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ドラゴンNO涙  作者: caem
第1章・竜と悪魔と魔術師と
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むりやり喚ばれて、冒険者になったJK達。その7。

 かつては大いなる恵みにでも祈りを捧げていたのであろうか。

 その華厳なる雰囲気は神の溜め息をも浄化したであろう。


 『魂の泉』と呼ばれた由縁か、神聖なる大広間で間違いない。

 だが……今は違っていた。


 辺りには、山とは成り果てていないものの塵や埃が積もる。

 そして、散らばる様々な種族の成りの果てが、大広間で相対する生物の危険度を現していた。


「……あの水晶球が何を写していたのか。直接過ぎる事は確かね……」


 ヒナは、目前の強敵を相手に依頼主であり召喚主でもある【偉大なる魔術師・バレンシア】を少し……いや、かなり恨んでみた。


「確かに、これはないなと思う」


 トールが手にする剣もその輝きを鈍く、ここに辿り着く迄に散々の苦労した事を示す。


「だって、これ……超~ッ! ドラゴンじゃ~ん!!」


 カナミは目前の生物が発する恐怖の咆哮に対して、人指し指で両耳を塞ぎ、精神を集中する。



『バオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!』



 【竜の咆哮】。

 それは相対する生物の精神をへし折る最大級の威嚇であり威厳の現れである。

 数多の生物、及び、万物が萎縮・破壊されるその第1の手段であり主張。


 だが、実は……。

 彼女達には、それに耐えうるだけの、対抗出来るだけの『異能力』が備わっていた。

 本人達は全く気付いていなかったのだが。


 何と、彼女達3人には【竜の咆哮】が通じないのだ。


 これこそが【偉大なる魔術師・バレンシア】によって彼女達3人が異世界へと転移・召喚された理由なのである。

 ちなみに、彼女達はバレンシアから聞かされてはいない。


 まぁ、それ以外にも彼女達に隠している事が多々あるのだが。

 それは取り敢えず、置いておこう。



「炎対策の呪符も準備はしてるんだけど~……。これはキツいかな~……」


「それどころか、この竜を泣かせるとか意味わかんないし!」


「ん? 泣いてるじゃあないか。涙は流していないが」


 トールの皮肉めいた冗談が2人を少し苛つかせた事は当然かと思われる。


「え~い! 何とかするっきゃないッしょ!」


 狂った水の精霊・ウンディーネの襲撃に対して逃亡を謀った冒険者達。

 なのに、目前の脅威『竜』を前にして逃亡しないのは流石である。



 『魂の泉』のほぼ中心に位置する浮島。

 そこにはその【聖なる】を象徴する如くの祠、そして洞窟があった。


 おそらく、『遺跡』と呼ばれても可笑しくはない造りの洞窟。

 その洞窟内部には至る所に壁画があった。


 素人の探検家でも気付く文字のようなものや、当時の生活を表している様子など。

 そして、その中には竜の姿も描かれていた。


 まるで美しく儚い珊瑚を彷彿させる如く目立つ二本の角。

 その体躯に似合わずとも、天空の覇者である事をも示す大きな翼。


 軽く前掻きをするだけで大地を削る事が出来る程の両手両足の鋭い鉤爪もさながら、ひとふりで草原を棚引かせる事も出来よう一際長い尾。


 ドラゴン。龍、または竜。


 たかが壁画の一部なのに、手を合わせ祈りを捧げたくなってしまう。


 その真意は、竜に襲われるを防ぐ為か、或いは、神と等しくして聖なる存在だからなのか。

 だが、彼女達が目の当たりにしていたのは確実に『絶対なる破壊』を象徴する『竜』に違いなかった。



 『炎の息吹』を直撃寸前で回避しつつ軽傷の火傷で済ましては、ヒナの弓矢で意識を逸らせ、トールの斬撃を着実に当てる。


 時には、竜を挑発させては壁ギリギリまで誘き寄せる。

 見計らい攻撃を避け、脆くなっていた外壁や天井の破壊された瓦礫による物理ダメージを与えてみる。

 ただし、洞窟そのものが崩れかねないので、その作戦は程々にして。


 疲労回復の薬や対抗呪符による支援を繰り返してはいたが、カナミの鞄の中身は残り僅かだった。

 だが、その甲斐があってか目前の竜の動きも鈍さを増していた。


「倒すんじゃあないんだよね~……。もういい加減に泣いてくれないかな~…」


「というか、そもそも……。涙を流すのか?竜が」


「今頃それ言う? アタシが泣きたいわ!」


 疲労困憊の3人が嘆く。

 いや、正確にはヒナとトールだが。

 特に、相変わらず……カナミは2人に守られる形なので傷付く事はなかったのだ。


 しかも、流石は【偉大なる魔術師】の御札といったところか。

 僅かに温存していた『防護壁』の御札。

 その魔力は竜の攻撃に対しても数発は耐えられる程の代物だったのだ。

 『身体能力強化』の御札も温存させていたので、その恩恵もある。

 竜を相手にして、喋る気力があるのだから、それは評価してみたい。


 と、その様子をいつから観ていたのか…

 彼女らの中空から突如、混沌と狂喜に満ちた声が姿を顕した。



「涙腺でも掻き回して無理矢理捻り出せば良いでしょうに、ねぇ……?」



 その邪悪な囁きに、彼女らは嫌な予感しか、しなかったのであった。




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