3.高速レベリングと別れた仲間たちのその後
高速レベリング美味しいです。
今、僕は「蟻の巣迷宮」と呼ばれる昆虫ダンジョンに来ている。
迷宮都市レノウスにある迷宮と異なり、魔物の強さの割に手に入る素材がショボく、その為に迷宮都市も作られず、かと言って難易度が高いが故に、完全攻略される事も無く放置されている迷宮だ。
しかし、放置された迷宮は、迷宮内部の魔物が飽和して、百鬼夜行と呼ばれる災害を引き起こす。
この「蟻の巣迷宮」は、過去に2度も百鬼夜行を引き起こして、近隣の村や街を滅ぼした事がある札付きの迷宮なので、一番近いアンヘラの街のギルドでは、常設依頼として蟻の巣迷宮での「討伐依頼」が出ている。
しかし、前述のとおり、あまりにも実入りが悪いため、ほぼ塩漬け依頼となっており、ギルドは一年に二回、抜き打ちで街に所属する冒険者に「強制依頼」を出す事で、間引きしている程の不人気迷宮なのである。
さて、なぜに「蟻の巣迷宮」の実入りが悪いか。
答えは、迷宮の名前が示している。
そう、この迷宮に出現する魔物は、全てジャイアントアント系だけなのだ。
ジャイアントアントは例外なく硬い外骨格を持ち、下手な刃物で切り付ければ、逆に刃毀れしてしまう頑丈な魔物で、昆虫らしくタフで疲れ知らず、数も多く、駆け出し冒険者と貧弱な装備では、簡単に返り討ちにされてしまう危険な魔物なのである。
それで居て、魔物としてのレベルは低く、素材として使えるのは、硬い外骨格ぐらいしかないし、取れる魔石もレベル相応でしかない。
外骨格にしても、それを素材として解体する事も大変なら、持ち帰るのも嵩張るので大変。
買取価格が高いなら救いはあるのだが、素材としては固く煮た皮以上、金属未満と言う中途半端な性能なので、買取価格も安い。
もう、討伐専用と言っても良い魔物なのだが、数が多い事もあり、1匹辺りの討伐報酬は安い。
更に悪条件を乗せるなら、ジャイアントアントには、労役種、戦士種、統率種、王配種、女王種という種類があり、一番弱いとされる|労役種でも十分手ごわいのに、戦士種は1匹で前衛の中級冒険者と互角、統率種に至っては、1匹で上級冒険者と互角という破格の強さを持ちながら、「大量に出現する」という悪夢のような性質がある。
王配種と女王種は、強さで言うなら統率種以下ではあるのだが、大量の統率種に守られているから、出会った時には死を覚悟すべき相手と言われている。
これだけ悪条件が揃えば、「蟻の巣迷宮」に潜ろうなんて酔狂な冒険者がほとんど居ない事は、判るだろう。
では、なぜ僕がそんな危険な迷宮に、ソロで潜っているのか。
答え、ジャイアントアントを楽に狩る事が出来るから、だ。
精霊使いが使役できる精霊の一つに、黒洞の精霊というのがある。
黒洞の精霊は一定空間を闇で閉ざす事が出来る、支援系の精霊だが、精神の働きも司っており、ぶつけて崩壊する際に、対象にMPダメージを与える事が出来、MPを0にされると、人間も魔物も気絶する。
まあ、霊体の様な一部の不死系魔物は、消滅するんだけど、まあそれは例外なので横に置こう。
気絶から回復する為には、MPが最大回復するまで休息するしかない。
そして、魔物の中でも昆虫系の魔物は、高レベルであってもMPが少ない傾向があり、たったレベル2でしかない僕の精霊使スキルでも、1発当てれば、ジャイアントアントは気絶してしまう。
労役種でも戦士種でも統率種でも、だ。
僕のMPなら、6時間の休息ごとに、黒洞の精霊を4回召喚する事ができる。
これに加えて、「蟻の巣迷宮」は、元々は人工迷宮で、落とし穴などのトラップがある事も、この迷宮の不人気っぷりに磨きをかけている理由の一つなのだが、このトラップは、ジャイアントアントにも発動する…と言う要素を加える。
すると、
「釣り野伏」で、少数のジャイアントアントをおびき寄せ、罠で孤立させる。
