抗えば。抗うほどに、螺じ曲がる。その1。
異世回、もとい、異世界です。
若干、グロあり。パロ多めです。
ギアは加速する。
fastからsecondへ。
secondからthirdへと。
度重なる熱線により、焦げ臭さは大気を埋め尽くしてゆく。
例え相対する者が誰であろうと何者であろうと構わずに滅さんと、その速度は上昇し続けた。
『よく、避けるものだ。だが。まだ本気では無いぞ……』
我慢する必要などは最早、皆無。
今まで溜め込んできた鬱憤を晴らす炎の象徴。
『炎帝』の竜が咆哮のみならずして、全身から炎熱を解き放つ。
その悉くをまるで完璧にプログラムされた精密機械に流れる電気信号のように、巧みに操作する。
『穿ち滅せよ……獄炎舞!!』
騒然たるは派手な爆音が辺りに鳴り響く。
夥しく放たれた熱線の行方は果たして、全弾目標に命中したかのように見えた。
だが、『大天使』カリゼラは光輝く球体にその身を包み、全くの無傷であった。
いわゆる、防御壁。
バリアなどと呼ばれるものであろう。
「……おらのことぉ……忘れんなよおおおおおッ!!」
蒼空を覆い隠す漆黒の巨体が大声で主張する。
『無道』の悪魔・太郎。
彼の、小さな島ぐらいなら軽く潰せる程の拳が豪快に降り下ろされた。
流石にまともに耐えきれないと判断したのだろうか。
『大天使』カリゼラは限り無く瞬間移動に近い速度でその場から離脱を計る。
しかし、それを予測していたかのように待ち構えていた『炎帝』の火球が爆ぜた。
「……少々。侮っていましたか……」
防御壁の一部に亀裂が入る。
即座に修復を試みるものの、またしても、次は自分の番だと言わんばかりに今度は『無道』の蹴りで横殴りにされる。
別段、協力している訳ではない。
ただ、『炎帝』が『無道』を利用しているだけなのだ。
だが、それはどうやら功を成し、巧く連携しているようだ。
いくら、天界に於ける実力者とはいえ、災害級の悪魔と竜を同時に相手をするのは、正直、不利は否めなかった。
先程から幾度となく『粛清の光』を召喚する詠唱に、精神を集中しようとしていたのだが、その都度、彼等に邪魔をされていたのだ。
何せ今対峙している彼等には通常の『粛清の光』では効果を及ぼさないであろう。
その為には、長時間に亘り、祈りを捧げ続けなければならない。
「……仕方ありませんね……今回は引き下がりましょう……」
あまりにも格が違う闘いを見せ付けられ、傍観に徹する事しか出来なかった残存していた配下の天使達に心で指令を下す。
すると、多分に彼等の代表格であろう者がカリゼラに静かに近寄り、心配の念を送る。
「……宜しい、の。でしょうか……」
「少々、戦力に差がありすぎました。一旦、天界に戻り指示を仰ぎます」
あくまでも、立ち向かう悪魔と竜から目は離さずに、彼に囁くカリゼラ。
だが……次の瞬間、状況は一転する事に成る。
「こ……これは、いったい……」
深紅に染まる、己の胸から生えている腕が見えた。
貫手は素早く引き抜かれ、途端、大量の鮮血が噴き出す。
突如起きた惨劇に呆気にとられる天使達と竜と悪魔。
「油断大敵ってね? ……ふぃ~……やっと近付けたわ~……長かったぜぇ……か…ッはははッは!!」
側近の天使であったであろう者はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、やがて、その姿を変貌させてゆく。
計八本の腕を忙しなく生やし、頭部からは何十本もの鋭い尖角が滑らかに煌めきを魅せる。
背中には羽黒蜻蛉を彷彿させるような黒く美しい大きな翼を何枚も羽ばたかせては空中停止を可能にしているようだ。
