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ドラゴンNO涙  作者: caem
第4章・暴れだす。幕を引き裂き、さぁ、開演だ。
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抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その20。

新年一発目。

宜しくお願いいたします。




 暗雲立ち混む空の下、帝国では軍人達が集い、サーカス小屋を想わせる仮組みされた幕下(テント)の中で意見を激しく酌み交わしていた。


「違う! そうではない!!」

「いや、だから! ここはこうせよと申しておるではないか!!」


「う~ん。それもどうかと? いっそのこと、ここをこう……」

「あいや、待たれよ。そこがアレでそしてこんな感じで」

「おぬしの言うことはサッパリ分からん!」


(メシ)ゃあ、まだかのう……」

「もう。さっき食べたばかりでしょ?」


「……ふむ。一旦、小休止しませぬか?」


 僅かばかりに拓けた大地。

 渇いた地面に五月蝿そうに敷き詰められた豪華絢爛な絨毯が目につく。

 外はといえば ──

 砂利を丁寧に払われた風景は夥しいまでの兵士で所狭しと埋め尽くされ、辺りには緊迫感が漂うていた。


 察するに、会議か。

 幕下の中。 各部隊の責任者達はあれでもない、これでもないと唸り声をあげていた。


「申しあげますッ!!」


 突如、幕を開き、悲壮な面持ちで近況を告げる一般兵。

 いや、装備は単純(シンプル)ながらもその実力を認められた証が僅かに胸に光り輝く。


  ── 『聖騎士団』。

 限られた者達で統合された精鋭部隊。

 各々(おのおの)が世界で名を馳せる武人であり、または【聖なる魔法使い】でもあるのだ。


 極めた体術や、魔術。

 戦闘力は一流の冒険者にもひけをとらない。

 だが、そんな彼でさえ疲労は激しかったようであった。

 身体には、頑健に鈍る銀製の鎧に漆黒の刃が痛々しく突き刺さり、その脅威を皆に知らしめていた。


「 『黒帝』が……またもや進撃を始めました!!」


 それを期に、集う面々は互いに見つめあい、誰の責任にしようかと言葉を選ぶ。

 所詮、烏合の衆であろうか。


 しかし、じいっと傍観を極め込み。

 最善を導きだそうとしていた太い眉毛はクワッと持ち上がり。

 ()の将軍は意を決して立ち上がるのだ。


「皆のもの! 立ち止まっている場合ではない!! 今度こそ我らが帝国の力を(にっく)き奴に魅せつける時だ!!」


 その瞳に熱血を宿し、壮年の(おとこ)は熱い思いをこれでもかと撒き散らかした。

 突き付けられた感情に否定も出来ず。

 皆は一様にして黙りこくる。


 やがて告げられる二の句を待ち、神妙にして唾を飲み込む軍上層部の面々。

 険しい表情の将軍は、更に皆を焚き付ける。


「よいか! 我々に決して敗北の二文字は無い! 否、あってはならないのだ!!」


 強烈に机に叩きつけられた拳により、会議室は()くも激しく揺れてはその威力に怯えたようであった。


 と ── その時。


「待て。まだだ」


 艦爆の如き唸る声が渋味を増して、皆の心を締め付ける。

 鮮やかな夕焼けを背負い、身に付けた、唯でさえ深紅の彩りをした荘厳な鎧が一層皆の目を奪った。

 続けざまに彼は言う。


「どうも様子がおかしい。皆のもの、外を見てみろ」


 否応なしに連れ出され、一同は景色を(つぶさ)に見渡した。

 何も気にかかる様子はない。

 しかし、ある一点を見つめ違和感を覚えた将軍は(しば)し熟孝したのち、考察を述べる。


「もしや……あの揺らめきは『炎帝』の前触れでは……」


 その発言に思わずぎょっとしてしまい、会話に努める当人を余所に、その他諸々はざわつき始める。


  ── 『炎帝』 ──


 異世界大陸ファンタジスタにおいて、危険視され続けてきた破壊の権化。

 炎を司る絶対なる支配者。