黒洞の精霊をぶつけて気絶させる。
鈍器系の武器で、撲殺する。
眠ってMP回復。
「釣り野伏」で、少数のジャイアントアントをおびき寄せ、罠で孤立させる。
…以下、エンドレス。
という無限コンボが成立する。というか、成立してしまった。
この世界で、神の恩恵にして勇者の力の源泉でもあるポイントは、神託の達成で得られるものが最も多く、難易度の低い神託でも最低500ポイントは貰えるし、大神託だと達成時に数千ポイントは貰える。
一方で、魔物を倒しても貰えるポイントは微々たるもので、ゴブリンを50匹倒して、やっと500ポイント、しかもパーティ人数で頭割り、と言うルールだから、6人で500ポイント貰う為には、300匹ものゴブリンを殺さなければならない。
300匹と言えば、ゴブリンの集団としては大規模な部類に入り、1割ほどの上位種や統率する強い魔物が率いている事が普通で、農村なら一つ二つは簡単に殲滅される規模であり、中級以上の冒険者パーティ10個以上で当たる任務とされている。
それを1パーティで殲滅して、ようやく1人500ポイント。
実にしょっぱい。
つまり、魔物だけを倒してポイントを得る事は、非現実的であり、勇者は神託と通常依頼を上手く織り交ぜながら成長していくのが、正道となる。
しかし、ソロで独り占めできる上に、安全で楽に倒せるなら話は別になる。
労役種は1体で20ポイント。
戦士種は1体で60ポイント。
統率種は1体で100ポイント。
これらを、1日迷宮を駆け巡って最大16匹倒せる。
最低でも1日320ポイント得られ、運が良ければ戦士種や統率種が混じって500ポイントを越える。
平均すると、450ポイントぐらいだろうか。
これが迷宮外のジャイアントアントの巣なら、1か月も狩りをすれば、ジャイアントアントは絶滅してしまっただろう。
しかし、ここは「迷宮」なので、一定速度で迷宮から生み出されるから、1日16匹程度狩り続けても、絶滅する心配はない。
「蟻の巣迷宮」に籠って1週間も経つと、魔物を狩って得たポイントで精霊使レベルは3に上がり、精神の精霊を6回呼び出せるようになり、1日に最大24匹狩れるようになった。
この頃には、迷宮の罠を利用してジャイアントアントを数匹ずつ落とし穴に溜めて置けるようになり、6時間寝て、罠に掛かっているジャイアントアントを十数分で撲殺し、また6時間休息して…というルーチンが完全に出来上がって、常に1日最大数の24匹撲殺が可能になっており、休息と言っても睡眠必須と言う訳でもないから、少しずつ迷宮の探索と地図作りを進める事も出来た。
するとポイント獲得量は最低でも1日480ポイントに上がり、1日平均だと680ポイント近く手に入るようになった。
元々、この手の地道なレベルアップ作業は嫌いではない、むしろ無心に熱中してしまう性格だったのが災いして、延々と機械の様に狩り続け、31日目には総討伐数688匹、精霊使レベルは6になってしまった。
そう、なってしまった、のである。
このレベルに達すると、精神の精霊を呼び出せる回数は14回にもなり、理論上では1日に64匹倒せるようになった…が、流石にジャイアントアント自体が激減してしまった。
いちいち「釣り野伏」で小数に分断する必要が無くなり、出会ったら即気絶させて撲殺、安全地帯で休息してMPが回復したら、また徘徊してサーチアンドデストロイ。
いつの間にか、到達階数は15階を越え、手つかずの宝箱も幾つも見つけ、少しずつレベルを上げておいた探索者スキルで罠解除して、安全に中身を取り出せるようになった。
そして、「蟻の巣迷宮」に籠って45日目。
最下層である20階層で、守る者の居なくなった王配種と女王種に遭遇。
これを討伐して、「蟻の巣迷宮」を完全攻略したのである。
最終的な精霊使レベルは8になっていた。
最奥に安置された迷宮核、と呼ばれる宝玉を奪うことで、迷宮は死ぬ。
