抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その10。
引き続き、話は逸れますが異世界です。
ちょい短めです。
( ノ;_ _)ノ
睨み合う両者。
互いに思うところがあるのだろう。
大雪原にて、雄々しい巨大な竜『炎帝』と『氷帝』は対峙していた。
「久しいな。焔の……」
「あぁ、まったくだ……永らく待たせたな……さぁ! 今一度、決着をつけ、やはり我が最強なのだという事を見せ付けてやろうぞ!!」
言い放ち、即座に吐き出された大きな火球が散り積った雪を解かし蒸発させる。
その脅威に決して臆することなく、『氷帝』は至って冷静に対処する。
「永久氷壁」
顕れた氷の壁に突撃した大火球は形を失い霧散する。
目前に造り上げた頑丈な氷の壁をそのままにして、頭上からは氷の槍が幾つも浮かびあがり、目標を見定めていた。
「氷の投槍群」
『氷帝』は、まるで日常会話をするように氷系統の最大級魔術を解き放つ。
何十本もの氷の槍は彼のものを貫き凍らせんとばかりに一斉に降り注いだ。
だが、それを見越していたかのように、『炎帝』は身体中に張り巡らしていた火の精霊サラマンデルに指令を出した。
「真っ赤に燃やせ!!」
全身のみならず、辺りも含めて炎熱の障壁が激しく燃え盛る。
大気にまで影響を及ぼす炎が氷の槍を悉く蒸発させた。
「やりおるわ!」
「そちらこそ」
かなり過激な挨拶を交わし、互いに僅かに口許が緩む。
これからが本番なのだ。
先に動いたのは意外にも『氷帝』だった。
突如吹雪が巻き起こり、視界が全く見えなくなる程の猛吹雪を引き起こしたのだ。
その勢いは留まることを知らず、辺り一面を氷が埋め尽くしてゆく。
次々に氷の塔が建設されては、いつまにか『炎帝』を取り囲んでいた。
「氷河時代」
氷の塔は各々が全く違う生き物のように動き、『炎帝』に襲い掛かる。
彼は巨体に似合わず俊敏に幾つか避けるも、その数に驚き上空に飛翔するしかなかった。
大雪原は今や、ところ狭しと氷の塔が犇めき合い、地獄の針山のように成っていたのだ。
『氷帝』の奥義に彼は酷く感心し、敬意を表して自分の手前を披露しようとする。
上空にて停止しながら、昂る炎熱を一気に解放した。
遥か天空にまで届くかのような火柱が、ひとつ、またひとつと瞬時に建立されてゆく。
数にして千を越えたあたりでそれらは規則正しく整列し、『氷帝』へと続く道を造り出した。
猛吹雪を大雪原を赤く染めあげてゆく。
赤口の炎熱が氷の塔を次々と解かし、やがて収束を迎えようとした。
『喰らえ! 御門乃炎!!』
建ち並ぶ炎柱が、各々、予測不可能な不規則な動きで『氷帝』へと集いせしめた。
斯くして、互いの奥義は対消滅し、僅かばかりの余波を残す。
「むう。予想以上にやりおるわ! ふははははは!!」
からからと機嫌好く笑い声を轟かせる『炎帝』。
心底『氷帝』との闘いが楽しそうに見える。
「まだやるのか?」
だが、『氷帝』の方はそうでもなく、小さくため息を漏らしては、どちらかと言えば少々うんざりしているようだった。
その理由のひとつはこの場所であった。
『氷帝』、彼は大雪原スノウランドというこの地を統治しているのだから。
現に、かなり離れた場所では住人達が集い身を寄せ合い、完全に怯えつつも懸命に此方の戦闘を見守っている。
そんな彼等を守るのが使命であって、決して相手を殺すのが目的ではない。
犠牲がでないように努めるのが精一杯であり、もしくは『炎帝』にお引き取り願いたいとさえ思っていたのだ。
折角、天使であった身から再び竜として復活を遂げたのに、くだらない闘いで命を失っては元も子もない。
臆病者で結構だ、と芯の強ささえしっかりしていれば、と。
まだまだヤル気たっぷりな『炎帝』の執拗っぷりに項垂れる『氷帝』であった。
「もう、辞めにしませんか?」
諦念は口を衝いて出てしまった。
だが、迂闊な一言だったと即座に気付くが時既に遅く。
彼の性格はよく知っていた筈なのに。
不甲斐ない台詞を耳にしてしまった『炎帝』が憤慨する。
「……貴様ぁぁぁ……何を温い言葉を口にしておるのだぁぁぁッ!!」
怒髪天を衝く勢いで盛大に怒号を上げ大気が震えあがった。
『炎帝』様はお怒りだ。
「今更、辞めませんか? だとぉ? ……ふ……ふふふ……ふははははは!!」
頭に手を、口許にも手を添えて、腹が千切れんばかりに宙に浮かびつつも抱腹絶倒する器用な『炎帝』。
怒ったり笑ったりと情緒不安定さが垣間見える。
やがて、ぴたりと動きを止め彼は希望の光を失ったように『氷帝』を見詰めた。
どこか寂しそうに彼は別れを告げる。
「もう、良い……辞めだ、辞めだ……今を以て貴様は闘うにも値せぬわ……」
くるりと身を翻し向けられた背中に羨望の眼差しを向ける『氷帝』。
大丈夫、彼はとっくの昔から自分の憧れの存在だ。
多分、今回みたいな無駄な争いなどせずに遥か極みまで登り詰め、あの伝説の『真竜』として君臨するだろうと。
「さらばだ……友よ……」
そう言い残し、『炎帝』は力強く翼をはためかせ大雪原スノウランドを後にした。
「なんだ……気付いてたんじゃあないか……」
『氷帝』は呆れ顔で彼方へと飛び去る彼を見て懐かしみ微笑む。
だが、彼は違っていた。
遠い昔の記憶を友を懐かしく想う暇など無いのだ。
既に『炎帝』は次なる目標を見据えて新たなる激闘へと想いを馳せていたのだが、『氷帝』は知る由もなかった。
「待っていろ……黒帝よ!!」
またもや最凶の竜が忘れられていたのは御約束。
次回は11月10日は金曜日辺りの予定でっす。




