、正気に戻ったようねぇ」



「あ、姐さん!俺なんかやばいことしてた?」



「うーん…私に闇属性魔法をぶち込んだことぐらいかしらぁ?」



「………ごめんなさい」




そして都市の上空から龍を恐れて降りてきていたアンドレも、利央の様子に気がついたようだ。



「ふん!正気に戻ったか人外の王よ。見ての通り龍種がこんなにも集まるとは、流石の私も手に負えないのでな、今回の闘いは取り敢えず引分けという事でどうだろうか?」



アンドレの言葉に利央は…



「は?」



「ん?だからお互いあの数の龍種は手に負えな…」



「いやいや、あの龍たち多分俺の部下だから」



「そうであろう、だからこの場は………ん?」



「そうだよね?ナナ」



「………うん!」




よしよしとナナの頭を撫でる利央を他所に、アンドレは正に開いた口が塞がらないといった表情で静止していた。




「ふう、なんか身体中痛いしそろそろ帰ろうか。そういえばジーバ君はどうなったんだろうか」



「あのリッチさんならまだ戦ってると思うわよぉ」



「まじか!じゃあちゃちゃっと助太刀しますか!それとゴブ一郎とアラちゃんは姐さんお願いして良い?」



「分かったわぁ」






「さてと…何処行くの?アンドレ君」



「!!…か、帰るのであろう?私も教国の方へ帰還を…」




「無理に決まってんじゃん」



明るい口調の利央だが、その冷酷な言葉はアンドレの動きを止めた。



「じゃあ…さよあならアンドレ君!あれ?アンデレ君だっけ?」



「ちょっと待て!!せ、せめてお前の手でトドメを刺せ!」




「え?何で?」



「それが闘った者への礼儀だろう?」



「しーらね。ナナ、あの龍たちにお願いしといて!じゃあ俺らはこの一際強そうな白龍で帰ろうか」



「………ハクって名前つけたの」



「へえ、ハクか。なんか神隠しに合いそうな名前だな〜」



「…ん?」



こうして利央とナナは龍に跨り空へと飛び立った。




「待て!!!!!人外の王よ!!!貴様!!闘った相手を踏みにじ…ぎゃぁぁぁぁぁああああああ!!!」



ナナの支持を受け都市上空から降り立った無数の龍はアンドレに一斉に襲いかかった。



鋼鉄の強度を誇る硬い"意思の鎧"もこの世界で最強の一角である龍種の前では余りにも脆かった。


アンドレは体中を噛み砕かれる。




「はぁ、はぁ…神が、、、セオス様が復活なされたらお前など…お前なぎゃぁぁぁぁぁあ!!!!」




隠れていた住民が少しずつ姿を見せ始めた王国南部都市モルガンでは、使徒の悲痛な叫びが聞こえなくなった後、龍の咆哮が鳴り響いたという。

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