僕はボス討伐に浮かれて、つい奪って迷宮を殺し、迷宮討伐者の称号を得たのであった…。
一方その頃、チーム「勇者と仲間たち」だが…。
15層の不死系魔物は、逃げて回避する事にして、無事、20層の壁を突破する事が出来た。
レベル6の探索者であるスナイクは実に優秀で、僕が手古摺っていたようなトラップも難なく見つけ、解除して安全を確保し、宝箱の罠感知、罠解除、鍵明けもそつなくこなして、チームに貢献した。
しかし、問題は別な所で発生する事になったのである。
まず、回復魔法が使えるのが、小柄な小柳君しかおらず、2回しか使えない事もあって、自分にしか使わないから、他のメンバーが怪我しても、治療されなくなった。
僕が念のためにとマジックバッグに確保してあった薬草や傷薬で対応する事にしたが、これによって攻撃チャンスを回復行動で逃す、という事が多くなって殲滅速度が低下した。
しかし、一番の問題は、食事であった。
僕は迷宮の中でも、精霊術で生み出した清潔な水と、大量に持ち込んだ各種調味料、料理人スキルを駆使して、温かくておいしい食事を提供していたが、そんな贅沢をしている冒険者なんて他に居る筈も無く、他の冒険者と同様に干し肉と堅焼きパンという保存食を、小樽入りの臭い水か安ワインで流し込む食事になった。
チャラ男な倉本君が精霊術で水を作れはしたのだが、自分の分と女王新垣さんの分しか出さないのでは、どうしようもなかった。
これは、現代の贅沢な食事に慣れ、異世界に来てからも僕の料理で食事の不満を最小限で済ませてきた皆には、大変堪えたらしく、別れた翌日には迷宮から離脱して、僕にポーター兼料理人として同行して貰おう、などと勝手な事を考えてギルドまで行ったらしい。
しかし、僕はとっくに次の街へ移動していた。
そこで、ポーター兼料理人として同行できる冒険者を募ったらしい。
当然だけど、20層以上に潜れる中級から上級に手を掛けた冒険者が、ポーターなんて仕事をする筈もないし、冒険者でもない料理人が、危険な迷宮20層についてきてくれる筈も無い。
居たとしても、大金を取られる事は間違いなく、ようやく上級冒険者として活躍し始めたばかりのチーム「勇者と仲間たち」で賄える金額ではなかっただろう。
次に問題になったのは、勇者チームの野営や野宿における能力の無さだった。
迷宮の中で野営する際には、安全地帯でも交代して見張りを立てるのが当たり前なのだが、今までその辺りは僕が1人で道具や魔物避けの香などを使って対応していた。
しかし、金が勿体ない、とスナイクは、全員で3交代の見張りを主張した。
そして、やってみたら、スナイク以外の誰も、野営や警戒に必要なスキルを持っていない事が判明したのである。
スナイクは当初、腕利きのチームに参加できたと喜んでいたが、蓋を開けてみれば、戦闘だけ馬鹿みたいに強い以外は、素人同然のチームだった事に失望する事になった。
仕方なくスナイクは、カリスマ・大津君やスポーツメン小沢君に最低限の野営技術を教えようと思ったが、二人とも乗合馬車の夜番で護衛の冒険者に怒られた記憶を思い出して不機嫌となり、覚えようともしなかった。
次に問題になったのは、報酬の分け前だった。
僕がチームの財布を管理していた頃は、ギルド報酬の1/3を共通の財布に入れて、装備の修理費や消耗品、共通の道具の費用は、全てそこから支払っていた。
そして、残りの2/3を6人で等分していたのである。
しかし、カリスマ・大津君がスナイクを勧誘する際に約束したのは、全報酬の1/6。
つまり、完全な等分である。
前衛で装備の消耗が激しい戦士と、消耗品が無い魔術師である女王新垣さんとでは、消耗品に関わる金額が全然違っていた為、単なる等分にした事により、可処分所得に不平等が発生した。
数え上げればきりは無いが、一つ一つは小さな不満が積み重なって、スナイクが加入してから1か月後に、スナイクはチームを抜けると宣言して、去って行った。
