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1.キャラメイクと旅立ち

キャラクターメイキング部は某TRPGそっくりというか、ぼぼまんまになってしまっていますが、ちゃんとシステムは違うんです…。

 勘違い厨二道を邁進していた暗黒な中学時代を反省し、高校デビューからのキョロ充へ転職した俺氏。

 知り合いの少ない学区の離れた高校へと進学し、そこでリア充達と縁を作ってはヨイショして近づき、晴れてクラスカースト上位陣であるカリスマ君…もとい、大津君とスポーツ特待生なスポーツメン、小沢君が率いるリア充グループの、ウェイ勢その3として、日々パシリとお愛想笑いの日々を送っている。

 忙しくも心が擦り減る社畜の様な生活だ、と思う時もなきにしもあらずだが、クラスカースト上位陣と一緒に居るだけで、露骨な悪意や不意のトラブルに巻き込まれる頻度は激減し、細々とした事で便宜が図られる事も多く、学校生活自体は快適だ。

 それに、クラスカースト上位を張るような連中は、コミュ能力が高いので、一緒に居るだけで楽しい時間を過ごせるし、虎の威を借る狐ではないが、なんとなく偉くなったような錯覚もあり、ふとした事で気が付く「価値観のずれ」をすり合わせる瞬間を除けば、とても心地よい立場だと思う。

 そも、キョロ充と言えば、一般的にリア充の寄生虫みたいなものだと馬鹿にされる立場である。

 しかし、特に優れた高い能力こそ必要とはしないが、人間の力関係を察する能力と、狡猾に他のキョロ充達よりクラスカースト上位者の覚えをめでたくする為、地道な根回し等の細かい調整能力が必要なので、コンビニバイトに通じるような「なんでもあり」な汎用性が求められると知った。

 もしかすると、未来の営業職エリートとして職業訓練として有効かもしれない。

 どんな職業にも貴賤無く、学ぼうと思えば、どのような環境でも学ぶべきものはある、とか昔の偉い人が言っていたような気がするし、キョロ充も立派な職業なのだ…なのだといいな。