 数多の軍勢を率いた伝説の竜。


 歯向かうモノは(ことごと)く焼き尽くされ、通ったあとは地獄の焦土と化すと云われていた。


 帝国では、子供たちでさえその脅威を(そら)で謳えるであろう。

 いまだ尚、絵本の売れ行きは好調なのだから。


 寧ろ、その内容は都合よく改竄(かいざん)されてはいた。

 悪いやつはそのうち『炎帝』によって退治されてしまうという、『正義の使者』としての存在。


 憧れるようにして、実際は唯の天災に儘ならない。



「まさか……『黒帝』と『炎帝』が手を組んだのでしょうか?」


「いや、それは考えにくい。奴らは互いにいがみ合う。寧ろ ── 」


 言いかけて、他力本願ではあるものの一縷(いちる)の望みに期待した彼は僅かに口角を歪ませほくそ笑む。

 短めに整えられた顎髭に指を馴染ませ、事の成り行きを見守るように。


 『潰しあってくれれば良い』

 至極当然のことである。

 楽して勝ちを得るに、なんの躊躇いもない。

 世の常はやがて己を納得させ、事も無げに言葉を紡ぐ。


「全軍に通達せよ。(まも)りに徹せよと」


「は!」


 壮年の男は従い、懐から取り出した水晶球にて、言葉も拙いばかりに総司令からの伝言を投げ飛ばした。


「皆のもの! 守備に徹せよ!!」


 離れた戦地で勇ましく努めていた者達は唐突に放たれた伝令に驚くも、直ちに陣形は組み直される。

 魔法使いや神官達が防御を敷き、より堅牢に仕上がりを魅せてゆく。


 だが、果たして ── 。

 彼らはみな、非業な結末を知る(よし)もない。






 ─── 場面は移り変わる ─── 。






 傷付いた躰は既に癒され満足そうに、長く伸びた舌で口許を舐めずる漆黒の竜。

 『黒帝』は闇色に渦巻く大気からのっそりと首だけを晒し、辺りの様子を窺っていた。


「 ── まったく……。ようも我を楽しませてくれるわ……ふはははは!!」


 漆黒の巨体を宙に顕し、尚も(みなぎ)る闘志を盛大に撒き散らかして闇が周囲を喰らう。

 嬉々爛々として人族 ── 帝国との闘いに臨む『黒帝』。


「……む!? この気配は……」


 長く伸びた首を(かし)げ行く先を追い、定まらぬ視線が一点に留まる。

 煌々と揺らめく大気は熱を帯び、やがて己に襲い掛かるであろう事象に苛立ちが募った。


「我が(たの)しみを奪うつもりか ── 『炎帝』よ!!」


 漆黒の竜の覇気は一旦その矛先を変え、闇は鬱陶しさを以て膨れ上がる。

 何人足りとも、邪魔はさせぬと。


 ややもして、大軍勢による炎の歌が鳴り響き渡り、先陣を切る大将が猛々しくその覇気を突き付けてきた。


「ぐわははは!! 久しいな『黒帝』よ!!」


 進軍を続ける度に増していった炎は今や、世界全てを平らげんと。

 全てを焼き尽くさんとばかりに一途を辿り。


 対峙する漆黒の竜はその強大な(ほむら)を目の当たりにしてしまう。

 冷や汗は自然と伝い、実力差を感じた彼は固唾を飲むも、まさか同族である竜が自分に矛先を向けるとは露知らず。


 (だんま)りを極め込もうとしたが、相対せざるを得ず。

 恐る恐る言葉を選びつつ、白々しく言う。


「我に何かご用かな?」


「これは異なことを! 決まっておろう?」


 偉そうにふんぞり返る『炎帝』。

 騒々しい熱気(サツイ)が叩き付けられ、黒帝はその挑戦状をため息をつきながらも受け取らざるを得なかった。


「これだから、馬鹿は相手にしたくないのだ……」


 切なる呟きが吐き出され、全く聞こえていない様子であったにも関わらず。

 突如、『炎帝』から放たれた火の玉は周囲の闇を焼き払う。


「さぁ! 我に屈せよ!!」


 炎と闇による、壮絶な戦いの火蓋が切って落とされたのであった。




長引きそうなので分けました。

次話も今話の続きです。

次回は1月7日の予定です。

今年も宜しくお願いいたします。

m(_ _)m

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