抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その21。
茶番のような戦闘回。
いや、戦闘回のような茶番?
では、どうぞっ
「真っ赤に燃やせ!!」
「ぬぅ……これは……」
初っぱなから大技を叩き込む『炎帝』。
本来ならば障壁としての用途なのだが器用に使いこなし、『黒帝』の周囲を虫籠のようにして炎熱が取り囲む。
揺らめく大気が威力を発揮し、従属である火蜥蜴がやんややんやと騒ぎ歓喜に充ち溢れていた。
「ぐ、ぬ……」
眉間を歪め、苦痛の表情を浮かべる『黒帝』に更に、執拗なまでに炎は襲いかかる。
ひとつ、またひとつと。
遥か天空へと聳え立つ火柱。
それらは規則正しく建ち並び、やがて一点 ── 『黒帝』へと収束されてゆく。
派手な騒音を辺り一面に轟かせ、灼熱の光が全てを埋め尽くすべく放射状に拡がった。
焼き付く大地はぐつぐつと煮えたぎり、まさしく地獄の焦土と化す。
獄炎は生有るモノ全てを呑み込み、視界を遮るほどの熱気を発していた。
だが、彼の者の欠片たりとも見当たらず、『炎帝』は眉をひそめ、怪訝な表情で様子を窺う。
── 頭上注意。
鳴り響く警報に導かれ見上げると、闇色の空間から、何者をも呑み込まんと大きく開かれた両顎があった。
闇に溶け込み、闇から顕れる。
これこそが『黒帝』の真骨頂なのだ。
妖怪人間ではないので、決して人間になりたくはない。
「やらせはせんぞぉぉぅッ!!」
『おこ』から発生されたそれではない。
『炎帝』の躯を包んでいた炎は瞬時にして益々燃え盛り、全身のみならず、周囲全てに業火が放射された。
「ぐうッ!?」
膨大な熱量に火傷を負い、『黒帝』はこれはたまらんとばかりに再び闇へと潜み逃げ込む。
埒が明かないその様子に苛立つも、『炎帝』は更に熱量を増大させてゆく。
── 太陽 ──
そう言っても過言ではない。
大地に降臨した熱球は最早、他の追従を赦さないまでに神秘的な輝きを辺り構わず撒き散らかす。
あらゆる攻撃に対して完全なる防御でありながらにして最強の攻撃技。
しかも、『炎帝』自身にとっては回復の効果も得られるという。
果たして、太陽に敵うモノなどいるのだろうか。
「……面白い……。貴様の炎が勝つか、我が闇が勝つか。試してみようではないか……」
成りを潜めていた『黒帝』は現場からかなり離れた場所で姿を顕し、全身から闇を放出し始める。
徐々に拡がる漆黒の闘気か魔力か。
目前の太陽と化した『炎帝』に負けず劣らずの暗黒の塊が今を以て形成されたのだ。
互いが近づくにつれ大地は激しく震動し、端々から大気は輝きに充ちてゆく。
ぶつかり合う『炎帝』と『黒帝』。
どちらかが消滅するまで、この大規模な環境破壊は永遠に続くであろう。
「あんさんら。ソコまでにしとくんなせい」
── 突如。
戦場に全く不似合いな声がふたりに投げ掛けられた。
─ ようやくの出番でヤンス ─
彼らの頭上遥か高く天空に、光輝きを魅せる竜は嬉々として髭を撫でる。
すらりと伸びた躯はとぐろを巻き、眼下で繰り広げられていた闘争劇にどこかウンザリしたかのようにため息を漏らす。
光の化身 ── 『光帝』。
最も古くから存在し、限りなく【真竜】に近いとされている竜。
目映さには定評がある彼は、ふたりの闘いを一時休戦させるほどであった。
圧倒的な、それでいて鬱陶しいまでの光が皆のものを釘付けにする。
「お。へへ♪ よござんす、よござんすねぃ♪」
ただ、軽い。
そんな事はお構いなしに、立て続けに彼は言う。
「ようく耳をすませてくんなせい。ほうら……」
いったい何を伝えようとしているのか理解できないものの、『炎帝』『黒帝』のみならず。
戦場に集った面々は耳をすまし感覚を研ぎ澄ます。
「む。これは……」
気付き言い放つ第一声は『黒帝』のモノであった。
有りとあらゆる生物の悲鳴や絶叫が木霊したのち、やがてその全てが記憶から消え去ってしまう。
言い表しようの無い奇妙な違和感だけが残り、同じ『呑み込む者』として思い当たる節があった。
異世界大陸ファンタジスタで自分達に次いで恐れられている現象、または天災。
『虚化』による浸食現象である。
それはかつて無いまでに増殖の一途をたどり、どうやら一点を目指し収束していた。
「ほう。流石は黒の旦那。話が早くてすみまさぁな♪」
「して、『光』よ。だが、それがどうした? くだらぬ事象よ」
我関せずの姿勢を貫き鼻息を荒くする『炎帝』は再び迸る闘志を放ち始める。
しかし、彼は違った。
もっぱら生き甲斐としている帝国との戦争。
『黒帝』にとって『虚化』はかなり邪魔な、厄介な代物であったのだ。
「ふむ。して我はどうすればよい?」
「な……貴様ァ……。この我輩を無視しようか!?」
「まぁまぁ、『炎』の旦那も落ち着いてくださいやせんか?」
いつのまにやら、ふたりの竜の手前には各々のサイズに似合った茶が振る舞われていた。
全く以て能力の無駄遣いである。
いや、落ち着いてる場合ではない。
ことは九を要するのだ。
間違えた。
急を要するのである。
「「 ずずぅ…… 」」
茶を啜るふたり。
既にこの時点で『光帝』のペースに嵌められている。
いや、だから。 落ち着いてる場合ではない。
「へへ。では1席……」
小噺を始めようとした『光帝』。
おう、お前ちょっとコッチこいや。
………………。
「んんっ。話を戻しやす」
些か腫れ上がったコブを擦りながら『光帝』は、今大陸で起こっている現状をようやく説明する。
ふたりは茶を啜りながら黙って話を聞いているようだ。
「……ふむ。理解した。ようは……アレを焼き尽くせば良いのだな?」
「違う。質の近い我が闇に取り込めば良いのだ」
「なんだと! 我の炎であればあんなモノは楽勝だ!!」
「いーや! 断じて否!! 我の闇でじゅーぶんですぅ!!」
「……お互い、年を考えてくださいやせんかねぇ……」
「「 お前が言うな!!」」
などと、漫才を続けるも、三匹のおっさんは立ち上がり、共闘を組む。
目指すは彼の地。
遥か彼方ではあるものの、光を司る『光帝』にとっては容易い距離である。
「嬢ちゃん達……無事でいてくれよ……」
一言、ぼそりと呟いて。
一筋の光が大地を貫き、これ以上はないぐらいに頼りになる援軍を引き連れて行ったのであった。
どうにも、ヤツが絡むと長引いてしまう(爆)
いや、私のせいなんですけどね。
(;゜∇゜)
次回は1月11日辺りの予定です。