 さて、高校最初の中間試験も終わった6月の頭。

 高校最初のテスト成績が発表され、クラスカーストに微妙な変動があったものの、恙なく続くと思われた日常は、ある日突然に終わりを迎えた。

 現国Ⅰの授業中、白い白い謎空間にクラスメイト達と一緒に居る事に気が付いたのだ。

「あなた達は、異世界に勇者召喚されました。

 我らが神は慈悲深くも、あなた達が向こうの世界に行っても困らないよう、

 幾つかの特別な力を選んで習得できるこの場を設けました」

 と、耳心地の良い美声が聞こえてくる。

 美少年にも、美少女にも見える、背中に2対の純白な翼を持った美しい人、不確定名天使?が居た。

「そんなの困る!私たち、帰れないの!?」

「来月、大会なのに!」

 悲痛な女子の声が上がる。あちこちで、同意の声が上がりだした。

 最初に声を上げたのは、バレー部期待の新人で、一年生なのにレギュラーを射止めた岩井さんだ。

「皆さん、安心してください。

 もし、向こうの世界で死ねば、あちらの世界での記憶は失われますけれど、

 こちらの世界では、あなたの時間は経過しません。

 ちゃんと岩井美恵子さんは、明日も元気に学校へ行っているでしょう。

 もちろん、大会にだって出られます。

 今回の話は、ちょっと変わった人生を楽しめる機会、と思えばいいのですよ。

 もし、向こうで恋人を見つけ、あなたが一生添い遂げて天寿を全うしたとしても、

 こちらの世界で岩井美恵子さんが余分に歳を取る、といった事もありません」

 不確定名天使?は、天使の微笑みで諭した。

 …ああ、これはアカン奴や。

「天使様、今の自分が、ちゃんと、こちらの世界に帰れるんですよね?」

 と質問を重ねようとした僕。

 しかし、何故か声が出ない。

「何それっ、向こうでチートを授かっても、持ち帰れないって事かよ!!」

 妙にカンに障る、刺々しい声が上がった。

「はい、与えられる特別な力は、あくまでも向こうの世界でだけ使えるもの。

 向こうの世界で神に匹敵する力を身につけたとしても、こちらの世界に持ち帰る事は出来ません」

 チッ、と音高く舌打ちして、神経質そうに足を踏み鳴らしたのは、クラス一の嫌われ者、山野君だ。

「…絶対、裏技とか抜け道がある筈だ…ぶつぶつ」

 なにか小声で呟いているようだが、まあロクな事ではないだろう。

 天使の答えを聞いたクラスメイト達は、安心したのか騒ぐ事を止め、ある者は少し残念そうな表情で、そして、僕を含む数人は少しだけ不安な表情で、言葉の続きを待った。

「まず、5人か6人の組を作ってください。組ごとに同じ場所へ、揃って転移する事が出来ますので、よく考えて組を作ってください」

 そして天使スマイル。癒されるわぁ。

「待ってくれ、全員で同じ場所に行く訳じゃないのか!?」

 声を上げたのは、クラス一の秀才で、可愛い幼馴染の彼女持ちである川瀬君だ。隣に寄り添う及川さんも、不安そうに天使を見つめている。

「はい、あなた達がこれから向かう世界では、複数の国々で同時に勇者召喚が執り行われています。

 何もしなければ、無作為で各国へ召喚されたでしょう。

 しかし、我らが神の御力で介入し、今から決める組ごとに召喚されるようにします。

 さあ、時間は有限ですので、お早く」

 と言って、パンパン、と繊手を鳴らした。

 クラスメイト達の顔に緊張が走った。

 ここでの組分けの成否は、とても重要だと、気が付いたのだ。

 取り合えずの疑問は、横に置こう。

 我がクラスは、男子14人、女子13人の27人学級だから、素直に考えれば、6人組2つと5人組3つで、綺麗に5つの組に分けられるだろう。

 しかし、算数の問題ならそれが正解だろうけれど、残念ながらクラスカーストや派閥、色々な人間関係を加味すると、綺麗に分かれるなんて事があり得ない。

 案の定、クラスカースト上位者の指名で真っ先に2つの組が定員の6名に達すると、指名から漏れてしまったクラスメイトは、他の組に潜り込む為の熾烈な交渉が始まった。

 最終的には7つの組に分かれる事となった。

 組み分けが決まった順に紹介しよう。

 クラス一のカリスマ男子、大津君とその恋人にしてクラスの女王、新垣さん、カリスマ男子の親友にしてスポーツ特待生のスポーツメン小沢君、そして僕こと斉藤喜一を含む取り巻きのウェイ勢3名、倉本君、小柳君の計6名で構成された、チーム「勇者と仲間たち」

 チーム名は、僕の独断と偏見で勝手に付けた。もちろん、脳内のみで使われるものであり、誰にも言ってないから、口に出しても通じないだろう。

 なお、「この組、6人までなの」の一言で新垣さんから切られた、新垣さんの友達()である黒川さんが泣きそうだったり、取り巻きのウェイ勢の座を巡る地味に熾烈な牽制合戦は心削られるハードフルなものだったが、大津君の指名により、すんなり組み分けが決まった。

 僕が居残れたのは、大津君、小沢君の両方に共通するパシリ…もとい取り巻き…もとい友人だったからだと思う。

 中学生の頃の僕だったら、間違いなくぼっち勢としてソロチームだったに違いない。それはそれで面白そうだったけれど…。

 次に決まったのが、クラス一の秀才川瀬君と彼女である及川さん、そしてチーム「勇者と仲間たち」からあぶれた取り巻き勢だった佐伯君、椎名君、塚田君、中村君を取り込んで定員になったチーム「賢者と仲間たち」。

 先ほど友達()である新垣さんに見捨てられた黒川さんも入りたそうにしていたが、美人である黒川さんに彼氏が取られる可能性を嫌った及川さんの的確な牽制により完全ブロックされ、ここでも仲間に入れなかったようだ。

 …女の戦いって怖い。

 さて、男女混合チームは、この2つだけである。

 どちらも、男5、女1で、既に恋人関係スタートだから、僕を含む、あぶれた野郎共はショギョームジョーである。

 けっ、カースト上位のリア充様めっ!

