抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その3。
異世回、もとい異世界です。
パロディネタ多め?
では、よろしくお願い致しまする~……
鬱蒼と繁る密林に身を潜め、まるでその景色と一体化するように溶け込む。
声を消し、極力呼吸も少なく。1歩足りとも微動だにせず。
マネキンのパントマイムのように、佇む。
女子高生仲良し3人組は今、目の前に迎えている危機を乗り越える為に、じいっと固まっていた。
目線は右から左へとゆっくり得物を追う。
嗅覚は優れていないようなのか、やがて其れは姿を消していった。
「「「……ぷはー……」」」
ようやく、まともに深呼吸が出来た事に一先ずは感謝する。
ただでさえ、ここは空気がとても薄い高原なのだ。
というか、空高くに浮いているのだが。
かつて、この空域には『ジワナ・ルスカ』と呼ばれる空中都市が繁栄していた。
大小様々な幾つかの浮島には町や村が点在し、各々は虹のように美しい七色の架け橋によって連結され、その中心部には荘厳な城が聳え立つ。
都心部は便利な魔法具なども各種取り揃えられ、魔術師達は日々研究を怠らずに励む。
その結果、どうやら地上との交通機関も確立していたようだった。
生活居住区も貿易によって賄っているようで、賑わいを魅せる。
産業として主に取り扱われていたのは人の成せる技であり、それは異世界の住人達にも概ね好評だった。
噂が噂を広め、様々な種族が我よ我よと群雄は集う。
歴戦の武勇家や、今までは目立たなかった在野の策士などなど。
順次。軍隊は整備・拡張されてゆき、最早、王国といっても過言ではない。
その一方で、緑豊かで大自然にも恵まれていたので、住人達は幸せな日々を送っていた。
ちなみに、島が浮いているのは魔術師や魔法的な開発技術等の進化ではなく、大陸自体が魔力を秘めているからである。
……決して、ラピ○タ的なものではない。
飛行石などは無い。
いや、ある意味、島全体が飛行石か?
まぁ、其れはさておき。
この異世界大陸ファンタジスタに於いては、そのような不可思議は日常茶飯事なのだから。
だが、そんなある日のこと。
突如始まった悪魔と天使との激しい争いに巻き込まれてしまい、その余波により、空中都市は壊滅状態へと追い込まれることを余儀なくされる。
這々の体で地上へと逃げ出した住人達はやがて、長い年月を経て王国を造り上げた。
それが今、この異世界大陸に於いて唯一存在する現王国『シェラザール』である。
棄てられた空中都市は、今ではもう荒廃し、大陸全体を支えていた強力な魔力も底をつき、地上に墜ちた後は冒険者などの格好の餌と成り果てていた。
いわゆる『古代遺跡』と呼ばれる代物だ。
ただし、僅かに生き残った浮島もあり、今では宙を飛び交う多種多様な生き物達により支配されていた。
遥か南西に位置するそれらの島々はやがて、ジワナ諸島と呼ばれた。
その中のひとつの浮島に彼女達は送り込まれた。
いや、正確には自らの脚で出向いたのだが。
彼女達は今、目の前に拡がる光景に、どこかデジャヴを覚える。
「ねぇ……これヤバくない~……」
「うん……そりゃあ確かに『竜の涙』も有るんだろうけど……」
「というか、見た感じ『竜』というか『恐竜』の島だな」
「ジュラシックパー……」
言い掛けた口は誰からともなく押さえ付けられる。
余計なことを言うんじゃないよ。ハラハラ。
某・米国のハリウッドから訴えられるのはご勘弁戴きたく存じ上げます。
密林を注意深く慎重に進み、余裕のある場所をようやく確保した彼女達は、少し開けた大地を視界に収める。
高い木の枝から葉をもぎ取り咀嚼する首の長い巨大な竜は複数群れる。
そこらに生えている雑草を食む、前に突き出た立派な3本の角を持つ、がっしりとした鎧を着込んだ竜。
または、光輝く禿げた頭頂部で互いに雌の前で己の強さをアピールする竜。などなど……
いわゆる、『恐竜』が住み着いていたのだ。
唯一違った点は、その身体に似合わない程の大きな翼が生えていた事ぐらいか。
「あれってさ~……みんな飛ぶのかな~……」
興味深く覗き混むカナミが呟く。
「いや、だって……あんな身体で自由自在に飛べると思う?」
その何気無い呟きに対し、ヒナは純粋に疑問を投げ掛けた。
「向こうの世界の常識で計るんじゃあない。ここは何でも有りの世界……異世界なんだから、な」
トールは最早、まるで初めからこの異世界に住んでいたかの如く、馴染んでいた。
「確かに……ね~……」