この状況に至って、カリスマ・大津君は、しぶしぶ探索者スキルや猟師スキルを習得しよう、とステータス画面を開いてスキル欄をタップした。
…が、スキル欄では、既に習得したスキルのレベルアップは出来ても、新規スキルの取得は出来ない、という事実に直面したのである。
後に、チーム「桃園の誓い」と再会して情報交換して分かった事なのだが、この世界の冒険者は、ステータス画面なんて持っていないから、自己学習と反復行動でスキルを覚え、成長していく。
鑑定する事で見えるスキルレベルは、そうした習熟度の目安であって、勇者の様に経験と言う数値化されたポイントを消費すれば、いきなり高度な技術を理解し、使えるようになる。なんて事は無いのだという。
僕が知恵者スキルレベルを1つ上げると、新しい言語の読み書きまたは会話が、その瞬間から出来るようになる。
しかし、この世界の知恵者スキルレベルは、そんな事はあり得ない。
新しい言語を覚えたからこそ、レベルが上がるのだ。
そう、このステータス画面とポイントシステムこそが、勇者の「チート」であり、あの白い空間で天使が「器用貧乏は推奨しない」と言ったのは、「我が神」とやらの「罠」だった。
人数が少ない3人チームで苦労する事が判っていたチーム「桃園の誓い」の面々は、申し合わせて3人ともなるべく重複しないように様々なスキルを広く取り、結果的に「罠」から逃れたけれど、最初に推奨された6人チームだと、個々に役割分担して特化スキルの構成にするのが、定石となる。
そうした場合、チームが維持されれば問題ないが、僕の様に追い出されてしまうと、簡単にバランスが崩れ、詰んでしまう。
ゲーム解析が得意なゲーオタ松川君によると、スキル持ちの勇者から、じっくり教えてもらう事で、この世界の冒険者と同様に、スキルを新しく覚える事が出来る。
そして、一度でもステータス画面に表示されたスキルは、ポイントで成長させる事が出来るのだという。
チーム「桃園の誓い」の面々は、これが判明してからは、頑張って相互にスキルを教え合っているらしいけれど、魔法系のスキルは才能も必要な為に、未だに成功して居ないと言って笑っていた。
そして最後に、ふと思いついて聞いてみた。
「僕たち、死んだら元の世界に戻れると思う?」
ゲーオタ松川君「ないわー」
アニオタ宮沢君「ないね」
ラノベオタ村上君「ないでしょ」
あの白い空間で「死んだらどうなるか」という質問は、3人とも思いついて言えない事に気づき、「死んだら試合終了だよ」という事は最初から気が付いていたらしい。
だから、召喚された国での訓練期間はみっちりやって、自分のスキルに対して何が出来て、何が出来ないのかと言う研究を進め、死なない自信がついてから、冒険者になったらしい。
ゲーオタ松川君「でもさ、俺、向こうの世界で生きてる俺には同情してるんだ」
アニオタ宮沢君「あ、わかる。こっちの世界、やればやっただけの手ごたえがあるし、まんまゲームだし」
ラノベオタ村上君「こっちじゃ俺たち、ラノベ主人公みたいな活躍してるしな」
ゲーオタ松川君「ヒロインが不在だけど(笑)」
アニオタ宮沢君「助けたケモミミ奴隷少女にフラグが立たなかった。解せぬ」
ラノベオタ村上君「ニコポもナデポも、ただしイケメンに限る、だし」
アニオタ宮沢君「しかし、引かぬ、媚びぬ、諦めぬ!」
ゲーオタ松川君「巨乳ダークエルフが実在している以上、俺の試合は終了してないぜ」
ラノベオタ村上君「ロリババァ最高だよね」
アニオタ宮沢君「ケモミミストとしては、ケモミミは外せん」
僕たちは、かつての教室でしていたような馬鹿話で盛り上がって、翌日別れた。
それから一か月ほど後、傭兵冒険者としてソロ活動しているスポーツメン小沢君に会った。
そして聞く事になる。