 この頃になると、友人同士の小グループは出来上がり、あとはどうやって定員を埋めるかと言う交渉の流れになっていた。

 しかし、そのまま合流すると6人を超えてしまったり、少人数であぶれているクラスメイトは問題が多かったりで、決まるのに少し時間が掛かった。

 特にクラスカースト下位勢は、上位勢から声をかけて貰えない時点で試合終了しているので、諦めるまでの時間が、イコール決まるまでの時間といえる。

 だから3番目に決まったのは、クラスカースト下位のオタ男子3名(松川君、宮沢君、村上君)で構成された、チーム「桃園の誓い」。

「我ら3人、アニオタ・ゲーオタ・ラノベオタとジャンルは違えども兄弟の契りを結びしからには、心を同じくして、チーレム・ハーレム・俺Tueeeを達成する事を誓う!」

 …と言ったとか言わなかったとか。

 なお、なけなしの勇気を出してあぶれた女子に声を掛けたりもしていたが、綺麗に無視された模様。

 残りの人数が減ってくると、決まるのは早い。

 委員長の青柳さんと友人の沖田さん、小野寺さんの3人グループに、委員長として見かねて声を掛けた黒川さん、女オタでボッチ気味だった古橋さんを加えた計5名、チーム「チェリーブロッサム」が結成される。

 次に決まったのは、バレー部エースの岩井さんと同じ運動部繋がりで菅原さん、高倉さん、成田さんが4人グループを作っていた所に、手芸部だけれど成田さんの友人だった水口さんを加えて計5名のチーム「原高運動部」が誕生した。

 残るは2人。

 言動がアレだが小さくて小動物っぽい外見から、クラスのマスコット扱いになっている宮島さんと、クラス一の嫌われ者、山野君。

 この2人に対する対応は、何と言うか対照的だった。

「んっふっふ」

 とドヤ顔で笑顔の宮島さんは、「チェリーブロッサム」や「原高運動部」、「桃園の誓い」から誘われたのだが、全てを断り「くっくっく、けいさんどおりなのよ!」と気炎を上げて居た。

 チーム名は「根絶狂気(ジェノサイドプリズン)」。

 対して山野君は、天使が組み分けをするよう言ってから一度も誰からも誘われる事無く、どんどん決まっていくチームを不機嫌に睨みつけながら、最後に一度だけ「俺の仲間にしてやる」的な事を宮島さんに宣言したが、当然の様に断られて、ぼっちチームが確定した。

 勝手に余計な事をしては問題を起こし、その度に他人に罪をなすりつけ、自分は悪くないとキレる山野君が、物理的にイジメられていないのは、カリスマ男子、大津君がイジメカッコワルイというタイプだったお蔭なんだけど、不遇なのは大津の野郎のせいだ、と逆恨みしているらしい。

