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ドラゴンNO涙  作者: caem
第4章・暴れだす。幕を引き裂き、さぁ、開演だ。
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抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その18。

少し短めかと。

ご容赦くださいませませ……。

(´。・д人)゛




 異世界大陸ファンタジスタに於いて、魔法は意外と簡単に身に付けることができる。


 それは想像力によるものが大きく作用する。


 例えば、炎を想像(イメージ)して指先に灯すなどは特に術式や呪文を詠唱する必要もない。

 幼少の頃から訓練を詰んでおけば、成人した際には、普段の生活と何ら変わらない程度に意の赴くままに魔法を使いこなせるであろう。


 ただし、それはあくまでも生活として役立つ程度のものであり、決して戦闘を前提としてはいない。

 もし、自分が少し魔法が使えるからといって現場(戦場など)に出ようものならば、レベルの低い妖魔ゴブリンやコボルトなどに瞬殺されるのがオチだ。


 上級の魔術師をもし目指すのであれば、正しい知識をよく学び、素早く呪文を詠唱することが大切なのだ。


 だが、一部例外も存在する。


 一層強く想像力を(たかぶ)らせ、術式が完成するまでに有りとあらゆる呪文を繋いでゆくという超高等な技。


 所謂(いわゆる)、『ためる』という行為に近い。

 そうすることで発動させる魔法をより強力なモノに出来るのである。


 今此処(ここ)に於いて、()れは立証されていた。




「くはははははッ!! どうしたどうした!? 逃げ惑うばかりではないか!!」


 歓喜に身を委ねながら、掌ないし、指先を忙しなく動かせて、発射された黒い球体を(たく)みに操るダークエルフのバルテズール。

 その黒球は大気を呑み、触れた物皆すべて手当たり次第に呑み尽くし増幅してゆく。


 バルテズールの奥義である()の魔術『シャドウ・フレア』は何があろうと決して霧散することなく、目標を喰らい尽くすまで持続するのだ。


「ほら! カナミ! ()いで()いで!!」


「うひいいい~ッ!! はぁっ! はぁっ!」


「こっちだ! 急げ!!」


 月夜を背景に、自転車を必死に()ぐ3人の女子高生。

 幾ら飛行機能を備えられたとはいえ、体力のなさに定評があるカナミはかなり苦しそうに自転車を()いでいた。


「ほら! こっちこっち!!」


「ちょ……ッ。待ってよ~……。はぁッ。はぁッ」


「ッ!! カナミ!! 後ろ後ろ!!」


「あんだ、バカ野郎~。って、うおいッ!?」


 間近まで迫っていた黒球に気付き、かつてないまでに必死な形相(へんがお)で疲弊した両足に鞭を打つ。

 最早そこには萌えの要素など皆無。


 (すんで)の所で(かわ)したカナミは息を切らしながら、ようやく皆と合流した。


  ()れは一際大きく天高く、何千年もの月日を経た雄大な巨木だった。

 太い幹の裏に身を隠し、一同は皆、息を潜める。

 と、そこで魔術師バレンシアがおずおずと挙手して小声で提案してきた。


「連結しましょうか?」


 危うい提案である。


 自転車が3連結するのは最早負けフラグでしかないのだから。

 だが、敢えて3人は同意した。

 何故なら、彼女たちはヒロインであり、悪玉トリオではない。

 況してや、性能が更に向上するのであれば、却下する必要もない。


 頷く彼女達の意を汲み取った魔術師バレンシアは言葉も少なく詠唱する。


繋げ(リンク)


 月明かりも(うらや)むほど(はかな)げな燐光は即座に彼女達の自転車を包み込み。

 今此処(ここ)()いて、トールを筆頭とする3連結の自転車部隊が結成されたのだ。


 ()れは不恰好な(サマ)などでは決して無い。

 一流の魔術師などでも感じ取れないほど、繊細且つ緻密な魔法。


 か細くも、頑丈な魔力の鎖によって連結されていたのだ。



「……ふん。それで隠れたつもりか?」


 全てを見透かしたような視線が邪悪に(わら)う。

 バルテズールは掌を押し出すように差し向けた。

 刹那、巨木の幹は粉砕どころか、闇に、黒球に呑み込まれた。


「むッ!?」


 (とど)めを指したと思ったのだが、手応えのなさに違和感を覚えたバルテズールは辺りを警戒する。


 上下左右、斜めへと眼球だけを賑やかせ、渇いた唇に舌を這わせる。

 額に滲む汗が酷く溢れている。

 数分にわたり極大魔術(シャドウ・フレア)に神経を集中させ続けているのだから当然であろう。

 ふと、視界の端に何かが見えた。


「そこだ!!」


 片手は黒球を制したまま、もう一方の空いた掌で詠唱もせずに術式を発動。

 漆黒の雷光が鋭く宙を切り裂く。


 あわれ、愛嬌のあるうさぎのぬいぐるみはブスブスと焦げ()ぜてしまった。


「ああっ……。にゃ~ちゃん……」


 そのネーミングにセンスは無かったのだが、カナミは合掌して冥福を祈る。


「何ッ!?」


 突如背後から聞こえた呟きに驚くも一切振り向きもせず、咄嗟に後ろ手に雷光を放つ。

 しかし、またもや(むな)しく空を切る。


「こ……これはいったい……!?」




  ()れは俗に「1秒間に地球を7回半回ることができる速さ」とも表現される。


 『光速』。


 宇宙における最大速度であり、物理学において時間と空間の基準となる特別な意味を持つ値でもある。

 ()れは此処(ここ)、異世界大陸ファンタジスタに()いても同様であった。


 連結された自転車は今や、光のはやさ(・・・)で宙を駆け巡っているのだ。

 身体がもたないとされていた懸念は、身体強化系の魔術によってサポートされているようである。


 ただし、かなり操作性が難しいらしく、皆を誘導するトールは制御するのが精一杯だった。


「くっ!」


「このっ!」


「ねりゃっ!!」


 先程、バルテズールの背後に回れたのは奇跡に近い。


 有らぬところで、奇声が発せられ。

 次の瞬間には、現場よりかなり遠く離れた山の頂上に現れたりと。

 トールは連結された自転車の性能にかなり手こずっていた。


 しかし、徐々に慣れてきたのか、トールはやがて思い通りに自転車を駆り始める。


「よーしよしよし。良い子だ。」


 まるで飼い慣らしたじゃじゃ馬のように、自転車のフレーム(トップチューブ)を愛しそうに撫で叩き。

 意を決して、嬉しそうにトールは叫ぶ。


「さあ。やるぞ! 上田!」


 一時期流行(はや)ったテレビドラマの決め台詞を口にして、皆の希望を乗せた自転車はより一層輝きを増すのであった。



足したかったのですが。

勢いが減速しそうだったので分けることにしました。

次回は12月14日辺りの予定です。

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