チーム「勇者と仲間たち」は、スナイクが抜けた後、どうなったかを。
カリスマ・大津君は、探索者や猟師スキルが取れないと判って、しかしそれらのスキルが無くては、冒険者チームとして成立しない、と判っていた。
しかし、チームは最大で6人。
普通の冒険者としては、6人以上のパーティを組む事が出来るが、勇者パーティは過去の経験から、6人以上のパーティを組むと、神託が請けられないし、達成できない事が判っている。
これは、勇者と勇者だけでなく、勇者と一般人が組んだ場合も適用される。
勇者のチート要素であるポイントを獲得できなくなるのは、本末転倒なので、勇者のパーティは常に最大6人まで、と決まっているのだ。
ソロで活動している優秀な探索者や猟師はいたけれど、両方を兼ね備えた人材ってのはレアだった。
手放して初めて、僕の価値に気付いたらしい。
しかし、探索者と猟師、別々に2人のメンバーを入れるには、チームは最大で6人というルールがネックになった。
仕方なく、ヘレナリスに戻って、王に助力を願ったのだという。
王としても、勇者チームに野外生活知識が無くて、万全な状態で領域主と戦えなくなっては困るから、5人に探索者か猟師の特訓を施す事にした。
防具に制限のある探索者スキルの習得は、既に防具装備に制限のあるスキルを持つ、女王新垣さんとチャラ男な倉本君の2人が。
防具に制限のない猟師スキルの習得は、カリスマ・大津君、スポーツメン小沢君、小柄な小柳君の3人が希望して、特訓したらしい。
特訓の甲斐あって、2か月後にはチャラ男な倉本君には探索者スキル、カリスマ・大津君とスポーツメン小沢君には猟師スキルがスキル一覧に表示され、ポイントを振ってレベルが上げられるようになり、これで冒険者として一段上に上がれた、と皆で喜んだ。
でも、その時にはもう、チーム内に大きな亀裂が入っていたのだという。
女王新垣さんとチャラ男な倉本君の間に、今までになく親密な空気と距離感が生まれていた。
探索者スキル習得の為に二人で特訓を受けている間に、チャラ男な倉本君が女王新垣さんを口説いて寝取ってしまったのである。
実は、二人はオナ中で、高校に入ってカリスマ・大津君と女王新垣さんが付き合うまで、女王新垣さんに片思いしていたのだけれど、異世界転移でスキルさえ育てれば、カリスマ・大津君と同じか、以上の能力を得られるこの世界では、カリスマ・大津君とチャラ男な倉本君のスペック差なんて、スキル1つで覆る「誤差」なんだと考え、女王新垣さんを奪うチャンスをずっと伺っていたのだという。
そして、とうとうチャンスを物にして、女王新垣さんを寝取る事が出来た。
こうなると、もうチャラ男な倉本君の暴走は止まらず、とうとうカリスマ・大津君に女王新垣さんを寝取った事を暴露して、下剋上を宣言した…までは良かったんだけど、実は女王新垣さんは、軽い浮気のつもりで、カリスマ・大津君と判れるつもりは毛頭なかったから、ブチ切れてチャラ男な倉本君を散々に罵倒。
もう、話を聞くだけで嫌な気分になるド修羅場を、スポーツメン小沢君と小柄な小柳君の前で繰り広げた。
まあ、普通にドン引きだよね。
浮気され、寝取られたカリスマ・大津君は、もう女王新垣さんを彼女とは思えない、と絶縁宣言。
女王新垣さんは、悪いのはチャラ男な倉本君で、私はレイプされたとか騒いだけれど、カリスマ・大津君は翌日黙って城を去ってしまった。
チャラ男な倉本君は、自暴自棄になって自殺未遂。小柄な小柳君がスポーツメン小沢君の指示で見張っていなければ、回復魔法が間に合わず死んでたかもしれない。
カリスマ・大津君に捨てられ、チャラ男な倉本君が自殺未遂した上、やっぱり一人で城から去ってしまったので、寄生する先を失った女王新垣さんは、スポーツメン小沢君にまで言い寄りだして、流石に勘弁してくれ、と逃げ出して、ソロの冒険者となったのだという。
