抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その19。
前回の続き。
相変わらずの茶番バトルです(爆)
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わたしの名は上田。
そう、主に名付けられた。
今まではただの自転車などという無機物でしかなかった。
だがどうだろう。
この昂る、迸るチカラは。
わたしは繋がる兄弟達とともに宙を駆け抜ける。
主は言った。
「先ずは……。あの黒いヤツだな」
忌々しげに、ひどく大きなひとつ目玉の化け物の上で偉そうにしている者を見て。
「名前で呼ぼうよ~。確か……バルテズームだったっけ?」
惜しい。
ツインテールの少女はわざとらしく間違えたように言った。
「バルテズールだってば。ま、ナンでもいいけどねっ」
精悍な顔つきの、短髪の少女はややなげやりに言う。
実質、彼女が三人のリーダーらしい。
解せぬ。
何故、我が主が党首でないのか。
「では、計画通りに……」
月明かりを長い髪に靡かせて、少し痩せこけた様子の魔術師が皆に告げる。
彼女はわたしの恩人なので、贔屓してみる。
「おい、ぬし。何をぶつくさ言っておるのだ?」
…………。
何処からか、わたしに介入してくる謎の声。
すこし渇いた響きに老齢を感じる。
「おぬしじゃ、おぬし!」
!?
わたしに話しかけてくるあなたはいったい……。
「ワシの名は照魔鏡。おぬしは?」
わたしは上田と申します。
して、あなたは何故わたしと会話ができるのでしょうか。
「そりゃあワシとて元はおぬしと同じであったからのう」
感慨深そうに、その者は言った。
矢継ぎ早に、わたしに語りかける。
「よいか? おぬしは未だ名付けられたばかりじゃ。そう、急ぐでない。先ずはじっくり腰を据えよ」
まるで全てを見透かしたように、 照魔鏡とやらは諭すようにわたしに告げる。
その言葉に釣られるようにして、深呼吸をして、わたしは落ち着こうとする。
だが、そうも言っていられなかった。
突如猛烈に、主はわたしを駆り出すのだ。
数刻前まで融通も利かず、闘牛の如く、暴走の一途を辿っていたわたしを決して手放さなかった主。
況してや、名無しであったわたしに名前を付け、命まで与えてもらったのだから。
ならば、主に従わないわけがない。
ともに、彼の者を滅さんと。
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「……ぬうう……」
ひとつ目玉の化け物に乗るダークエルフのバルテズールは額から滲み出る大粒の汗を拭いつつ、険しい表情で辺りを警戒していた。
その宙高くには、漆黒で塗り染められた月を想わせる黒球を未だに制御している。
やがて意を決したのか、突如黒球の術式を解除した彼は息子に最終手段を促せた。
「致し方ない……。やれッ!!」
『バオオオオオンッ!!!!』
只でさえ不気味に開かれたひとつ目玉が、身体全てを呑み込むようにして拡がってゆく。
50% ……
75% ………
100% …………
─── 120% ───
途端、サッと身を縮み込ませ、自身に防壁魔術を施し司令官は言い放つ。
「拡散波動砲!! 撃ぇッ!!」
『ギヨオオオオオオオオオオオンンンッ!!!!』
刹那、一瞬にして夜明けを迎えたかのように眩しい閃光が辺り全てを包み込んでゆく。
「 ─── どう、だ……?」
恐る恐る立ち上がり、辺りの様子を伺うバルテズール。
目についた有りとあらゆる物は全て石造りの彫像と化していた。
筈だった。
目の前には、手鏡をバルテズールの方へと向ける、自転車に跨がる女子高生トールがしてやったりとほくそ笑んでいたのだ。
「 ─── な……。ナンだと!?」
「ホッホッホ! どうやらワシには通じぬようじゃの!」
突然耳にしたその声の行方を探り、やがてそれが目の前の手鏡であると察したバルテズールは激しい憎悪を叩き付ける。
「ぬえいッ!! 撃ぇッ!!」
『バオオオオオンッ!!』
先程のような強力なモノではないが、またしても放たれる石化光線。
しかし、その凶悪な煌めきを照魔鏡は悉く美味い酒をかっ喰らうかの如く飲み干してゆく。
「こっ……。これはいったい……ッ!?」
信じられない衝撃の光景を目の当たりにして、わなわなとその身を震わせ慄くバルテズール。
同様にしてバグベアードも、見た目はたかだか普通の古ぼけた手鏡に対して恐怖を隠せないようであった。
ただし、彼方の世界ではその恐るべき猛威に皆は迷惑を被っていたのだが。
「ま、ワシにはもう関係のないことじゃわい」
まるで口笛を吹き、見知らぬ存じぬを極め込む照魔鏡。
そう、彼はかつて自分が存在していた世界へと厄介ごとを全て押し付けたのだ。
「さあ。年貢の納め時だ!」
呆然と立ち尽くすバルテズールの目の前に瞬時に姿を表したトールは強く柄を握り締め、一閃。
彼を斜めに切り裂いた。
「グはッ!!」
そうなるのが定めであったかのように、激しく滴る血潮を伴いバルテズールは遥か地表へとその身を投げ出したのであった。
「「「 っしゃあッ!! 」」」
ガッツポーズをして、やっと得た勝利を讃え合う女子高生達。
しかし、落ち行く敗北者は僅かに目を見開き、懐から何かを取りだして邪悪に微笑む。
「……本番はこれからだ……」
それは、いつ。 何処ぞかで作られ完成された爆弾のような成りをしていた。
そして、彼の天才教授は、決して誰の味方でもないという証しでもあった。
バルテズールは手元で細やかに、紅く染まる起爆スイッチを押した。
「ポチっとな」
異世界大陸ファンタジスタに大きな異変が訪れる。
それは破滅のメッセージ。
次話は場面が少し逸れます。
12月17日辺りの予定です。