抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その14。
遅くなりました……
相変わらずの異世界篇ですが、前半部分の回想は現実世界です。
何卒、御了承頂きたく……
( ノ;_ _)ノ
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――― ばぁ。―― ばぁ。―― ばぁ。―――
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温もりと伴に、優しい声が聞こえてきた。
背中を撫でてくれる暖かみが心地好いリズムを奏でる。
思わず欠伸をしてしまい、私は襲い掛かってきた睡魔に身を委ねようとする。
下手くそではあるが、何処か安らぐ唄が耳に注ぎ込まれた。
その唄に込められた愛は、私の心を解きほぐし、やがて柔らかな布団にくるまり眠りについた。
暫くして。
寝惚け眼の私は自分専用の狭い椅子に座らされていた。
かくん、かくんと首を揺さぶる私の口の中に何か軟らかく温いモノが放り込まれる。
条件反射とは恐ろしいもので、決して味わう事などは無く、咀嚼しては唯ひたすらに呑み込み続けた。
苦しい。
嗚咽と共に呑み込んだモノを片っ端から吐き出し、序でに私は心の奥底から慟哭する。
迷惑だとは、思う。
でも、どうしようもない。
私は赤ん坊なのだから。
しかし、彼女はそんな私に対して決して。
一切叱りなど怒鳴りなどせずに、狭苦しい椅子から軽々と持ち上げ、愛しそうに椅子から抱き抱えては豊満な胸に頭を乗せたのだ。
とくん。とくん。
どくん。どくん。
心音が、一定の旋律を刻む。
この世に生を受ける前に、私が産声をあげる前に絶え間無く聴いていたサウンド。
それが当たり前のように。
私は自然と泪を流すのを止め、激しさを増していった痙攣も一頻り落ち着きを取り戻す。
がらり。
引き戸は横にずらされ、険しい表情の髭面の男性が私に目線を向ける。
突如、目許は綻び彼は私に、いや私を抱き抱えている彼女諸とも暑苦しく抱き締めたのだ。
汗臭い。
苦しい。
でも、暖かい。
私は再び泣きたくなった。
そんな状況を察してか、彼は私達から離れ自分の席へと着いた。
白と黒の、今まで一度も見た事もない服装。
だが、誇らしげに感じる。
彼は腰に帯びていた棒状のモノを雑に扱い、食卓の机に立て掛けた。
非常に興味深い。
私は拙い素振りで其れを一心不乱に求めた。
しかし、ふたりは私から其れを遠ざける。
「まだ、亨には早いですよ。貴方、其れを仕舞ってきてくださいな」
「っと。危ない、危ない……一人娘に怪我なんてさせられんからな。いや、全く失礼した」
彼等は、私から興味の対象を奪い隠そうとした。
なので、口許をへの字に曲げ、私は精一杯のアピールをするのだ。
つまり、癇癪。または嘘泣き。
じたばたして、泣きわめいてやった。
「あ、貴方……どうしましょう……」
全く泣き止まない私に狼狽える彼女は彼にすがる。
良い気味だ。
私はまだまだ本気ではない。
たっぷり寝たので、泣き叫び放題だ。
やがて、ほとほと呆れ返ったふたり。
髭の似合う男性が私に漸く其れを手渡したのだ。
私は机に乗せられた其れの感触を味わい、恍惚の表情を浮かべてしまう。
先程までの嘘泣きなど構わずに、目の前にある棒状のモノを撫で馳せる。
しかし、後々になって気付く。
その時、髭の男性が帯びていたモノではなく上手いこと偽物とすり替えられていたらしい。
数年後、其れは既に私だけの玩具になっていた。
木刀を振るう。
未熟者だが、私は幼稚園児にして刀を片手に励んでいた。
実家は剣道の道場を営んでいたので修行し放題だ。
しかし、そんな私の掌の豆が潰れる度に、足裏が堅実を増す度に。
両親からこっぴどく心配されるのが稍鬱陶しくも感じる。
母は私を甘やかしつつも、叱るのだ。
「また! もう……あなたは女の子なのよ!? そんな事やっては駄目です!!」
「亨……お前はまだ子供なんだから、いっぱい遊んでいっぱい友達を作りなさい」
ただ、好きなことをしているだけなのに。
幼稚園なんてつまらないところに行く必要なんてない。