風の噂では、逃げ遅れた小柄な小柳君が女王新垣さんにぱっくり食いつかれて、二人で冒険しているらしい。
カリスマ・大津君とチャラ男な倉本君の二人については、国内での噂を聞かないから、他の5大国に渡っているのかもしれない、と言う事だった。
なんとも壮絶な結末…。
他のチームはどうなっているんだろう…。
僕は、スポーツメン小沢君から、酒臭くも重苦しい溜息と共に語られた「勇者と仲間たち」の結末に唖然としつつ、他のクラスメイトの状況に思いを馳せるのであった。
もっと続く予定だったけれど、途中で書けなくなったので、区切りのいいところまでUPして完結。
各人の異世界生活と末路
■大津一雄
チーム「勇者と仲間たち」のリーダー。勉強もスポーツも人並み以上に熟し、家も裕福で悪意とは縁遠い挫折の少ない人生を送ってきた事もあり、善意高めで意識も高い、エリート坊ちゃんタイプ。
異世界転移については、ゲームみたいだと純粋に喜んでいて、ナチュラルに勇者を目指した。
彼女である新垣灯とは高校入学後に知り合い、告白し合っている訳ではないが、互いに互いを恋人と認識しており、Hも済ませており、それなりに独占欲もある。
チームリーダーとしての責任感から、足を引っ張っている…と思っていた斎藤喜一を除名して、スナイクを加入させたのも悪意があった訳でなく、「レベルに見合ったパーティについてくるのは大変だから、彼の為でもある。心を鬼にして別れた」と本気で思っていた。
しかし、冒険者として余りにも戦闘だけに偏っていた「勇者と仲間たち」のメンバーの中で、唯一にして有能な支援系であった斎藤喜一がどれだけ重要な存在だったかを理解したのは、手遅れになった後であった。
スナイク離脱後に、スキルを取ろうとして取れない事に気づき、王都で再訓練を志願して、小沢順一と共に猟師スキルを得る辺りまでは、冒険者として再出発の際には、斎藤喜一に負けない支援をしてやると意気込んでいたのだが、新垣灯が友人だと信じていた倉本栄二に寝取られた上、倉本から強い悪意をぶつけられて、ポッキリと折れてしまい、挫折と言うには大きすぎる心の傷を負って出奔。
盗賊に襲われていた奴隷商を助けて、奴隷の少女を手に入れた後、二人で冒険を続けて以降、奴隷少女を鍛えて仲間にするタイプの勇者として成長していく。
実は、奴隷はステータスプレートが見えるようになり、ポイントを割り振る事が出来るようになるので、スキル持ちの奴隷を買って鍛えるのは、かなり有効なチートだったりする。
ただし、この世界の奴隷には便利な「奴隷の首輪」とか無いので、普通に「裏切る事の出来る奴隷」であり、調子に乗って奴隷を増やした末に、育てた奴隷に裏切られて、身ぐるみ剥がされて、更に酷い人間不信になる。
…実際のところ、奴隷に造反されたにも関わらず、殺されなかった時点で、ぎりぎりのラインで奴隷から好かれていた証拠だったんだけど、あまり慰めにはならなかった模様。
2年後のレベル判定でめでたく勇者認定を受けたものの、パーティもおらず、完全にソロで戦う勇者なので、討伐専門として各地を転戦するようになる。
性欲が溜まったら、娼婦で解消し、奴隷は持たず、仲間も持たず。同級の勇者仲間も基本的に信用していない、かなり苦労して性格が少し曲がってしまったようだ。
■小沢順一
チーム「勇者と仲間たち」の斬り込み隊長。勉強は人並み程度だが、短距離陸上のスポーツ特待生として入学しており、運動神経は非常に高い。家は平凡なサラリーマン家庭で、下に弟と妹が一人ずつおり、そのせいか後輩の面倒見も良く、同級ではあるが、同じ陸上部の小柳英夫を弟分の様に面倒を見ている。
異世界転移については、RPGみたいだと本気で感心しており、死ねば元の世界に帰れるからと、楽観している事もあり、この世界を満喫しようと思っていた。
大津一雄とは同じ中学であることをきっかけに友人となった。キス止まりであるが、一つ年下の彼女がおりリア充である。
