「vsアンドレ(前)」
「ふんっ、避けるのが精一杯か?人外の王よ」
アンドレは利央を見下ろし、嘲笑しながらそう吐き捨てた。
「むか…取り敢えず、おらぁ!!!」
利央は魔力を丸い球体として顕現させ、相手に向けて放つ。
火球などの広く一般的な魔法攻撃の方法の一つであるが、それは術者の魔力量によって大きく姿を変える。
利央の放つ闇球は昔から利央が少ない訓練の時間 (だらけたい為)でマスターした数少ない攻撃手段の一つであり、その威力は着弾した付近の物を消し飛ばす程の威力がある。
放たれた闇球は真っ直ぐアンドレへと飛んでいき…
「もろた!!」
「甘いわねぇ」
ミランダの言葉の通りか否か、利央の魔法をアンドレは避けようとはせず、寧ろ着弾の瞬間に…
「…笑った?」
そして闇球はアンドレに直撃し、辺りには粉塵が舞う。
そして煙が晴れ、現れたアンドレは…
「…無傷だと?」
利央の言葉通り、アンドレの身体には傷一つ無いように見受けられた。
「ハッハッハッハァー!セオス様より授かりしこの体には傷一つ付けられ無いのだ!!愚かな奴め!貴様ら人外の攻撃では未来永劫この体に傷を負わせることは…っ!!!!!!」
アンドレの言葉の途中、ピキッと音を立ててアンドレの身体の傷を受けた箇所の石が僅かに崩れ落ちていった。
「ぷはぁぁぁあああ!!!!えぇぇ?!?!?!何今の?!?!ダサすぎない???未来永劫なんだって??アンドレ君?ぷぷぷぷぷ」
「あら、あっさりとあの"意志の鎧"を砕いちゃうのね。流石は魔王ちゃんだわぁ」
「流石ですリオ様!こんな奴リオ様の敵では無いです」
「…凄いです…帰ったらシャーリーさんに報告しないと…」
魔王軍の面々は思い思いの言葉を吐くが、一方でアンドレはと言うと…
「…"闇の力"か。彼奴と闘うのは興味本位であるのが大きかったが…この力、セオス様の復活の障害に成り得ることは間違い無いだろう。ここで確実に…」
「なに止まってんだよ!!ほれっ!!!」
「なっ!!!」
利央は容赦なくアンドレに追加の闇球を放つ。
アンドレの周囲に爆煙が舞うが…
「チッ、羽虫野郎が」
アンドレは巨大な翼を広げて、いつのまにか上空に避難していた。
「何で羽も石のくせに飛べやがるんだよあいつ!ずるくね??」
「それが"神の力"ってやつなのよねぇ〜」
「え?!姐さんどゆこと?!」
驚く利央を他所に、
「今度はこちらからいくぞ!!…天罰」
アンドレが両手を空に掲げ、魔法を詠唱すると…
「雷?!」
雲ひとつなかった空に突如として黒雲が生じると、その雲から雷が降ってきた。
不意を突かれた利央たちに雷が直撃する。
「きゃあっ!」
「くっ!!」
「アラちゃん?!ゴブ一郎?!」
雷はアラちゃんとゴブ一郎に直撃し、2人は地面に伏した。
息はあるようだが重傷であることは間違いないだろう。
「はっ、黒焦げとまではいかずか。イスカリオの奴が"豚のような人間"にやられた時のようには行かないか…情けない奴だ。とてもセオス様がお創りになったとは思えんな」
「………」
「魔王ちゃん?」
利央はピクピクと痙攣しながら地面に倒れている2人の姿をじっと眺める。
怒りのあまりか拳を強く握りしめ、身体は小刻みに震えているようであった。
「魔王ちゃんってば!」
ミランダの呼びかけも利央には届いてないようである。
「あら…これってシャーリーちゃんが話してた暴走ってやつかしら??」
心なしか嬉しそうなミランダを他所に、利央は暴力的な感情に支配されそうになっていた。
あの時の様に…。
(コロセ…スベテヲコワセ…)
どこからともなく聞こえてくる聞き覚えのない声には不思議と従わなければならないという気がしてくる。そしてその声は利央の心を次第に支配する。
「どうした?仲間がやられて反撃もできんのか?王として失格だな」
アンドレのその一言を受けて、利央はアンドレを鋭く睨みつけるが…
「…コロス」
静かにそう呟いた利央の目は既に正気は失っているかのように黒く歪んでいた。