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ドラゴンNO涙  作者: caem
第5章・終わらせる。すべての茶番に。決着を。
84/96

漕ぎ出そう。新たな未来へ、突き進め。その2。

短めです。

(´。・д人)゛




 深淵の最中(さなか)、悶え苦しみながらにしてその者は術式を紡ぐ。

 最早、(ことば)にすらなっていないが与えられた役割を果たすべくして ──


 蒼空の如く澄み渡る長髪にはもう輝きなど無く白髪は増し、その表情に刻まれる皺が一気に歳を加速させていた。


 偉大なる魔術師・バレンシア。

 彼女はかつての美貌など今や微塵も残されていない。

 その様子を心配そうに見つめる四人。


 明らかに無理をしているバレンシアに、代表してヒナが詰め寄る。


「もう、無理しないでください!」


「……私にはあなたたちを守る義務があります」


「…………っ」


 ぶつけられた眼差しに決意を感じてしまいヒナは思わずたじろいでしまった。

 だがそれでも食い下がらず、ヒナは咄嗟にバレンシアを抱き締めた。

 熱い思いと優しさが伝わり、仄かな嬉しさが彼女の心を解きほぐす。


 一粒の泪が頬を撫でつける ──


「そうだよ~、バレンシアさん。 もっと自分を大事にしてよ~……」


「うむ。 なぁに、いざとなればアタシがこんなもの(・・・・・)切り裂いてくれるわ!」


「ふほほ! 言いよるわい! じゃがこの状況ではのう……」


 ヒナと同じようにしてカナミはバレンシアに抱き付き、トールは剣を片手にふんぞり返る。

 そして、手鏡の妖怪・照魔鏡(しょうまきょう)は辺りを見回し、少し弱気な態度を見せていた。


 今、彼女達5人は漆黒の暗闇に閉ざされ、バレンシアの指先から発する僅かな光だけを頼りにさ迷い続けていたのであった。


 ただ光を灯すだけならそこまで苦しい思いをすることはない。

 しかし解放される矢先から全ての魔力が闇に奪われてしまうのだ。


 更に、ヒナ達は気付いていないが闇は温度や体力 ── つまりは生命(いのち)をも奪おうとし続けていた。


 バレンシアは片っ端から、あらゆる魔術を組み合わせつつ皆を守っていたのである。


 ふらつきながら、それでも前に出ようとするバレンシアの肩に手を回し、ヒナは寄り添うようにして共に歩む。


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


 苦悶の表情を浮かべるバレンシア。

 目付きも朦朧になり、最早限界を迎えようとしていた。


 と ── その時。




 ── 強烈な閃光が皆を覆う ──




「無事ですかい? 嬢ちゃん達!?」


 何処か愛嬌を感じる声色が耳を擽る。

 金色に光輝く竜が突如目の前に顕れ、長く延びた胴体で皆を優しく巻き付けたのだ。


「これは……いったい……?」


「いやぁ、あっしにもサッパリでさぁ……」


 地上へと降り立ち皆を下ろす竜。

 『光帝』はやがてドロンと姿を変え、そこには薄汚れた和服に身を包んだ中年男性が立っていた。


「……わたしは使っていませんよ?」


「でしょうねー……。 ってか、もうっ! 横になってください!」


 無理やり起き上がろうとするバレンシアの腕を掴み、ぐいっと膝元へ頭を乗せる。

 ヒナは膝枕をしながら彼女の頭を赤子を寝かし付けるようにして優しく撫でるのであった。


 と、そこで。

 辺りを見回していたカナミが驚愕の真実を皆に告げる。


現代(こっち)に帰ってきてるよね~……明らかに」


「ああ。 どう見てもここはウチの学校だな……」


「……ですが、大幅に()がズレ過ぎています……」


 カナミとトールの会話を割って。

 膝枕をされたままのバレンシアは微睡(まどろ)みながらも、指先からか細く光を放ち術式を発動させる。

 本来帰還される場所 ── カナミの家へと曲線が描かれたのだ。


「あ! またそんな事を…… めっ!」


 めっ! された偉大なる魔術師。

 わたしもされたいなぁ。

 おっと、失礼。



「に、しても……これはどうしたものか……」



 現実世界に帰還する際、都合よくも衣服は準じて着直されていた筈なのに。

 改めて視るに異世界(ファンタジー)感は否めない。


 トールは馬の尻尾よろしくポニーテールを棚引かせ首を傾げる。

 どこか困った様子で軽い笑みを吐き出し、だがゆっくりと着衣を撫で擦り満足げにしていたようでもあった。


 分かりやすくして、剣士の風貌。

 革鎧は滑らかに褐色を帯び、僅かではあるが頑健さを綻ばせる。


 況してや、片手にした長剣はこの世界では日常的に認められたモノではない。


  ── 『銃刀法違反』 ──


 ぎらつく輝きが即座に国家権力の犬を即座に呼びつけるであろう。

 それはトールだけでなく、ヒナやカナミにも、そしてバレンシアにも該当していた。

 現実世界にあまりにも似つかわない洋装美が()も、()の同人誌の会場に相応しい。


 有り体にいえば痛い格好の四人。

 高等学校の屋上から階下の景色を眺め今もなお悦に浸る、化けた『光帝』の姿の方が寧ろこの世界には似合っていたのだから。


 その当人『光帝』は違和感を覚え、ふと空を見上げた。


「……やべぇですぜ、こいつぁ……」


 釣られ、見上げる面々はその光景を目の当たりにして息を呑み口を閉ざす。

 麗らかな春の早朝。

 青々とした空は(よど)んだ暗闇を託し、全てを埋め尽くすようにして呻き声をあげていたのだ。


 同時に顕現する異世界の化け物。

 彼方(あちら)の世界で忌み嫌われている者達が時待たずとして侵食を開始する。


「これって……まさか……」


 バレンシアを膝枕をしたまま、ヒナは目前に拡がる有り得ない事象が次にいったい何を巻き起こすのか。

 眺めることしか出来ずに、ただ呆然とするしかなかったのであった。


次回は1月29日辺りの予定です。

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