敵に勝てば経験値とカネが手に入る、そうシンプルに考えており、チームプレイと言う事にはあまり強いこだわりが無かったから、斎藤喜一が足を引っ張るとは言っても、「仕方ねぇなぁ」ぐらいの感覚で、失敗した時に舌打ちする程度だったが、大津が斎藤をパーティから切ったと聞いても、やはり「仕方ねぇなぁ」ぐらいの感覚であり、特に気にしていなかった。
しかし、斎藤が装備の整備から洗濯まで、マネージャーと同じ仕事をしていたと知って、「悪いことしたなぁ」と反省し、今度会ったら謝ろうと思っていた。
スナイク離脱後に、スキルを取ろうとして取れない事に気づき、王都で再訓練を志願して、大津一雄と共に猟師スキルを得る辺りまでは、順調だったが、新垣灯と倉本栄二のトラブルにドン引きし、特に倉本栄二を切り捨てて、レイプ犯とまで言い出した新垣灯には近づきたくないと心底呆れ果てた。
落ち込む倉本栄二の顔色の悪さから、小柳英夫に様子を隠れて見守るように指示したのは、ファインプレイであった。自殺未遂した倉本栄二を回復魔法で小柳英夫が救わなければ、もっとひどい事になって居かもしれない。
大津一雄が出奔し、倉本栄二が自殺未遂して寝込んだ後、新垣灯が何故か擦り寄って来たので、ヤバイと感じてさっさと出奔。
フリーの傭兵戦士として色々なチームを渡り歩く生活に入る。
幸い、手に入れた猟師スキルのお蔭もあり、普通の冒険者としてやって行けたこともあり、名を上げ2年後のレベル判定でめでたく勇者認定を受けた。
魔の領域近くに領地を貰い、騎士爵として領地運営資金を稼ぐため、魔の領域開放やダンジョン討伐などの任務を精力的にこなす勇者になる。
元新垣の友人で、ハブられた後に委員長に拾われた黒川さんが、チームを抜けてフリーの勇者になったのでコンビを組む。当然の様に男女の仲まで進展したようだ。
■倉本栄二
チーム「勇者と仲間たち」の精霊戦士。勉強も運動もそこそこ優秀で、中学時代にはカーストトップの人気者であったが、高校であらゆる面で上を行く大津一雄と出会い、挫折して友人となる。
地元のスーパーのオーナー一家で、それなりに裕福な家庭の一人っ子として育つ。挫折を知るまでは、やや俺様系の性格だったが、大津と友人になってからは、無意識に大津に対して一歩引いた行動を取ってしまう。
実は新垣灯とは同じ中学で、当時は新垣から仄かな好意を向けられていたのだが、俺様系で悪ガキだった倉本は彼女を作るより仲間と遊びまわる事を優先していて、付き合う事は無かった。
しかし、新垣が大津に一目惚れし、女らしい行動を見せた事で、ようやく性の芽生えを迎えて初恋したものの、NTRれた後であった。
自分より全ての分野で優れた大津に、友人として魅力を感じつつも、失恋で歪んだ劣等感が腹の底ではマグマの様に憎しみが煮え滾っていた。
中学時代はカーストトップだった事もあり、相応にモテるし、告白もされるのだが、拗らせた初恋のお蔭で、特定の彼女は居なかったが、適当に食い散らかして、女性経験はある。
異世界転移については、分厚い壁だと絶望していた大津との差が、スキル1つで覆る程度の差でしかない、と聞かされ、強くなる事に対して非常に貪欲である。
その為、足手まといだと信じていた斎藤喜一に対して、本気でイライラし、憎悪すら感じていたので、チームを放逐したと聞いて、大津を心の中で絶賛したほど。
後に、斎藤がパーティの縁の下の力持ちをしていたと知っても、弱い奴は不要と断じて、再勧誘には反対していた。
スナイク離脱に対しても、スナイクの勝手さを詰り、強さ以外に取り柄の無い自分達の無能さを棚に上げていたし、無駄に探索者スキルを取らされる事について、非常に不満を持っていた。
しかし、新垣と二人だけで訓練を受けられると知り、チャンスとばかりに新垣に猛アタックした。
