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ドラゴンNO涙  作者: caem
第4章・暴れだす。幕を引き裂き、さぁ、開演だ。
71/96

抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その12。

ふい~……


取り急ぎ?ペースをあげて描いたので荒い箇所が目立つかも……

細かい事は気にしないでくださいッ

(^_^;)


引き続き、異世回。もとい、異世界でっす。

というか、多分。今章は残り、異世界編で進行してゆきまっす。



「う~むむむむ~ん……これはちと厄介ですなぁ……」



 変態を越えた天才。天才を越えた変態。エルフを越えた変態。

 などなど、様々な称号を持つハイ・エルフの教授バビロニア=バベルは珍しく頭を抱え悩んでいた。


 彼は正真正銘、エルフを越えたエルフであり、その頭脳や化学力及び魔術に於いては他に類を見ない程の権威者なのだ。

 趣味嗜好、性格はとても人格者とは言えないが。

 S=Mの方式とは正しく彼に当て嵌まるだろう。


 銀縁眼鏡をくいとずらし上げ高貴なる種族に相応しくないアフロヘアーのエルフ。

 机上の物品を見定める華奢な体つきの白衣を着込んだ彼・バベル教授にへと、切なる願いは凛と突きつけられる。


「お願いしますッ!! 彼女を……トールを助けてくださいッ!!」


 地球の真ん中ではないが愛を叫ぶ。


 此処は異世界なのだから。

 おっと。忘れていた。こほん。



 ---時は少し遡る---



 彼女達3名と1体の彫像は、遥か上空へと浮かび上がって往く1つ目玉の化け物を見上げながら、成りが潜むのを暫く待ち続けた。

 その身に降りかかる瓦礫の欠片を防御魔法(マジックシールド)を行使し皆を守るバレンシア。

 

 見た目、普通の屋敷に見えるが、実は中心部に大きな穴が開いている。

 ダークエルフの凶行により大きく開かれた天井を仰ぎ、皆はやるせない思いに打ちのめされていた。

 次第に遠ざかる邪悪な笑い声に伺い立てる。

 やがて、気配が消えたのを確認するとバレンシアはほっと胸を撫で下ろした。

 だが、目の前の惨状を放ってはおけず、彼女は『解除』の術式を発動させようと試みる。


「……治りますっ……よね~……」


 ぐすぐすと未だに愚図りながらカナミはバレンシアに問う。

 そんな彼女の目前では彫像と化したトールにしがみつくヒナが痛々しいまでに悲しみに打ち拉がれていた。


「ヒナ様。少しお離れください」


 彼女の肩にそうっと優しく手を置き、下がらせようとしたが。

 最早、一生分の涙を流すかのように泣きじゃくり、かつて人間であった彫像から決して離れようとしないヒナ。

 そんな彼女を見兼ねて、カナミは涙を堪えつつ抱き締め、耳許で囁く。


「だいじょうぶ……だいじょうぶ……」


 傷付いた子供をあやすように。


 さぁ。眠りなさい。

 疲れきった身体を……ではない。

 聖母は誰にでも宿るのか。

 きつく締め付けられていた心に僅かではあるが届けられたカナミの温もりは、ゆっくりとトールからその身を離した。


解除(ディスペル)


