抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その9。
異世回、もとい異世界。
茶番は続きます(笑)
「ぬううう……りやあああああッ!!」
強引に押し通す暴力は悉くを蹴散らし、その存在を知らしめる。
「これ以上、先へ行かせるな!! 食い止めろ!! 粛清せよ!!」
天使達は何百万と軍勢を成し、それなのに、たった一人の悪魔を食い止めるのが精一杯だった。
『無道』の悪魔・太郎。
彼は天界への階段を無事に登りきり、ただ今絶賛大暴れの真最中である。
「どおおおおお……くううううう……だあああああ……よおおおおおーーーッ!!!!」
その叫び声だけで、何百もの天使達があれよあれよと面白いように吹き飛ばれてゆく。
それだけでは無い。
最早、天界を突き抜けんばかりに巨大化した太郎は、そのたったの1歩、先へ進むだけで、これまた何百もの天使達がプチプチと空気を抜かれ、心地好く踏み潰していた。
突如。
天界全域に、盛大且つ、荘厳なる鐘の音が響き渡った。
『---退きなさい。貴方達---』
「こ……これは大天使長様……」
天使達は一斉に傅き、『無道』ですらその後光に歩みを止めてしまう。
有りとあらゆる光の欠片が集束されてゆく。
幾重にも重なった天使の輪。
神々しき羽衣。
数えるに、何十本もの腕を忙しなく振る舞う。
数多の大地、幾種類の世界を統治し崇拝される天使と囁き合っている。
『カリゼラはどうやら滅してしまったようですね。ですが、それもまた運命だったのでしょう』
紡ぎだされる言葉には感情が全く見受けられず、ただ淡々と訃げられた。
大天使長はその中から腕のひとつを選び、清らかな輝きを帯びる聖槍を手にして『無道』に歩み寄ろうとした。
「御待ちください、ジェマスェラ様。貴方様が出てくる迄も御座いませぬ。この場は我らにお任せを……」
大天使長ジェマスェラを制し、前に出る天使が勇む。
『四天王ですか。宜しいでしょう。ですが、決して油断なさらぬように』
「「「はッ!!」」」
その筆頭であったカリゼラが居ないので『三大天使』というべきか。
3人の大天使が悪魔『無道』の前に立ちはだかる。
「我が名はレセプトル。いざ、参る!!」
抜け駆けて、三大天使のうちの一人が『無道』に挑む。
他のふたりはお手並み拝見とばかりに見に回り一先ずは傍観に徹するようだ。
一見すると下級の天使達と変わらない風貌だが褐色の肌が目立ち、逞しい躯に付けられた夥しい傷跡から察するに相当な実力者なのだろう。
レセプトルは片手にしていた聖槍により強い輝きを灯し彼の者を滅さんとばかりに投げ付けた。
掌から放たれた聖槍は徐々に光を増し膨れ上がってゆく。
『無道』に辿り着く頃には、十分に彼の土手っ腹に穴を開ける程の大きさになっていた。
「貫き浄化せよ!!」
一筋の光が『無道』の躯を貫き、彼は堪らず絶叫する。
「ぬぐわあああああッ!!」
咆哮は周囲を取り囲んでいた下級の天使達を吹き飛ばし、激しい痛みのせいで地団駄を踏んでは天界を大きく揺るがした。
衝撃で更に被害は拡大し、今や殆どの天使達はその場で原型を留めていない。
ただし、三大天使と大天使長には『無道』が多少暴れたぐらいでは通用しないようだった。
痛がる彼の様子を見て、次の一手を繰り出そうとする大天使レセプトルをもうひとりが片手で制す。
「おい。次は俺の番だ。我が名はブルムス! 行くぞ!!」
天使達は基本的に聖槍を標準装備としているのだが、彼の場合は違っていた。
その屈強且つ頑健な巨躯にも勝るとも劣らない巨大な剣を片手で軽々と持ち上げて上段に構える。
そして、柄に合わさる両掌は刀身を一際明るく染めた。
「ぬううう……聖光裂斬!!」
降り下ろされた剣は光と共に衝撃を放ち、天界を縦断するかの如く『無道』に襲い掛かり薙いだ。
「うっぐわあああああッ!?」
立て続けに喰らうダメージに耐えきれず片膝をつき、巨体を覆うようにして縮こまる。
苦痛に歪む表情の『無道』に畳み掛けるように、三人目の大天使が彼の前に聳え立つ。
今の育ちきった『無道』程ではないものの、天界に於いて彼に匹敵する体躯の天使は居ないであろう。
正しく大天使。いや、超巨大天使。
彼はゆっくりと歩み寄り、武器も持たずに。
握り締められた拳には神々しい輝きが周囲から光を奪い蓄えられてゆく。
「我が名はグレゴール。悪魔『無道』よ。いざ、立ち会え!!」
御丁寧にも親切に彼を抱え起こし、わざわざ正面から立ち向かおうとする。
ふたりの大天使により手酷く傷付いていた彼を尊ぶのも今更かと思われたが、それがグレゴールの誇りなのだ。
