抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その22。
今章ラストでございます。
今や天界を支える主柱の如く、その巨体は雄々しく聳え立つ。
背中に生やした真紅の翼は鋭く尖り、数多の天使の返り血を浴びて、より一層に艶かしい。
だが額から夥しいまでに流血を伴い、疲労も濃く。
折れてしまった角をひとつ握り締めては、絶え間なく押し寄せる激痛に、その身を大きく揺さぶられていた。
『無道』の悪魔・太郎。
進化を遂げた彼は心底苦しそうにして目前の大天使を睨み付ける。
「……はあッ……はあッ……。 どうした!! 貴様の力はそんなモノか!?」
嬉々として立ちはだかるは、同じく満身創痍の大天使、いや超巨大天使グレゴール。
肩で大きく息を切らしながら、だが決して闘志は萎えず、尚も膨れ上がってゆくのだ。
翼の折れた大天使は太郎に向かってゆく。
─── 見渡せば死屍累々。
他の大天使達も軒並み翼をへし折られ、またはボロ雑巾のように雑に投げ棄てられていた。
「……はぁ……はぁ……はぁ……っ」
その代償は、酷く今の太郎の現状をよく表していた。
3人の大天使達の猛攻をその身一つで耐え凌ぎ、況してやふたりを撃退したのは流石ではあるものの。
進化を遂げた太郎ですら、目前の巨大天使グレゴールには苦戦する一方であったのだ。
「ぬあああッ!! 浄化の拳撃ッ!!」
聖なる光を宿した拳が太郎のボディーへと叩き込まれる。
巨大化し過ぎたせいで動きが緩慢になってしまい。
太郎は、突き刺さった衝撃に思わず口許から血溜まりを溢す。
「うぼおおおうっ!!」
「まだまだあああッ!!」
拳から放射され続ける光は留まることを知らず。
太郎の身体を内部から粛正してゆく。
一切遠慮のない全身全霊の技が彼の者を滅さんとしていた。
割れんばかりにぎりぎりと奥歯を噛み締めて、必死に耐え抜こうとする。
やがて、太郎はグレゴールの猛攻を見事耐え抜き、次は自分の番だと技を繰り出す。
「デッビーーール!!」
イチイチ叫ばないと出せないのか?
私としては、出来れば遠慮して頂きたい。
『なろう。』の神、運営さまに楯突く気は毛頭ありませんので。
ともあれ、『無道』の悪魔・太郎はすかさず。
己が身に添えられた大天使グレゴールのその拳を両手で掴み握り締め、覚えたばかりの技を放つ。
『デビルアロー』。
折れた角を頼りにしながら。
大気を歪めるほど鮮烈な明かりが迸り、焔の如く揺らめく電撃が大天使グレゴールへと注がれる。
「ぐわあああああッ!?」
グレゴールは体躯を焦げ爆ぜ、その身の内を駆け巡る電撃に喚き散らかす。
口許から漏れる白煙。
脳髄が焼ききれてしまうほどの衝撃に、そして視線も朧気に宙を舞う。
定まらぬ意識に、それでも感極まり。
目前の悪魔に対して敬意を評していた。
「 ─── やるではないか……効いたぞ……」
好敵手と認めた彼、『無道』の悪魔を讃え。
グレゴールは今までにない感触に浸り、求めていたのは正しくこれだと爛々と瞳を輝かせていた。
だが ── しかし。
そんな熱い漢達の闘いを余所に、圧倒的な存在感を感じてしまい。
ふたりは思わず息を飲み、ゆっくりと後ろへと眼を配る。
「やれやれ……。『覚醒』してもその程度か……」
その身は小柄ながらも、純粋無垢にして絶対的存在感。
漆黒を身に纏った悪魔。
闘いに身を投じていたふたりは無言で振り向き、声の主を追う。
唯一無二にして最強を謳う者。
『暴虐』の悪魔・グランヴィア。
歩を進める度に、大気は歪みを帯び空間を捻曲げる。
足許の雲海は彼が歩むと同時に漆黒に染まり、横たわっていた残骸は悲鳴など発せず。
やがて塵芥と成り、霧散してゆく。
「 ─── グランヴィア様 ─── 」
グレゴールは尊敬の念を送りつつも、恐怖心が勝ってしまい、かつての大天使長を怯えた目付きで捉えた。
「ふん。貴様に様付けされる謂れは無い」
対する『暴虐』は一度たりとも目を合わせず。
まるで路傍の石ころであるかのように、一際目立つ体躯のグレゴールをサラリと無視した。
「時は一刻を要する。『無道』よ、そこを退け」
向けられた迫力に思わず道を譲る『無道』の悪魔・太郎。
決して相手にしてはならないのだと、全細胞が告げていた。
太郎は無言でグランヴィアの往く据えを見守る。
「……くっ!! ここから先へは行かせんッ!!」
立ちはだかるは超巨大天使。
グレゴールはこれでもかと両腕を拡げ、動かざること山の如し。
だが、それは意味の無いことであった。
「退け」
たった一言。
瞬時に添えられた拳は物語る。
唯一点。
凡てをそこに置いてきたと ─── 。
「 ─── っっツ!?」
全身を劈くらう衝撃が脳髄まで響き渡り、無機質な塊と化した大天使。
稲妻に打たれた ── そう現してもいいかも知れない。
彼は立ったままにして、意識を失っていたのであった。
「温い。だからここは好かんのだ……」
ポツリと呟かれた悪態からはどうやら、次の舞台を求めているようだった。
瞳の奥に真の野望を灯し、一瞬ではあるが双眸を伏せるグランヴィア。
尚も開かれた瞳の彼方に拡がりゆく暗黒の輝きが映り、彼は一際邪悪に口角を歪ませる。
それはまさしく不敵な笑みであった。
「 ── さあ。終焉の時は来た ──」
天を仰ぎ讃え、大きく開かれた両腕はまるで慈しみに溢れ。
ひとしおの歓喜に浸るもやがて、目前の御殿。
『神宮』へと凡ては注がれる。
「神よ。お前はもう、用済みだ ─── 」
その時。
天界に鳴り響く鐘は終わりを告げ盛大に割れる。
闇はその成りを全て現し、奈落の影が行き先を求めて一斉に集い始めた。
異世界大陸ファンタジスタの各地方を脅かす『虚無』は荒れ狂い、その一点 ── 暗黒の輝きへと収束されてゆく。
──────
その時。
全てが消滅した。
もうちょい話を入れようか迷っていましたが……。
次章は最終章に繋げます。
舞台は現代へと移ります。
次回は1月15日辺りの予定です。