 そんな面倒な性格の為、誰も声をかけてくれなかった。

 チーム名は「no name」。

 ちょっとアレげな目で、

「…異世界転移主人公の王道だから、向こうで奴隷を手に入れれば…」

 とかぶつぶつ呟きながら、暗い笑みを浮かべている。

 以上の計7チームである。

 天使は「5人から6人で組」と言っておきながら、それ以外の人数であっても、気にしてないようだった。

「あなた達を召喚している国は二十か国ほどあります。

 五大国から順に割り当てて行きますので、六組以上でも問題ないのですよ

 ただ、やはりある程度固まって行動しませんと、心細いですからね。」

 天使は、僕の疑問を察したのか、そう答えると、少し心配そうに宮島さんと山野君を見た。

「皆さんには、まずランダムで初期スキルと初期ポイントが与えられます。

 その後、ボーナスポイントを5000ポイントを加えて、

 このスキル表から、各人に必要なスキルを選んでいただきます」

 ここでコホンと可愛く咳払い。

「スキル、とはその職業に必要な技術一般を内包した知識と経験の結実であり、初期スキルを集中して伸ばせば、レベル3から4に達する事が出来るでしょう。

 レベル1は、その職業における基本的な知識を身につけた見習い程度。

 レベル2は、初心者として一通りが出来るぐらい

 レベル3は、専門家としてようやく一人前、

 レベル4なら、熟練者と言ったところでしょうか。

 逆に、広く浅く低レベルのスキルを取る事も出来ますが、レベルも上げるのが難しくなり、

 器用貧乏になりがちなので、あまりお勧めは出来ません。

 詳しくは、ヘルプボタンから説明を読んでくださいね」

 空中に浮かぶ白い紙には、自分の正面写真と名前、生年月日、年齢、性別といった個人情報に加えて、器用、敏捷、知力、筋力、幸運、HP、MPと定番のパラメーターが並んでいる。