意識を失う寸前のふらつく『無道』に聖なる力を籠めた拳の一撃が見舞われた。
「浄化の拳撃!!」
勢いよく振り上げられた拳は『無道』の顎を捕らえ、見事に宙を舞う彼は大きく後方へと吹き飛ばされてしまった。
歯は幾つか折れ、辺りに撒き散らかされる。
かつて経験した事の無い絶対的な実力差に悔しさが募る。
しかし、たったひとりの彼に対し3人係りでいたぶられるとはこれ如何に。
余程、天界の住人達は蹂躙が得意とみえる。
「……何で、だよぉ……おらぁ、何も悪くね……じっちゃん。ばっちゃん。おらぁ、もう駄目だぁ……」
横たわる太郎は、己の無力さを痛感して人目に憚ることなく大粒の涙を落とした。
しかし、そんな彼の前に突如、その件のふたりが顕れる。
『太郎や、無理せんでええぞ……』
『何を甘いことをぬかしとる、ばあさんや! 立て! 立つんだジョー!!』
ジョーではなく金竜でもなく力石でもホセでも無い。
況してや、うどん大好きなマンモスでもない。
『無道』の悪魔・太郎は。
あまりの懐かしさに緩む涙腺が音をたてて崩壊してしまった。
片目を覆う黒い眼帯が妙に似合うジジイはつるんと禿げ散らかし、空きっ歯が朗らかに笑む。
「……じっちゃん……ばっちゃん!? 生きてただか!?」
感極まり嬉しさが溢れ落ちる涙を更に後押ししてしまう。
『何を言うとる。わしらは既に、死んでおる!!』
ビシッと人差し指を愛息子の太郎に向けて、格好良く決め台詞を告げ偉そうに立ち振る舞うジジイ。
呆れ顔であったが、北斗七星を胸元に示すジジイを更に惚れ直すババアはモジモジ身悶えては性欲をもて余すようだ。
『よいか、太郎よ。わしらは確かに逝った。じゃが、それは決してお前のせいなどでは、無い!』
ジジイはくるりと太郎に背を向けて聳え立つ大天使達の遥か後方へと指を差す。
『こうなってしまったのは全て……神とやらのせいぢゃ!!』
生前のジジイは事有る毎によく愚痴っていたのを太郎は思い出してみる。
神は死んだ、神はいない、と些細な失敗をしては度々愚痴っていたな、と。
ただ単に、自分の不幸を神に擦り付けていただけだったのだが、幼く未熟な心の持ち主だった太郎には効果覿面だったのか。
自分で産み出した幻想に導かれ、太郎は大地に……天界に立ち上がる。
不屈の精神が、今、再び甦る。
「許されね。おらぁ、絶対に許されね……」
全身の至る所から噴き出していた血は止まる。
替わりに奥底からはかつての幸せな日々と幻想と妄想により、自分勝手に覚醒を促した。
「ぬおおおおおッ!!!! おらぁ、絶対に神さん許さねえんだあああああッ!!!!!!」
デッビーーーーール。
裏切り者の名を棄ててはいない。
少なくとも、裏切り者ではない。
全てを捨てずに闘う男が、悪魔が今、驚異的な進化を遂げたのだ。
先ず、『無道』の悪魔・太郎にはあまり意味の無いであろう『地獄耳』が出来た。
続いて逞しく雄々しい翼が生えた。
これにより、太郎の活動範囲は大きく変わるだろう。
翼の縁で物体の切断も可能で、拘束されている場合の脱出の際にも使えるのは素晴らしく便利な筈だ。
引き千切られ損傷するも、再生能力によりすぐに再生するので、より重宝されるであろう。
『デビルカッター』を覚えた。
ベルトから放たれる三日月状のカッター。
あらゆる方向に撃ち出すことができる。
額からは二本の禍々しく鋭い角が生え『デビルアロー』を覚えた。
超音波による攻撃。
『デビルビーム』を覚えた。
敵に接触して電撃で焼き殺す技である。
いわゆる必殺技であり、これを食らって生きている敵は基本的にいないと推測される。
『デビルアイ』を覚えた。
透視能力である。羨ましい。
覗き放題である。
『デビルチョップ』を覚えた。
パンチ力は1000kgなどはゆうに超え、下級の悪魔の150倍にも成るのだ。
『デビルキック』は既に獲得していたが威力が増した。
『テレポート』を覚えた。
『火炎放射』を覚えた。
『巨大化分身攻撃』を覚えた。
『融合能力』を覚えた……以下略。
だが、覚えただけなので使えるとは限らない。
とにもかくにも、先程とはうって代わり。
その異常な迫力と雰囲気を察し、最早、束になって襲い掛かかっても無駄ではないかと冷や汗は頬を伝い、三大天使は今更になって後悔し気付く。
『窮鼠猫を噛む』と。
「覚悟は良いだかあああああ~……」
斯くして、天界にて。
壮絶なる戦いの火蓋が切って落とされたのであった。
次回は11月7日予定でっす。
( ノ;_ _)ノ
色々抜けてたな……
11月6日、加筆しました。
(;>_<;)