そして、特有の三角の鏃は剣尻のような先端を持つ尻尾がそれらの物語に結末を告げる。
まごうことなき『悪魔』だと。
「き……貴様……その波動……まさか……『残虐』の……ナロウバ……か……」
傷口に掌をかざし、解き放たれる光を以て回復に努めるカリゼラが問う。
だが、回復魔法の効き目が何故か遅く、口から溢れ出る嗚咽に血が混ざる。
「お。ご名答! はい、よくできました、まる。さ、皆さん拍手拍手~♪」
けらけらと嗤いながら、現場の者達に賛同を促す。
同時に彼『残虐』は、うち一本の腕を差し出し、掌を開ける。
「ってか。いや、カリゼラさんよ? 治せるとか思ってんの?無理だってばさ! ほら。アンタの『核』ここに有るモンよ?」
先程、貫手を引き抜く際に、身体の内から『核』とやらを奪ったのだ。
決して、ドクドクと鼓動が波打つ心臓では無い。
寧ろ、清らかな光を放つ水晶球に近い。
「アンタ達ぁ、これがないとその躯を形成出来ないってんだろ? いや~、長かったわ~……何時まで演じれば良いのやらってさ。あと、アンタいっつもガードが硬かったからさ。やっと装甲が薄くなってくれてマジ助かったわ~。悪魔と竜に感謝! ……ホンッとに……なぁ……」
手にしていたカリゼラの『核』を握り潰す。
表情からは完全に笑みが消え失せ、唐突に現れた純粋なる邪悪が暴れ出した。
完全に戦意を、命を失いつつある大天使カリゼラに更に『残虐』は追い討ちを掛けたのだ。
「右手ですかぁ? 左手ですかぁ? 両手だっつーの。八本の腕による猛ラッシュをとくとご覧あれ。さん、はい、せぇぇぇの……オォォォラッ!! オォォラオラオラオラオラオラオラドラドラドラドラドラドラドラドラソラソラソラソラソラソラソラソラムダムダムダムダムダムダムダムダウラウラウラウラウラウラウラウラララァッ!!ベッカンコーッ!!」
頭部に生えていた尖角の幾本かを各々の空いた手で順次に抜き取り、その全てをカリゼラに何度も何度も何度も突き刺す。
其こそ、原型が無くなるぐらいに。
抜いた尖角は即座に生え換わり、矢継ぎ早にカリゼラの身体に突き立てられてゆく。
「……はぁ……はぁ……やれやれ、だぜ……ッ……」
息上がってますよ、旦那。
どうせなら、最後まで格好つけてくださいな。
とはいえ、彼の目の前には見事な造形の作品が完成されていた。
タイトルは『針の筵』だろうか。
無惨な姿を皆に魅せ付ける。
様々な大天使の中でも一位を争う実力者の姿など、そこには毛頭感じられなかった。
やがて、その芸術品は厳かに地上へと降り立ち、鳴りを潜めた。
「そ……そんな……カリゼラ様……」
慕い付き添っていた従者達は皆、失望と悲しみを露にして、諦念に捕らわれる。
涙を流す者や、憤怒の視線を投げつける者など、様々に思い思いの丈をその態度に表している。
しかし、彼は違った。
『貴様……我が戦意を蔑ろにしおって……ただで済むと思うなよ……』
漸く冷静を取り戻し、現状を把握した『炎帝』が苛立ちと共に覇気を荒立たせる。
際限など無い、何処にぶつけて良いのか分からない、どうしようもない憤りが猛る。
『我の鬱憤を晴らす対象は今を以て、貴様へと転移した。ゆけ! 炎列よ!!』
まだ、迸る火炎は留まらずを知らず。
遥か天空にまで届くかのような火柱が一頻り規則正しく整列し、彼の悪魔『残虐』へと続く道を造り出す。
暗雲立ち込める暗闇を赤く染めあげる。
雲海を赤口の炎熱が切り裂き、次々とそれらは収束を迎えようとした。
『蒸発せしめよ……我が奥義にて……喰らえ! 御門乃炎!!』