 各項目の隣に、小さな?マークが書いてある。

 これがヘルプボタンらしい。

 凄い勢いで、ヘルプに目を通し始めるチーム「桃園の誓い」、「no name」、「根絶狂気(ジェノサイドプリズン)」の面々。

 まあ、ヘルプ熟読は、この手の展開の鉄板だもんね。

 ヘルプを読まず、色々と質問を投げかけるクラスメイトも居たが、全て「ヘルプを読んでください」で躱す天使は、話を先に進めた。

「さて、皆さん。目の前にある2つのサイコロを振って、初期スキルを決めてください」

 各人の目の前に、白いサイコロが2つ出現し、空中に浮かんだ。

「勇者みたいな職業はあるのか?」と、カリスマ・大津君。

「いいえ、勇者と言うスキルはありません。

 しかし、勇者を選定する精霊の剣は、戦士スキルで扱うので、あえて言うなら戦士スキルが、

 勇者必須のスキルと言えるでしょう」

 ギラリとオタ男子たちの目が光る。

「なんか、スキル少なくない?」とゲーオタ松川君。

「勇者召喚にあたって必要な、戦う為、生き延びる為に有用なスキルに絞ってあります。

 冒険に必要ない一般スキルは、初期スキルで一般スキルが得られた場合のみ、取得できます」

「…クソッ、裏スキルリストとか、バグとか、隠しパラメーターとか無いのかよ!」と毒づく大津君。

「この場で与えられるスキルやポイントは、皆さま平等です。

 個人のステータスには多少の差はありますが、人の枠を外れるものはありません。

 スキルレベルに1も差があれば、簡単に埋まる程度の差でしかありません」

 つまり、クラスで一番身体能力に優れているだろうスポーツメン小沢君相手でも、スキルが1上回れば、クラスカースト最底辺の大津君が、互角以上になれるという事である。

 スキルレベルと言う物が、如何に重要かが判る。

 可能な限り、レベルは高いに越した事はないのだろう。

「これから皆さまが行く世界は、剣と魔法があるファンタジーな世界です。

 しかし、神代が終わり、世界に満ちていた神秘の力が失われゆく夜明けの時代でもあります。

 魔族の棲む魔大陸に比べると、人の住む人大陸では魔力が薄くなり、

 魔法技術も魔法帝国の崩壊と共に斜陽の技になった、鉄の時代。

 初期スキルは運命ですが、その後のスキル選びは、自身の選択です。良く考え、吟味してください。

 さあ、サイコロを振ってください」

 少し離れた場所で、ブブーッという音がして、チーム「no name」の黒一点、クラスカースト下位ぼっち男子が黒コゲになっていた。

「サイコロは、振ってくださいね」

 どうやら、サイコロを振らずに手で置こうとして、怒られたらしい。

 他のクラスメイト達は、様々な態度でサイコロを振り、一喜一憂している。

 色々と胡散臭い部分はあるが、「皆様平等」という言葉に嘘は感じられなかった。

 素直にサイコロを振る。

 結果は、1と6。

「あなたの初期職業は一般人です。

 一般スキル、と呼ばれる冒険とは無縁な、しかし普通の人が就く職業のスキルを得る事が出来ます。

 初期ポイントが他の職業に比べて少し多めに与えられますが、

 他の初期職業に比べると、冒険向きの初期スキルがない分、

 総ポイントとして500ポイント分少なくなります」

 脳裏にメッセージが流れ、空中の白い紙の「総ポイント」の所に3000と表示される。

 スキル枠の一つが点滅し、「一般スキルを設定してください」という脳内メッセージが流れた。

 スキル枠の横にあるヘルプボタンを押すと、膨大な一般スキルが表示される。

 おそらくは、これから行く異世界の職業なのだろうけれど、「農夫」とか「商人」とかこちらの世界にもある職業から、「奴隷」とか「メイド」とか見慣れない職業まであった。

 残念な事に、職業の簡単な説明はあっても、「何が出来るか」までは詳細に書かれていない。

 ていうか、「乞食」って職業なんだ…。どんな職業スキルが得られるんだろう。

「料理人、かな」

 脳内に浮かぶ様々な一般スキルで、なるべく役に立ちそうな物を選ぶ。

 「執事」とか「医者」とか「占い師」とか「細工師」とかにも興味はあったが、どんな文明レベルでも潰しが効くのは、衣食住と生死に関わる職業だと思っている。

 「医者」スキルとか凄そうなのだが、中世レベルの「医者」の技術なら現代知識の方が役に立つ可能性が高く、流石に男で「産婆」スキルを取ったら、周囲の目が怖い。

 一般スキルが決まったら、ようやく、本当の意味でスキル選択できるようになった。

「追加ポイントが付与されました」

 チャリーンという音がして、「総ポイント」の表示が8000へと変化する。

 先ほど、ゲーオタ松川君が言った通り、スキルの数は多くない。

 魔法職は魔術師(ウィザード)精霊使(エレメンタラー)神官(プリースト)の3つだけしかなく、神官以外は取得もレベルアップもポイントが高めに設定されている。

 特に魔術師スキルは全振りしてもギリギリ3に上げるのが限界と言ったポイントの高さで、敷居が高い。

 魔術師の魔法は、レベル1には様々な便利呪文があり、攻撃力もショボイ魔法しかないが、レベルが上がる程にぐんぐん火力が上がる、典型的な攻撃魔術系統のようだ。

 精霊使の魔法は、精霊の力を借りるというお約束な魔術で、各レベル毎の魔術の数は少ないが、攻撃から支援まで幅広く覚える支援魔術系統。

 神官の魔法は…まあ、お約束の回復特化。最初は傷を治す回復魔法しか使えないが、レベルが上がれば様々な状態異常を癒し、不死の怪物を祓う力を得る。

 順番に攻撃・支援・回復魔法が得意な魔法職と言えば分りやすいだろうか。

 次に戦闘職だが、戦士(ウォーリアー)探索者(サーチャー)弓師(アーチャー)の3つである。

 この中では、弓師だけ取得ポイントが低いのだが、理由は簡単。

 戦士と探索者は、攻撃と防御、回避に補正が付く前衛戦闘職で武器にも縛りは無いが、弓師は防御・回避に補正が付かない後衛戦闘職で、武器も弓とか飛び道具に限られるからだ。

 戦士は、あらゆる武器のエキスパートで、全ての防具が装備できるガチガチの前衛職。

 探索者は、武器も使うが本職は迷宮探索における斥候役。なので短剣や短槍などの軽い武器や皮鎧まで軽い防具しか装備できない中衛職。

 弓師は、弓などの飛び道具のエキスパートの後衛職。

 順番に前衛・中衛(遊撃)・後衛が得意な戦闘職と言えば分りやすいだろう。しかし、戦士も探索者も、弓や投石器と言った飛び道具も使えるから、弓師は後衛に特化し、比較的安く戦闘スキルを覚える為の選択肢とも言える。

