抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その16。
かなりカオスな茶番回です。
前話の最後に差し出された『鏡』の説明回です。
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舞台は一転し、時はおおきく遡る。
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「鏡よ、鏡よ。鏡さんんんッ!! この世で一番美しい者はだあれ!?」
『……それは貴方様でございます……』
壁一面を埋め尽くす程の巨大な鏡は、嫌々ながらもそう告げて、目の前で一際凶悪な裸体を曝け出す屈強な男性を映し出した。
見るからに暑苦しい。
その圧倒的な筋量を更に膨張させて、猛牛を彷彿させる角が装飾された仮面を被った男性。
漢は、忙しなく姿勢を変えては己の逞しさをこれでもかと魅せつける。
両肩には、彼の世紀末覇者を想わせる痛々しくも鮮烈に尖る肩パットを装着しており、頻りに体勢を変える度に風に靡く深紅の外套。
其れは曰く、究極銀河無敵最強漢。
其れは曰く、宇宙一美しい漢。
様々な伝説を産み出しては、その歴史の悉くを塗り潰し更新してゆく。
だが、その実態は、あくまでも己の肉体美を世に知らしめる為だけであった。
漢は、今日も今日とて余すことなく。
目を覚ました早朝から直ぐ様、筋繊維の隅々にまで意識を巡らし、切磋琢磨に励む。
時折、迸る汗が撒き散らかされてはキラキラと美しい放物線を描き、周囲を虹色に輝かせている。
「……あフぅん……」
零れる吐息が朱に染まり、やがて悦に浸る漢。
だが、そんな幸せのひとときは突如打ち破られるのだ。
バン! と、勢いよく開かれた厳かな扉から。
綻びを帯びた槍を片手にした兵士が息を切らしつつ、切実に危機を報告する。
「閣下!! 奴等が差し迫って参りました!!」
至る箇所から血を流し、鬼気迫る表情で敗北を告げる兵士。
黒光りする頑丈な鎧には何本もの弓が身体に突き刺さっているも、命からがら現場から。
否、戦場から逃げ切ってきたらしい。
其の報告に真に聴き入る事はなく、適当に漢は言う。
「んんん~? 良い。捨て置けいッ!! 余は忙しいのだッ!!」
瞳の端々に涙を溜め、一心不乱に助けを求める一般兵士になど一度たりとも視線も合わさず、一切振り向きもせずに。
ただ、ひと潮に押し寄せる激情に身を委ね、懸命に筋肉を誇示しては恍惚に酔いしれるラスボスらしき漢。
予期していなかったその反応に兵士はがくりと項垂れる。
その様子に、見るに耐えかねて。
常闇の中から現れたのは有望なる参謀。
漆黒の外套を其の身に纏った彼は呆れ顔の一般兵士に改めて、神妙な面持ちで問い掛ける。
「して。賊は如何なる者か?」
極めて冷静に、決して感情は表に出さず淡々と状況を伺いつつ、優しく差し出された掌が、たかが一兵卒である彼に優しく接する。
「は! つるっぱげの巨人が二人に、偉丈夫系美青年と妖艶系美女が連れ添い……」
「おっと!! そこまでにするダス!!」
突如、神々しいまでの光を背負い、彼等は現れた。
そして、自己紹介などすることもなく、いきなり最終奥義が繰り出される。
「喰らえ!! メンズビーーームッ!!」
三筋の凶悪な閃光が瞬き、あっという間に辺りを埋め尽くしてゆく。
鏡は、粉々に砕かれるのを紙一重で避け、別の世界へと転移した。
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「ここは……いったい……?」
鬱蒼と生い茂る竹林の更に奥深く、ひっそりと佇む古民家。
最早、誰も住んでいないようなのか、辺りには何者も生気が感じられない。
朽ちた柱に取り付けられた時計の秒針は既に時を刻まず。
静寂が支配するも、そこかしこから注がれる柔かな陽の光を浴びていた。
かつては化粧直しなどで使われていた手鏡。
転移してきた先は、それまでの騒々しさを一切洗い流し、鏡は漸く訪れた幸せを深く、深く噛みしめる。
時折聴こえる笹の音。
そよそよと、耳を擽る快楽に心を傾ける。
すると、そこに何者かがやってきた。
「父さん。この辺りからです……」
その者は一礼したのち、ゆっくりと屋敷に上がり、誰もいないことを確認しているようだった。
やがて、その者は、少年は気付く。
「やあ。君だね? とつぜん現れたのは」
優しく微笑みながら、鏡をまるで友達か家族であるかのように受け入れる少年。
鏡はそんな少年に出会えたことに僅かばかりではあるものの嬉しさを覚える。
「……どうも、はじめまして。わたしは……」
言いかけて、名など無いことに気付き、黙りこくってしまう鏡。
「ふむ。そうじゃなあ。つい先日奴さんも逝ってしまわれたしのう」
突如聴こえた一際甲高い声と共に、少年の黒髪の中から手足を生やした目玉が現れ言い放つ。
ぎょっとするも、大抵の事象を見てきた鏡にとっては、然程問題ではなかった。
目玉の妖怪は暫し考えたのち、鏡に告げる。
「お主。『照魔鏡』と名乗りをあげてくれんか?」
其の瞬間、一際光は輝きに溢れ、鏡に新たなる異能力が宿ったのだ。
今、此処に於いて、彼は進化を遂げる。
「……はい。ありがとうございます……」
全ての事象を映し出し、その本質を見抜く異能力を得た鏡、『照魔鏡』。
彼はやがて、少年達の危機を幾度となく救ってゆくのであった ───
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「と、まあ……そういうわけじゃ。きっと此方でも役に立ってくれるじゃろう」
朗らかに微笑みながら、目玉の妖怪が魔術師バレンシアに手鏡『照魔鏡』過去の歴史をかいつまんで説明していた。
まるで切ない紙芝居を見せるように物語るので、皆は大人しく聞き入ってしまっていたが。
「ありがとうございます。この御恩は決して……」
深々と頭を下げる彼女を、少年が肩に手を掛け制する。
「いいんですよ。 困ったときはお互い様です」
全く気にもとめず、少年は屈託の無い笑顔でバレンシアに優しく語り掛けた。
そして。
「じゃあ、そろそろ僕たちは僕たちの世界へ戻ります。教授さん、よろしくお願いします」
「ああ、もう戻られてしまうのですね……」
折角出会えた貴重なサンプルを手元から離してしまう事に、勿体無さそうに呟くバベル教授。
「では、彼らを送ってきますので」
そう告げると、教授は異邦人達を別室へと連れてゆき、一旦会議室という名の私室から退席していったのであった。
ヤっちまった感が……
名前は出してないから大丈夫です、よね?
((( ;゜Д゜)))
次回は、12月3日は日曜日辺りを(多分
いつも、おつきあいくださり、ありがとうございます!!
( ノ;_ _)ノ




