抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その4。
のほほんとした?カオス回は異世界。
前回の続きです。
ちゃかちゃんりんちゃんりん。でんでん。
『ネズミ』。
始まる小噺。
「お~い、ネズミを捕まえたあ。大きなネズミだぁ」
「なんでぇ、ちっとも大きくねぇじゃあねぇか、こんなの、小せぇよ」
「いいや、大きい!」
「小さい」
「大きい」
「小さい!」
「大きい!」
「小さい!!」
すると、ねずみが一声。
「チュウ」
どっと笑いが起こる。
一体、ここは何なのかと判断に戸惑う彼女達3人はポカーンとだらしなく口を開き呆気にとられた。
先程の『恐竜』っぽい生き物が辺りに集い、演芸に興じている。
舞台に上がっている蜥蜴は賢しく長い舌を舐めずり、観客の笑いを誘っているようだ。
「あら、『ヒカル』様。今日って出番ありましたかしら?」
「んやぁ、ちょいと野暮用でさぁ。姐さん。空いてる部屋ぁ、借りやすぜ?」
「はいな。では……」
一礼し、しゃなりしゃなりと歩み去る『アンモナイト』が和服に身を包んでいた事に、女子高生達は互いに顔を見合わせ「なに、あれ?」と眼で会話をする。
そんな混乱している彼女達を余所に、彼は半ば強引に空き部屋へと連行した。
しばらく廊下を歩き、すいっと開けられた襖障子。
日本で言うところの『和室』が佇んでいた。
きれいに敷き詰められた畳み。
壁には誰が描いたのかは分からないが、激流の滝を昇る竜の絵が掛けられていた。
かこーーーん。
何処からか聴こえてくる音に妙に懐かしみを感じる。
確か、『鹿威し』とかいうヤツだろう。
座布団が部屋の片隅に重ねられており、その内の三枚を彼女達の為に、一枚を自分用にと放り投げる。
丸い木製の机が部屋の中央に鎮座し、机の上に置かれた急須と湯飲みが今か今かと待ちわびていた。
「んえ~っとぉ……ここに仕舞った筈……お! あったあった……へへへ♪」
手にした袋には煎餅が入っていたようで、彼は更に戸棚から茶請け用の器を取り出し、大雑把に流し込んだ。
ついで、もう片手で缶の蓋を開け、茶葉を急須に仕込む。
立て続けに忙しなく、いつの間にか沸かした湯を急須へと注ぐ尻尾。
ゆらゆらと揺らし馴染んだ所で、各々に分配された湯飲みには程好い緑が映え湯気が鼻孔を擽った。
「ま、ま。座ってくんない!」
どさっと座る彼。
見事な刺繍を施された和服が燦然と輝き、既に眼に痛かったのだが、対面している彼の方も負けじと煩い。
あまりの眩しさに思わず瞳を閉じたくなる彼女達。
その様子を見て察した彼は身なりを正し、深々と頭を垂れる。
「すいやせん……ちぃと刺激が強すぎやしたかね……よしゃ。ちぃと待っててくんな! ……んむむむむ~……」
にょんと伸びた長い髭を何度か上下させながら、額に滲みよる皺が苦労を語る。
途端に、部屋全体へと輝きは放たれた。
凄まじく光量が増していったので、我慢しきれなかった3人は片掌で瞼を覆い隠す。
やがて、次第に光は落ち着き視界は通常運転に戻る。
目の前には、先程までの彼は居なかった。
ぼさぼさの茶髪をガシガシと掻き乱しながら、茶を啜る中年男性の噺家がそこに居た。
「……ぷはー……生き返りまさぁなぁ……」
ずずずっと実に旨そうに茶を愉しみ、胡座をかく彼。
一旦、湯飲みを置き、多分醤油味であろう煎餅へと手を伸ばし頑丈な奥歯がパリンと快音を轟かせる。
少なくとも、敵意や殺意は感じられない。