何故、両親は私から好きなことを奪うのか。
誰も傷付けやしないのに。
寧ろ、初めて出来た友達を守りたいからやっているのに。
「「トーーールちゃ~ん! あーそーぼーーーっ!!」」
「あら、ヒナちゃんにカナミちゃん。いらっしゃい」
仲良く手を繋いだ友達ふたりがやってきた。
「ほら、亨。片付けておくから、ふたりと遊んでらっしゃいな?」
母親に全てを預けて、そのままの姿でふたりに駆け寄る。
そんな思い出が懐かしくて。眩しくて。
唯ひたすらに、温かまりは全身に充ちてゆく……
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うっすらと。
固く閉ざされた瞼は開き、二三、ゆっくりと瞬きをした。
目覚めたばかりなのか、受け入れた明かりに思わず眩しさを覚え、否応なしに利き手の掌で覆い隠す。
しかし、違和感はやがて熱さを彼女に伝えたのでトールは咄嗟に寝かされていた固い机の上で跳ねあがる。
「あっづ!?」
上半身を起こすと。
ぱらぱらと、何か針のようなものが床にばら蒔かれ、それと同時に灸の屑が落ちた。
成りゆきを見守っていた幼馴染み。
ヒナは咄嗟に驚くも次第に涙が頬を濡らしてゆく。
「……あ……あああああ……ッ!! トーーールぅぅぅッ!!」
人目も憚らず、ヒナはトールに飛び付いて抱き締める。
そして、盛大に嬉し涙を巻き散らかした。
同じくして、負けじとカナミも抱き付いてはひたすら涙混じりな顔面を擦り付ける。
「ふぃ~……一時はどうなることかと思いましたが……上手くいったようですねぇ」
いつの間にか、漫画やゲームの世界から戻ってきていたアフロヘアのエルフが恰かも偉業を成し遂げたかのように演技する。
白衣を着込み、まるで本物の医師かのように気取るバベル教授は額から溢れる汗を助手の幼女ロデムに拭わせていた。
といっても、彼は手術をしたワケではない。
どちらかといえば、鍼灸師の施術を行ったのだ。
トールは、まだ数本顔に刺さっている金色に光輝く針を雑に払い、または抜いてゆく。
心なしか、以前より身体が軽くなった気がした彼女は徐に、振り上げた足を下ろす勢いだけで飛び起きる。
しかも、ヒナとカナミを抱き抱えたままで。
「ん。何か調子良いな!」
更に彼女はふたりを抱き抱えたまま、その場で宛ら遊園地の回転ブランコのように廻りだし始めた。
3人は笑い泣きしながら、くるくると舞う。
そんな和やかな光景を眺めつつもバベル教授は、辺りの玩具などを破壊されないかと頻りに冷や汗を滴しては両手を忙しなく振り乱していた。
その意思を汲んでか空気を読んでか。
魔術師バレンシアは一歩前に出て彼女達に一先ず祝辞を述べ、バベル教授に深々と礼をした。
「トール様。御快復、おめでとうございます。そして教授。誠に、ありがとうございました」
皆各々に深々と頭を下げるところは、流石は魔術師ギルド総帥としての力量か、若しくはご機嫌取りの達人か。
などという邪推は彼女には全く無く。
バレンシア自身は気付いていないのだが、彼女は基本的に腰が低すぎる性格なのであった。
「いえいえいえいえ、そんな。頭をあげてください、バレンシア様。私は決して大した事などしておりませぬゆえに……」
意外にも謙虚だった彼・バベル教授は恐縮も甚だしく彼女を敬うのだ。
人は。いや、エルフは見た目によらない。
アフロヘアで怪しさ特盛だが。
しかし、そんな彼の敬虔なる助手は一切を見逃さないのだ。
彼の足許は長机の下に隠された趣味嗜好品をたっぷりと積み込まれた布袋が語っていた。
ふと、彼女の鋭い視線に気付き脚の裏で更に見えない位置へと押し込む教授は白々しく下手くそな口笛を吹く。
そんな彼の胡散臭い態度に呆れ返る事もなく、逆に、見逃す事でおこぼれに預かろうとする。
おしとやかに見えて、中々に小賢しい性格の幼女・ロデムはコホンと短く咳をして現状を纏めようと中心に躍り出た。
次話に続きます。
いやはや。
私なりにでは有りますが赤ちゃんplay……もとい。
赤ん坊目線に成ってみました。ばぶー。
(^_^;)
次回は……
11月24日は金曜日辺りを。
重々、御容赦くださいませませ~……




