「悲報」
「魔王様!!大変です!魔王様ぁ!!!」
オベロン王国、コーデシア帝国、セオス教国の中央に位置する膨大な広さの魔の森…デスデモーナ大森林。
中でもその中心部は新進気鋭の魔王軍による開発も進み、クーズー城と呼ばれる巨大な城を中心とした城下町は最早"魔都"と呼ぶに相応しい程、厳重であり重厚な雰囲気を醸し出している。
多くの亜人が行き交う姿は人間の都市となんら変わりはない。
そんな魔都の中央、古くから存在する巨大な城であるクーズー城では伝令役の兵士が大きな声を上げていた。
「大変です魔王様ぁ!!!」
「なになに、どうした?」
魔王の部屋に慌てて駆けつけてきた兵士に利央は不思議そうな顔をして近づいて行く。
「南部攻略軍が…はぁはぁ、王国南部攻略軍が壊滅した模様です!!」
「へぇ………はぁ?!?!?!!」
利央は驚きのあまり、伝令役の兵士の胸ぐらを掴みあげると
「おい!誰にやられた?!王国軍にあいつらを倒せる奴なんていなかった筈だ!」
「かはっ!く、苦しいです魔王様…」
「!…悪い」
「ごほっ…そ、それが…逃げ帰った者の話によると敵は翼の生えた人間のような生き物だったとか」
利央は思考の渦に囚われるものの、やがてジーバ君からの話を思い出した。
「天使?か?」
「??」
不思議そうな顔をする伝令役の兵士を尻目に、利央は魔王としての責務を果たそうと動くのだった。
「幹部を全員集めてくれ!!緊急の会議だ!」
「分かりました魔王様!…それともう一つ大事な話が…南部攻略軍を指揮していたドラ男様が、、、」
その後の兵士の話に利央の表情は次第に曇っていったのだった。
「やるではないか、セオス教国」
「というよりは…あの使徒とかいう者たちの力では?」
王国南部都市モルガン。
都市からの魔導砲や空から降ってくる光魔法に対して、蜘蛛の子を散らすようにして敗走していく魔王軍を眺めながら、モルガン公と配下の反王家派の貴族が話し合っていた。
「都市の民たちを見て下さい…あの天使たちを崇拝の目で見ています」
モルガン公が都市の住民たちを見ると、誰もが子供が英雄譚を聞かされた時のような憧れの目で空を浮遊する使徒たちを眺めていた。
「これでセオス教の教会を設置したらどうなるか…」
「うむ、、、しかしそれは仕方ない。彼奴らの助力を得る条件がセオス教の教会をこの都市に置くことなのだからな」
そう語ったモルガン公の表情は曇っていた。
王家派との戦闘でこの都市を守る者は限りなく少なくなっていた。
そんな中で恐ろしい程の大軍で攻めてきた魔王軍の軍勢を、たった2人で大混乱に陥れ撃退するという人間離れした荒技を見せたセオス教の使い。
そんな者を見れば、民たちがそこに"救い"を求めるのは必然か…
見ると魔王軍を撃退し、都市に降りてきた使徒の2人に対し、民たちは割れんばかりの歓声を向けている。
やがて、使徒たちはこちらに向かって飛んできた。
「モルガン公、如何でしたでしょうか?」
壮年の男性風な使徒が話しかけ、ドレッドヘアーの若い男性風な使徒は未だに民に向かって手を振っている。
「うむ…非常に良い働きであった。そなたらの望み通り、この都市にセオス教の教会を…」
モルガン公の話を遮るようにして、使徒は手で制するように
「それだけでは足りませんね」
心なしか邪悪な表情を浮かべてモルガン公を見ていた。
「な、なんと申した?」
「ですから教会の設置だけでは足りないと言ったんです」
モルガン公は配下の貴族と目を合わせる。
「都市の危機を救ったんですよ?それだけでは神は納得しないでしょう」
「で…では、他に何を…」
壮年の男性風な使徒はドレッドヘアーの使徒と目を合わせると、今度ははっきりとした邪悪な笑みを浮かべて言い放ったのだった。
「神の復活の為の"生贄"を差し出して下さい」
「い、いけにえ?だと?…それは一体…」
するとドレッドヘアーの使徒が答える。
「そうだな、この都市の住民の約半分くらいだ」
その言葉にモルガンは血の気が引くように真っ青な顔になったのだった。