カナミは彼に従い、茶を啜りながら茶請けへと手を伸ばした。
釣られてヒナとトールも誘われる。
ぱりん。もぐもぐ。ずずー。
かこーーーん。
異世界なのに、ここは最早、日本のより良き文化『茶室』へと相成っていた。
言葉なぞ要らぬ。
ただひたすらに、緩やかに時は流れて往く……
「……はっ! ……いやいやいや……こんな事をしに来たんじゃあない!」
その場の和やかな雰囲気に呑まれつつあったのだが、トールは正気を取り戻し顔を表にあげる。
同じくして、カナミとヒナも「あ」と間抜けな声を吐き出し、真面目な表情で座布団を座り直す。
「あの~……アタシ達はですね~……」
切り出したのはカナミ。
すっかり空に成った湯飲みを脇に置き、彼に向かい合う。
「と、その前に挨拶もまともにしてなかったよなぁ? 全く、すいやせん! ……んんっんっ……俺っちは『光帝』ってぇ一介の竜でぇござんす!!」
古い極道映画に出てくるような挨拶の仕草で表に向けられた掌にて自己紹介を演じる彼。
おひけぇなすって、と。
その演技が妙にしっくりきたので、特に突っ込まずに受け入れる彼女達。
対して、ヒナが皆の自己紹介を軽く行う。
「アタシは『ヒナ』です。で、こっちの子が『カナミ』。もう一人は『トール』です」
「や、どーもどーも。ありがとうござんす!!」
憎めない朗らかさが場を更に和やかにする。
礼のついでとばかりに、空いた湯飲みに茶を足してくる『光帝』。
なかなかどうして、気配りも出来る男だった。
「で、ですね~……言いにくいんですけど~……」
有り難く湯飲みを受け取り両手を添え、その温もりに浸りながらも、カナミは彼に真の目的を告げようとした。
「みなまで言わずとも! えぇ、えぇ。分かっておりまさぁな!!」
片手で彼女を制し、彼は懐から扇子を取り出し軽快に開く。
片眼を閉じながら、そよそよと顔を扇ぎ、何やら考え事に耽ている。
「……整いました!」
パチンと扇子を閉じ、ビシッと彼女達に突き付ける。
何事かと、身を固める3人。
「嬢ちゃん達ぁ……確か、『竜の涙』が欲しいってんですよね? よござんしょ。差し上げても別に問題は有りやせん」
「「やったあ!」」
「ただし!!」
喜びに浸ろうとしたガッツポーズは彼の殺気に掻き消される。
ニヤリと不敵な笑みが凶悪に染まる。
彼女達はごくりと唾を飲みこみ、次に発される言葉を待つ。
「嬢ちゃん達が自力で取れたら、の話だぁ……」
咄嗟に自分達の武器を手元に引き寄せ警戒体制に入る。
そもそも、楽して得られる物ではないと以前から身を以て分かっていた筈だった。
しかし、そんな彼女達の様子を見て彼がとった反応はおとなしいものだった。
「違ぇ、違ぇ……何も武力で争おうってんじゃあねぇ。んな殺伐な気を放たねぇでぇくだんせんか……」
胡座をかきながら、ぼりぼりと頭を掻く『光帝』。
湯飲みに手を伸ばし、軽く啜る。
「……どういう事、でしょうか……」
必死に恐怖心を抑え込もうとするも、嫌な予感は足音をたてずにやってくる。
勇気を振り絞って、ヒナは代表して彼に問う。
『光帝』は扇子を懐に仕舞い腕を組み、胸を張りながら条件を突きつけてきた。
「なぁに。簡単な話だぁ……舞台に立って、観客や俺らを笑わせてみろって事よ。それこそ涙がちょちょぎれるぐらいになぁッ!!」
予想の斜め上どころか、直球ど真ん中だった。
しまった……
まだ、続きます(爆)
次回投稿は日曜日か、月曜日辺りに!
( ノ;_ _)ノ