 言葉も少なく、術式を発動させるバレンシア。

 淡い燐光が彫像に降り注いでゆく。

 しかし、効果がない事に焦燥感を覚えふたりに気付かれない程度だが狼狽える。

 ぴくりと片眉を釣り上げつつも再度解除を試みる。


 死ーーーん。


 やはり、効果は発揮されず。

 沈痛な面持ちで彼女バレンシアは後ろで見守っていたふたりに向かい合い、固い床で正座をしては深々と頭を下げた。


「私では……彼女を治すことが出来ません……」


「え。……そんな……」


 折角泣き止んだ所なのに、まだ足りないとばかりに涙が込み上げてくる。

 再び嗚咽を開始するヒナを抱き締めていたカナミは、ポツリと禁句を口にしてしまった。

 正直、余り頼りたくなかった最後の手段を。


「……あの『変態』教授なら……何とか出来るかも……」


 一途の期待に想いを馳せ、バレンシアは皆を連れて教授の屋敷へと瞬間移動したのだ。



 ---今。ここです。---



 涙を堪えながら必死に訴えかけるヒナ。

 今、彼女の前には。

 冷たい大理石製の長机の上にゴロンと寝かし付けられた彫像があった。

 凛々しい顔付きで長剣を奮うポニーテールの女子。


 胴着は剣道のそれに近い。

 『()き』の姿勢をとり、今にも1本を取りそうな(あつ)を感じさせている。

 かなりの出来映えの彫像で売れば高価買い取りが見込めるだろう。

 だが、それは加工品であればの話。

 数刻前、目玉の化け物の視線によってブロンズ製の塊と成り果てた女子高生トールなのである。


 ヒナとカナミから向けられる願いは確かに分からないでもない。

 教授は顎に数回人差し指を当てては眉間に皺を寄せ弱音を吐いた。


「そうは言いますけどね~……()の偉大なる魔術師・バレンシア様でさえ解除出来ないのですよ? 流石に天才を越えた天才のワタクシでも……」


 不必要なまでに(とが)った顎を親指と人差し指で頻りに(さす)るバベル教授。


 敬虔なりし付き添う助手の幼女が怪訝な表情を浮かべ彼の背に手を宛がう。

 変幻自在の助手・ロデムは尊敬する彼を(おもんばか)り、我が我がとせっつくヒナ達に鬱陶しく眼力を向けるのだ。

 何故ならば、過去、助けてもらったとはいえロデムは、トールに油をかけられカナミに火を付けられた事があったからだ。

 しかも、教授の悪戯を助長するなと釘も刺されるわ、厄介な依頼を押し付けられるわ、で正直彼女達とは関わりたくなかったのだ。


 実は、その厄介な仕事は既に完成し部屋の傍らで成りを潜めているのだが。

 今はそれに触れるどころではなく、一旦置いておこう。


「申し訳有りません。私が不甲斐ないばかりに……」


 目線を(うつむ)かせながら言うは、大空の(あお)を現す如く美しい長髪。

 その体躯には、さほど目立ったところはないものの……全身から溢れる美貌は彼女を包み込んでいた。

 異世界大陸ファンタジスタに於ける偉大なる魔術師・バレンシアが悲痛な面持ちで深々と謝罪し(こうべ)を垂れる。


「いえいえいえいえ! どうか頭をあげてください!!」


 身ぶり手振りも激しく、純粋に焦る教授。

 それもその筈で。

 彼が今、自由気ままに研究したり趣味に(うつつ)を抜かし没頭出来ているのは偉大なる魔術師バレンシアのお陰なのだ。


 彼女が異世界大陸ファンタジスタに於ける唯一の王国『シェラザード』に根を深く張っていなければ決して資金は降りないであろう。

 日頃の多忙な雑務や執務は実を成し、彼女の縁者はその激務の成果に甘んじているに過ぎない。

 たった一人で所縁(ゆかり)の者達を養う彼女に敬意を表している。


 バビロニア=バベル教授もそのうちの一人であり、感謝こそすれ恨みなどは毛頭抱いていないのだ。

 敬愛を以てして、彼は彼女に真剣な眼差しと態度で再三再度申し立てる。


「バレンシア様……貴女様の解除魔法……術式でもこの娘様をお救い出来ぬですよねぇ……」


 机の上に横たわる無機質なトールを掌で指し示し彼は言う。

 黙して語らず。

 バレンシアは(うつむ)いたまま。それは肯定と取られ教授も難しい表情で意図を汲み取り同じくして沈黙する。


 そこで、何を思ったのか。

 ひたすら続く意味の無い内容に呆れ返る。

 重い沈黙の雰囲気を構わず、ずかずかと断ち切る。


 蚊帳(かや)の外で放置されていたツインテールの女子高生が意を決して呟くのだ。


「……てかさ~……これは『魔法』によるモノなのか、はたまた。あの気持ち悪い化け物の特殊能力なのか。そこん所、区別つかないのかな~?」


 教授とバレンシアの長丁場に渡る交渉に僅かに苛立ちの感情が含まれていたもののカナミは一言も発する事無く必至にに己を我慢していたのだ。


 何故ならば。視線一点に定めやらず。


 何処(どこ)と無く宙をさ迷う光を失ったヒナを助けるべくして、バレンシアに頼り、()してや狂人()つ趣味に生き甲斐(がい)を見出だす胡散臭いが(とが)ビトにすがらなければいけない事実。