思わず、運転せずに手で押していた己の自転車を視るカナミ。
何せ彼女達3人はこの自転車で此処まで『飛んで』きたのだ。
偉大なる魔術師バレンシアにより、更にチューンアップされた、それぞれ3人の自転車がそこに有った。
前に取り付けられた籠が有るので、満月の映える深夜には『E.○.』ごっこが出来るだろう。
調子にのって、どこまで空高く飛べるのか、だとか、最高時速はどれほどなのかと試したところ……
自分達の身体がもたない事が判明。
なので、普段通りに日数を掛けての旅路へと相成った。
一応、飛行モードと地上走行モードの切り替えが可能なので、それなりに重宝される事が期待される。
ちなみに今回は、かなりの距離と日数がかかるらしいので途中までは魔術師バレンシアにお願いして瞬間移動させて貰った。
便利な魔法だとつくづく感心する。
今度俺も、ヤー○ラット星人にでも教えて貰おうかな。
「あ……あっちに入り口が見えるよ~……」
ボソボソと声を絞り、ふたりに伝えるカナミ。
いくら草食系の恐竜を彷彿させるも、何が攻撃のスイッチになるのか分からないので、極力静かに行動をする。
呼応し、ヒナとトールも気配を限り無く控えて、そろりそろりと自転車を押していった。
やがて、辿り着いた建物の入り口。
錆び付いた巨大な門は開きっぱなしだった。
斜めに傾いた看板にはカビが大量に沸き掠れており、多分、擦り落とした所で一字ですら読み取る事は出来ないと推測される。
その広大な施設内に明かりは灯されておらず暗闇が中を占拠している。
仕方なく、背負っていた鞄から、この異世界には全く不似合いな『懐中電灯』を取り出した。
予め、カナミが実家で準備してきた私物である。
これは、魔術師バレンシアとの更なる交渉の暁にもぎ取った権利であった。
「……うわ~……結構、奥が深そうだから気を付けてね~……」
電灯を付けたカナミは、よいしょ、と鞄を担ぎ直し、目を凝らし、何故か自然とヒナの手を握る。
そこに何も違和感を覚えなかった彼女も当たり前であるかのように付き従った。
半歩下がった位置に居たトールはそのふたりの萌える雰囲気に胡散臭さを感じたのだが気にしない事にして、見なかった事にして先へと歩み出た。
「ひやっ!?」
明かりに照らされた道を暫く歩み、突然頭上から垂れてきた水滴に怯え、ここぞとばかりにヒナに抱き付くカナミ。
表に居た『恐竜』らしき化け物でもない、たかが水滴に何をビビっているんだとため息を交えながらに呆れ返るトール。
しかし、にやけ面を醸し出し、いちゃつく彼女達に確かに苛立ちを感じたのは否めなかった。
「おい。気を引き締めろ。そんなんじゃあ生き残れないし、元の世界になんて帰れないぞ……」
声音は控え目にして。
だが、瞳の奥には、僅かにではあるが殺気が宿っているかのように見えたので、カナミは抱き付いていたヒナから即座に離れた。
相変わらず、互いに手を握り締めたままなのだったのは諦めてみる。
どうにも、ふたりの関係に怪しさを感じたが、今は軽い説教で済ませる。
「ごめん、トール……」
「いや、良い。今後は気を付けてくれ……」
微かな、わだかまりが痼を帯びる。
大体、今までそれぐらいの、些細な罠など何度も潜り抜けてきただろう、と。
明らかに腑抜けたふたりに嫌気が差す。
「アタシだって……逢いたくて仕方がないのに……」
ふと、溢れた本音。
折角、想いの丈を態度で伝える事が出来た愛しい彼の屈託の無い笑顔が脳裏に浮かぶ。
あの『灼熱』は今、何をしているだろうかと。
思わず、涙腺が緩み、零れ落ちそうになる。
「大丈夫? トール?」
滅多に空気を読まないヒナが気配を察したのか、項垂れる彼女に近付き、様子を伺う。
「ん。大丈夫だ。気にしないでくれ……」
後ろを省みずに、片手で制する。
ぐいと、拳で眼を擦り、への字口で鼻水を啜る。
こんな事で負けてたまるかと。
片手にした長剣の柄を握り締め、己を鼓舞するトール。
「……ん~……何か……向こうに明かりが見えるんだけど~……」
カナミは空いた片手を額にかざし、光が導く先を薄目で睨みつけた。
トールは剣を鞘から抜き出し、ヒナは背負っていた弓を構え、臨戦態勢を取りつつ3人は、いざ闘いの舞台へと脚を進めて往く……
『いやはや~……御苦労さまでぇ、ござんしたなぁ!!』
そこで彼女達を待ち受けていたのは。
和服の衣装を器用に着こなす、鬱陶しい程、目映い黄金の竜だった。
遂に来ちゃったか……
次も引き続きカオス回です(笑)
投稿は金曜日辺りで。
( ノ;_ _)ノ