 最後に、補助職として猟師(ハンター)知恵者(アンサー)吟遊詩人(ミンストレル)といったスキルがある。

 弓師と猟師って同じじゃねーの、と思ったが、弓師は弓兵としてのスキルで、レベルが上がると武技(アーツ)を覚えられるが、猟師は弓やボーラと言った飛び道具を扱える点は弓師と同じだが、武技は覚えられない。代わりに、野外での罠設置や解除、野外生活一般の知識を含むスキルらしい。

 知恵者は、学術的に系統だった知識に関するスキルで、みんな大好き「鑑定」技能はこれに含まれる。

 ウカツな性格な人は、極振りしたくなるかもしれないが、説明を良く読むと「知識神の大図書館に修められた事がある学術書に基づき、対象を判別する」と書かれており、ここに大きな落とし穴が隠れていると判る。

 つまり、「何でもは知らないわ、知ってる事だけ」という鑑定様だ。

 あと「鑑定」技能は、仲間のステータスを一部見る事も出来るのだが、相手の同意なしだと自動的に失敗するので、敵のHPとかスキル構成が知りたい、と言う使い方も出来ない。

 何が言いたいかと言うと、「鑑定」チートは無理である、という話だ。

 では、知恵者スキルって要らなくねぇ?と思うかもしれないが、文明レベルが中世の異世界に於いて、学問的に体系だった知識に簡単にアクセスできる恩恵は計り知れない。

 支配階級の必須スキルと言われているらしい。

 また、魔術師スキルを学ぶ際にポイント軽減の恩恵があったり、魔物と戦うときに特技や弱点を知る事が出来る場合があるので、地味に便利である。

 最後の吟遊詩人だが、これも実用知識系のスキルである。

 楽器を扱えるようになる事は言うまでも無いのだが、猟師と同様に、旅人として必要な野外生活一般の知識を含むスキルなのだ。

 それ以外には、街で音楽を披露して、お捻りを貰って路銀を稼ぐ事も出来るらしい。

 天使が「生き延びる為に有用なスキルに絞ってある」と言って居るのだから、一見ハズレ風の猟師や吟遊詩人スキルを持たないチームは、生き延びるのに苦労する事になるのだろう。

 わざわざチーム分けした以上、こうしたスキルをチーム内でバランスよくとる事が求められている、と考えるべきであり、空気が読めるキョロ充としては、チームの皆さんの初期スキルと、成長方針を聞いてみることにした。

 カリスマ・大津君曰く「初期職業は騎士、戦士と知恵者スキルが1ずつ貰えたみたいだ。勇者を目指したいから、魔術師スキルを1だけ取ったら、あとは戦士スキルに全振りかな?(キラッ)」

 …ていうか、初期職業が騎士ってナニ?

 リア充様はここでも特別扱いなの?

 僕なんて一般人なんですけど。

 最初に勇者に関する質問をしていた事もあり、納得のスキル構成と言える。

 戦士3、魔術師1、知恵者1で、余ったポイントは戦士を4に伸ばすために残しておくとのこと。

 あれ、魔術師って鎧装備に制限があったはず…どうする気なんだろう。

「ああ、低レベルの魔術師スキルは、便利な生活魔法が主だから、戦闘中は使う気ないんだ。

 キャンプ中に使うだけ。

 当面は戦士として育成して、装備が揃ってきたら、魔法剣士として育成するんだよ(キラッ)」

 流石はハイスペックイケメン、先の事もキッチリ考えているようだ。

 気を取り直して、女王新垣さん。

「あたしのは魔法使いね。

 折角ファンタジー世界に行くんだから、魔法をを極めてみたいわ。

 カズ、騎士なら私を守りなさいよ(ツーン)」

 …アッハイ、純粋後衛なんですね。

 初期スキルのオマケでついてきた知恵者スキル1は伸ばさず、全部魔術師スキルにつぎ込んで、LV3にしたらしい。

 レベル3ともなれば、一人前の魔術師として通用する技量であり、使い魔を作ったり、低位のゴーレムを使役したり、小さな物置サイズの亜空間倉庫を作れるようになったりする。

