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ドラゴンNO涙  作者: caem
第5章・終わらせる。すべての茶番に。決着を。
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漕ぎ出そう。新たな未来へ、突き進め! その10。




 舞台は一転。

 ─── 時を少し遡る ───


 慌てふためくヒナ。

 短髪が激しく燃え盛る。

 

 両親は不在。 共働きではない。

 いつもなら「おかえり」の一言があった。


 父親はそこそこ有名で、超一流ではないもののとある(・・・)企業に支えている。

 決してお給金には恵まれていないが、それでも一家三人を養える余裕はあった。

 平社員でも、細やかな日常を築くぐらいは稼いでいたものだ。

 況してや一人娘。

 兄弟などは一切存在せず、箱入り娘(・・・・)とはまさしく彼女(ヒナ)のことだろう。


 いつも影から見守ってきた。

 それは父親としての債務なのだろう。


 母親は「放っておけ」と皿を磨き、家事に専念していた。

 飛び散る水飛沫からは冷淡さが滲む。

 所作の随意には最早、父親に対する愚痴などは皆無であり、それが当たり前だと告げているようだった。


 軽く食事を済ませ、手元にあった新聞紙を掴む。

 穏やかな湯気。 ほうじ茶をゆっくりと口に含み遠巻きに瞳を細めく。


 寄る年波には叶わない。

 ()くして、傍らにあった銀縁眼鏡を片手にしてピントを合わせる。

 老眼なのか、はたまた近視か遠視か。

 混じる白髪を掻き(むし)りつつ、じっくりと文字を眺めるのである。


 ……一時。

 尊き時間は春の小川のように清廉に流れた。


 言葉は掛けられていなかったが、自然と添えられたコーヒーカップ。

 丁度良い頃合い。 適温。


 人差し指を通し、口許に含ませたその時 ── ぐらぐらと大地は揺れ、思いもよらなかった現象に失いかけた想いが互いを引き寄せた。


 いったい、いつぶりだろうか。

 息が頬に吹きかかる程の距離。

 年相応にして滲む(しわ)

 今まで気づきやしなかった。


 お互い、年を取ったものだ。


 皺の数を数えたくもなかったが、瞳の奥底から訴えてくる慟哭は胸を揺さぶり、その昂りは隠しきれない。


 天変地異にも等しき轟音。

 かつての大震災など目でもなかった。

 

 男として、いや女として譲れない部分はあったのだろう。

 口を閉ざしたまま、相容れないふたり。

 ヒナの両親はくだらない誇り(プライド)にすがり付いていたようであった。


 それは冷えきった家庭環境を意味している。


 当人、ヒナはあまりというか(ほとん)ど気にしていなかったが、年を経るにつれてそれ(・・)は顕著と成っていた。


 冷たい空気が漂う夕食(どき)

 そんなのは日常茶飯事であり。全く気にするまでもない。


 しかし愛情が無かったといえば、そうではない。

 何せ産み育ててくれた()にも等しき存在だ。


 ようやく帰ってきた温かみに触れるべくして玄関の扉を開き、当たり前のようにヒナは掛け声を発する。


「ただいま~!!」


 滲む鼓動をひた隠し、ヒナは元気良く帰還を告げた。


 だが鎮まり返った気配がすべてを却下したのである。

 辺りに飛び散る臭気が籠める破片。

 燃え盛る家具は鳴りを潜め、焔は終息を迎えようとしていた。


 一頻り屋内を見渡し、途方にくれる。


「大丈夫?」


 心配してくれる声などは一切心に届かなかった。

 虚ろな目線で床に崩れ落ちる。

 異変を感じた同級生、その場をカナミに委せるトールを無視したままで。


 やがてゴロンと年下の幼馴染み(・・・・)に膝枕を強要したヒナ。

 彼女は視点も定まらず、空虚に身を委せきっていた。


 偉大なる魔術師・バレンシアでさえ疲労の色は濃く、冷たい床に突っ伏している。

 多分、常日頃からプラス思考であったカナミですら可愛げなツインテールに悲しみが帯びていた。

 一筋の涙が溢れ落ち、愛しい者へと投げ掛ける。


「こんなのって……無いよ……」


 その場に居ない剣道少女(トール)の存在感が大きかったのか。

 カナミは凍え震えるヒナを抱き締め、冷えきった額に優しく唇を添えた。


 家族とも等しい欠けがえ(・・・・)の無い存在である。

 共に青春時代を分かち合い励まし、時には激しくぶつかり合った。


 カナミにとってヒナは唯一無二の、大切な……大好きなひと、その者であったのだ。

 歪んだ感情かもしれないが、それは否めない。


 同性愛。

 他の誰にもとやかく言われたくはない。

 疲れきった髪を優しく撫でながら、カナミはぽろぽろと情哭を散らしてしまう。

 霞みきった頬にしがらみが伴い、全てを包み込んでしまいたかったのだろうか。


 しかし、そんな一時に厳しい現実が突きつけられる。

 はたとして、(おもて)をあげたカナミ。


 突きつけられた視線は厳しく、凶悪な眼差しが心の臓を締め付けたのである。

 この世の全てを掌握したかのような殺意。

 過去、まるで歯が立たなかった悪魔(・・)が腕を組み畏怖堂々と(そび)え立っていた。

 ほどなくして、ヤツ(・・)は告げる。


「貴様らの()を寄越せ」


 縮み上がった身体を(なげう)ち、だがカナミは座ったまま言い放つ。


 「……させない……」


 ふんぞり返る傲慢、且つ凶悪な眼差しに懸命に抵抗するのだ。


 勝率は1%にも満たない。

 あくまでもそれは意地(・・)なのだろうか。

 しかし、たぎる闘志は本物だった。


 遮る悪魔 『暴虐』のグランヴィアに対して一歩も引かす、カナミは甚だしい殺意を顕にする。


「ふむ。致し方ない」


 時を越えた一撃。

 絶大なる拳が添えられようとした。

 ただ添えるだけで全てを刈り取る掌打が忍び寄る。


 覚悟を決めたその一瞬 ── 光りは世界を覆い尽くさんばかりに注がれ、茶目っ気たっぷりな愛嬌が時を紡いだのである。


「そうは……させませんぜぇ……?」


 光を司る竜。

 『光帝』は立ちはだかる。

 それはまるで愛しき者を守る勇者のように。


 蒼然と光輝く竜は、極悪な、邪悪な意志を断ち切るべくして拳を握りしめるのだ。

 ようやく出番がきたのかと。

 勇ましいようであったのだが、果たして、結果は如何(いか)に。


「ほう、面白い……最強(・・)を謳うモノよ、かかってこい……!!」


 なんとも嬉しそうな表情を浮かべ、相対する『暴虐(アクマ)』と『光帝(リュウ)』。


 今ここに()いて……最強の看板を賭けた闘い(バトル)が開幕されたのである。


 夥しい余波に捲き込まれまいとするカナミ。

 彼女は最早、天に祈るしかなかった。

 願いが聞き入れられるかは、別として ──




遅れがちですみません……!

(´。・д人)゛


次回は3月23日です。

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