 有り体(ありてい)に虫酸が走るであろうものだ。

 いつにも()して、口許をへの字口にひん曲げ(まなこ)が充血して募る想いは頬を伝う涙の一筋が語る。


 カナミは思うのだ。


 大好きなヒナちゃん。泣かないで。

 お兄ちゃん。いや、トール。

 幼き頃。随分前に思わず口に出して頭を軽く叩かれたけど。


 ヒナちゃんにまでは届かずとも大切な友達。幼馴染み。最早、家族であるといっても過言ではないひとつ年上のトール。


 目の前で、無機質に、たかが話題の題材として取り上げられている事に腹が立たない訳がなかった。


 カナミは、今は亡き祖父が麗らかな陽射しの下。

 より良い日に盆栽を剪定しながら言った思い出をふりかえる。


 振り向かず、並べられた季節の果物を事も無げに縁側で(ついば)みながら。


 日本の和風家屋の独特の構造で、家の建物のへり部分に張り出して設けられた板敷き状の通路である。


 庭等外部から直接屋内に上がる用途ももつ。

 欧風建築では、ベランダ、ポーチといったものが意匠的には似通(にかよ)っている。


 障子が、薄明かりの中でその向こうの人や風景を見えるような見えないような曖昧さの中に感じることが出来るのと同じように、内でもなければ外でもないという縁側に、空間を仕切る意識が希薄な日本家屋空間独特の曖昧さの構造を見るという文化論も語られる。


 等というウィキペディアはさておき。


 パチン、パチンと景気よく選別して鋏で刈り取られてゆく枝や葉を見ながら切なく溢れる想い。


『カナミや。盆栽とはな……施肥、剪定、針金掛け、水やりなど手間と時間をかけて作るのぢゃ。生きた植物なので「完成」というものがなく、常に変化するのも魅力の一つである。』


 付けて。彼は言うた。

 年は人生を語るのだ。

 それが、例え、言葉を覚えたばかりの赤子でも心の奥に響き渡る。


『人間もまったく同じ(おんなじ)なんぢゃ。大切にせえよ……』


 かつての想い出に鑑みて、今目の前で繰り広げられている『くだらなさ』に頭が来る。

 吐く吐息は荒々しく、握りしめられた拳に殺気を纏わせるも。

 それは意識の無い患者(クランケ)が止めたのだ。


「トールぅ……カナミぃ……ダメだょぉ……」


 崩壊した自我は虚ろにさ迷いながらも、何処か一本線を残しながら皆の幸せを願う。

 一見。

 廃人と化したヒナは彼女カナミの拳を抑え込み、暖かく包み込むのだ。

 たまらず、熱を感じてカナミは涙を流しその場で膝元から崩れ落ちる。

 そんな光景を目の当たりにしては、とうの昔に失ってしまったと思われた感情に微かな光を宿し。

 偉大なる魔術師バレンシアは決意を新たに教授に宣言するのだ。



「絶対に。諦めてはいけません。失敗を恐れずに……命を諦めずに……」



 振り返らずに。

 彼女は言った。

 ヒナとカナミは釣られて毅然と立ち向かう。


 だが、あくまでも。

 生き方を貫く彼・教授バベルは言いたくて仕方がなかったが、敢えて我慢して黙りこくる。


 『世の中。そんなに甘くないぞ?』と。



すみません。

11月14日は火曜日、加筆しちゃいました。

てへぺろ。


(´-ω-)人


次回は11月16日は木曜日の予定です。

あくまでも……


|д゜)チラッ

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