異世界に来てからオレ様な性格が復活しつつあった倉本に、初恋を思い出した新垣は、ちょっとした浮気のつもりで関係を持ったのだが、これによって調子が有頂天に達した倉本は、大津に下剋上を宣言。
…したところで、新垣に梯子を外された上に、男としてのプライドがズタボロになるまで罵られて心がポッキリと折れてしまう。
死んで元の世界に帰ろうと自殺未遂を起こしたが、一度止められて冷静になると、もう自殺なんて怖くて出来なくなり、出奔。
一時期は犯罪組織の用心棒まで落ちぶれるが、そこで懐の深い姐さん娼婦と懇ろになり、立ち直る。
2年後のレベル判定時にはまだ犯罪組織で燻っていたが、4年後には勇者認定を受けるまでになる。
足抜けさせた姐さん娼婦と結婚し、幾人かの仲間と共に、領地経営と討伐に勤しむ事になる。
■小柳英夫
チーム「勇者と仲間たち」の神官戦士。光の勇者(笑)。勉強はかなりダメダメで、陸上も素質はあるが、特待生になれるほども優秀ではなく、ある意味平凡なスポーツ少年。
家は平凡なサラリーマン家庭で、上に兄と姉がいる末っ子であり、性格も末っ子気質と言うか、頼りない甘えっ子の一面がある。
小沢順一は同級ではあるが、頼れる兄貴分として見ており、ナチュラルに命令を聞いてしまう。
異世界転移については、個人的にゲーム大好き、狩りゲー大好きなので、完全に俺の時代がやって来たーと浮かれまくっている。この世界で死なずに長生きして冒険しまくる予定。
小沢とは高校入学まで接点は無く、陸上部で友人になった。中学時代に同い年のカノジョが居たが、高校が別々になって自然消滅。今はフリーである。非DTで、その点では小沢より経験者である。
この世界をゲーム的に捉えており、探索者として使えない斎藤喜一を心底馬鹿にしていて、何か失敗する度にボロクソに貶していた。大津が斎藤をパーティから切ったと聞いてとても喜んだのだが、実は快適な異世界生活の大半が、斎藤に依存していたと気付いて、真っ先に「ポーターとして(安く)雇おう」と言い出したのはコイツ。
彼の中で斎藤は、人間ではなく、御伴アイルーみたいな便利キャラだと認識していた模様。
スナイク離脱後に、スキルを取ろうとして取れない事に気づき、王都で再訓練を志願して、狩人スキルの訓練を受けたが、やる気が起きずにスキル習得に失敗した。
新垣灯と倉本栄二のトラブルにドン引きし、小沢から倉本を見張るよう命じられ、自殺未遂した倉本を助けることに成功する。
ここに至って、この世界が楽しいだけのゲーム世界じゃなくて、面倒な人間関係のある現実だと気付き、勝手に斎藤をアイテム扱いしていた事を、少し反省した。
大津が出奔し、倉本が自殺未遂して寝込んだ後、小沢まで出奔してしまい、リーダーシップを取る人間が誰も居なくなってしまった事から、困ってあたふたしている内に、倉本も出奔。
頼る相手が居なくなった新垣にロックオンされ、流されるように関係を持ってしまって、そのまま依存に近い寄生をされる。
勇者に恩を売る目的で寄ってきた奴隷商人から女奴隷を貰ったり、ガテン系姐さん冒険者が仲間になって、懇ろの仲になったり、実は大津よりチーレム勇者っぽい生活を送る事になる。(とは言っても、大津と違い、奴隷は性奴隷として扱うタイプだったので、正しくご主人様として認識され、造反はさせなかったが)
パーティで名を上げ2年後のレベル判定でめでたく勇者認定を受けた。
その際に、大津と再会した新垣と一悶着あったりもしたが、姐さん冒険者と女奴隷が居る川瀬の方が立場が上と言うか、別れても良いっすよ状況だった為、結局は川瀬パーティに居残る事になる。
小沢順一が貰った土地に隣接する領地を貰い、騎士爵として領地運営資金を稼ぎつつ、引退した姐さん冒険者と女奴隷に領地を任せて新垣とコンビを組んでダンジョン討伐などの任務を精力的にこなす勇者になる。
ある意味、一番挫折と苦労が少なかったチート勇者と言える。