 攻撃魔法も強力なものが揃い始めるから、戦闘力も高い。

 戦闘に限れば、大津君と新垣さんだけで十分戦えるスキル構成であり、恋人同士だけあって、息が合っているというべきだろう。

 次は、スポーツメン小沢君。

「俺は傭兵だった。初期で戦士スキルを貰ったし、これ一本を極めてみるさ(ニカッ)」

 宣言通り、初期ポイントも追加ポイントも全部戦士につぎ込んで、LV4に達している。

 しかし、余りポイントも結構多く残っていた。

「LV5って結構必要ポイントが高くてさ(ニカッ)」

 高い肉体能力と相まって、戦闘力ではカリスマ・大津君より1枚ほど上の純粋前衛。

 さて、続いてはお仲間である取り巻き陣。

 カリスマ・大津君の取り巻きで、ヒョロリとしたチャラ男な倉本君は、テニス部のカジュアル部員で明るいムードメーカである。

 大津君の振る話題を盛り上げる要員だし、支援系になるのかな…と思ってました。

 チャラ男な倉本君いわく。

「精霊使だって、やっべ、俺呪文とか唱えちゃうの?

 こー言うロープレって、レベルを上げて物理で殴るのが最強っしょ

 貰えるポイント全部戦士だわー(ヘラッ)」

 初期スキルの精霊使1は放置して、初期ポイントと追加ポイントを全部つぎ込んで、戦士が4になっていた。

 スポーツメン小沢君に比べるとステータスで劣るが、レベルで1つ上の分、カリスマ・大津君と互角の戦闘力になっている。

 普段は、大津君の気分を損ねないようにと、狡猾な光を奥に隠していた倉本君の瞳には、下剋上を狙う佞臣のネットリとした淀みが浮かび、時折女王新垣さんに向ける視線には、粘つく欲望の色が潜んでいる。

 …ああ、これはアカン奴や。

 既に前衛過多と言える状況に、頭痛を覚えつつ、スポーツメンの取り巻きで、足の速い小柄な小柳君に聞いてみた。

 小柄な小柳君いわく。

「えっ、俺、神官なの!?マジで? ないわー。

 カミサマとかちょーメンドいし。

 自由の神とか良いんじゃね? あとは男なら戦士っしょ(シュタッ)」

 小柳(ブルータス)、お前もか!

 脳筋気味だが、ゲーマーでもある小柳君は、ただ純粋に前衛戦闘職がやりたかったらしい。

 ゲーマーらしく、回復の重要性も理解していたのか、

「とりあえず戦士4にしたけど、ポイント溜まったら神官2にする。

 戦闘も出来て回復も出来るとか、最強じゃね?(シュタッ)」

 その意見には同意だが、何で今2レベルにしてないのか。

「いやだって、倉本にレベル負けたくないしさ(シュタッ)」

 どうやら、取り巻き同士のパワーバランスを考慮した結果らしい。

 …なにコレ、女王以外、全員戦士偏重って。

 つまり、前衛4、後衛1という超攻撃編成だ。

 一応、スポーツメン以外は魔法職も兼任しているけど、鍵を開けたり、罠を調べたりする探索者が居ないし、回復役の神官が戦士偏重でレベル1しかない。

 脳筋の小柳君はMPも少ないので、回復魔法2発で打ち止めになる。

 ゲーマーとしては、探索者と神官兼業でどちらかを3レベルにし、補助に猟師スキルを1だけ取って回復と探索が出来る汎用軽戦士をやりたかったのだが、空気が読めるキョロ充としては、このチームの穴を埋めるスキルを取らざるを得ない。

 具体的に言うなら、器用貧乏上等で、広く浅くスキルを取るしかない、と覚悟を決めた。

 カリスマ・大津君の言うとおり、魔術師レベル1には便利な生活魔法が揃っているので、確保する。

 他の面々の様に、戦士として大成したいなら、防具に厳しい制限が付く魔術師は論外になるが、マジックバッグの魔法は重要である。

 マジックバッグの魔法は儀式呪文で、大型リュック4つ分程度ではあるが、荷物を異空間に仕舞う事が出来るようになるから、持ち歩ける物資量が格段に増える。

 魔術師レベル3になると、マジックストアハウスというマジックバッグの上位呪文が使えるようになり、魔術師レベル7になると、マジックルームと呼ばれる個室まで持てるようになるらしい。

 マジックバッグの為だけでも十分取る価値があるし、実質オマケで知恵者スキルが付いてくるのもお得だから、迷わず取得した。

 続けて、チームに一人もいない探索者スキルを取る。

 探索者は、軽い皮鎧までしか装備できないのだが、魔術師スキルのお蔭で布装備か皮の服までしか装備出来ないから、デメリットはほぼ無いも同然だ。

 ここまでで、初期配布ポイントが尽きた。

 続けて、精霊使と神官と猟師スキルを各1レベルで取得した。

 精霊使は水の浄化魔法があり、屋外生活で重要な安全な水を確保しやすくなるし、回復魔法が使える神官は、専業回復職が居ないこのチームだと多くて困る事は無い。

 信仰するのは、幸運の加護を得られる幸運神。

 猟師スキルが無いと、野宿とかの際に困るので、これまた必須である。

 残るポイントだと、神官か探索者をレベル2まで上げるか、猟師か知恵者をレベル3まで上げる事が出来る。

 回復魔法の為には、神官レベルを上げた方が良いのだが、中衛から後衛のアタッカーとして戦う為には、探索者か猟師のレベルを上げない事には、すぐに役立たずになる。

 弓限定とはいえ、レベル3ならプロ並みの腕前なのだから、猟師のレベルを3上げた。

 最終的なスキル構成は…

 猟師3、探索者1、魔術師1、精霊使1、神官1、知恵者1、料理人3。

 なにこの器用貧乏。

 しかし、一応レベル3の技量で後衛から弓攻撃出来るし、野外生活知識も十分だ。

 そして、レベル1とはいえ探索者のスキルがあるから、バックアタックされても避ける事に専念すれば、すぐには死なないだろう。

 魔法職を3役全部取っているから、チームで手薄な所の補助をするだけなら、レベル1で当面は何とかなる。

 空気が読めるキョロ充らしい、序盤のお助けキャラの様なステータスになってしまったが、後からパーティの足りない部分が明確になった後に、その方向で育てられれば良いだろう、と思った。

 ステータスを削る事で、ポイントを捻出する事も出来るようだが、ステータスを削って得られるポイントが、ステータスを上げる為のポイントの半分なので、これは価値なし、と判断した。

「ウェーイ、俺は何でも出来る、何でも屋って事で(チャラッ!)」

 どうやら、色々とスキル構成に悩んでいる内に、結構な時間が経っていたらしい。

 僕以外のクラスメイトは、全員スキルを取り終っていたようだ。

「さて、皆さん。スキルも取り終って、後は異世界に行くばかりです。

 詳しい説明は、向こうで受けられるとは思いますが…。

 あなた方は彼らの都合で無理やり呼び出された、拉致被害者です…なんて事はありません。

 何故なら、あなた方は、向こうの世界の神と我が神との約定に基づいて送り出されたモノだからです。

 彼らにとって召喚勇者は神からの恩寵なのです。

 向こうでそんな事を言えば、背教者、魔族として即座に殺されてしまうでしょう。

 彼らの奴隷になれ、などと言うつもりはございませんが、協力的な態度を取らない召喚勇者は、

 相応の対応を取られますので、ご注意をしてください。

 もちろん、もう一つの人生を楽しむなんて面倒だから、即座に殺されたい場合は構いません」

 ゲームの様なスキル取得が楽しくて忘れていたが、この異世界転移は「アカン奴」だ。

 他にも気づいているクラスメイトは何人か居るようだけれど、僕たちは死んだら、そこで終了なのだと思う。

 おそらく、天使からのこの「注意」は、本当に善意からの「忠告」なのだろう。

「それでは良い、もう一つの人生を」

 天使がそう言うと、急速に視界が白い霧に覆われていく。

 どよめくクライメイトの声も、どんどん遠ざかって行く。

 僕は意識を失った。


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