建ち並ぶ炎柱が、各々、予測不可能な不規則な動きで『残虐』の悪魔へと集いせしめる。
何が起こっているのかまるで検討もついていない『無道』の悪魔・太郎は赤子のように指を咥えながら、おいてけぼりであるが。
「……ふうん。で、どうすんの?」
一筋の太く立派な火柱が完成し『残虐』の悪魔を包み込んだのだが、彼は全く気にも止めず。
彼は汗ひとつ掻く事すら無く、八本全ての腕を器用に組みながら、余裕の表情で空中停止している。
『ば……馬鹿な……この奥義に、業火に耐えられる者なぞ、この世にはおらぬ筈……』
先程、得意気に吐いた台詞は撤回され、逆に、弱気な態度が相手の実力を肯定させた。
『御門乃炎』という奥義は今だかつて誰にも破られた事の無い技であり、尚且つ、『残虐』にとっても初見なのだったから。
まさかの展開に驚きを隠せない『炎帝』は決して手を出してはいけない相手だと漸く気付き、戦意その他諸々を含めて意気消沈する。
「ま、気にすんなよ?あと、こいつァ有り難く貰ってっから、な?」
極太の火柱が徐々に其の成りを縮めてゆく。
深呼吸をする度に、炎は『残虐』に取り込まれ、やがて完全に消滅した。
「ぷはー……ごっそさん! ……コッチの俺にゃあ『炎』は効かねぇよん♪」
朽ちた腹を擦りながら、余韻に浸り、自ら種明かしをする。
懐から取り出した少し長めの爪楊枝をギザギザに並ぶ鋭利な歯に挟み咥え、朗らかに上下させる。
パッと花が咲いた。花は桜木、男は岩鬼か。
「おう。そうそう、『無道』。お前さんの往くべき道はアッチだ」
ぱちんと指を鳴らし行方を指し示す。
その先には天界へと続く一際大きく光輝く『天使の梯子』が姿を顕していた。
そちらへ視線を向けた太郎の耳許で悪魔は囁く。
「太郎ちゃんよ。コッチはコッチで任せておけや。お前は向こうで好き勝手に暴れまくれや……な?」
「んあ~……よく分からないけど、分かったのねん」
どないやねん。
さておき、『無道』の悪魔・太郎は、打ち拉がられながらも健気に立ち向かう天使達を蹴散らしつつ、天界へと歩み始める。
「さて、と……んで。そこのオッサンよ。アンタはもっと、他にも因縁あるヤツが居るんじゃあねぇのか?」
『……? ……我は我を封印した天使に、神に復讐する為に復活したのだが?』
「いや、そうじゃあねぇだろうがよ。『炎帝』の名は飾りか?ようく耳を済ませてみろや」
すっかり闘う気力を失ってしまっていた『炎帝』カリギュリア。
『残虐』の悪魔に促されるがままに、精神を研ぎ澄ませ、世界の気配を伺おうと試みる。
『……む!? ……これは……かつての宿敵か!? ……更に……黒帝……だと!?』
はい。
また忘れられている猪口才な咄家。
最強と称される竜『光帝』は、御約束とばかりにクシャミをひとつ。へーちょ。
モテる男は辛いですよね。うんうん。
『ふは……ふははは……ふははははははッ!! 実に面白いッ!!』
三段活用すんな。あと、どこぞの大学准教授か。
突然、数式を其処らに書くんじゃあないよ、全く。
い、いかん。折角のシリアスが音をたてて崩れ落ちてしまう。
耐えろ。耐えるんだジョー。いや、俺。
『よかろう! ならば、こそ……今再び、我が最強の竜だという事を立証してくれようぞッ!!』
燃え盛る炎の翼を大きく羽ばたかせ、雄大なる巨体が大空へと舞い上がる。
再び宿る闘志を放ち、先程から幾つか感じる竜の波動の中からひとつ、最初の標的を見定めた。
『うむ! いざ往かん!! 待っていろ……我が永遠の宿敵よ!!』
各々の脅威的な存在は、『残虐』の悪魔によって唆され、各地へ更なる災害を及ぼすであろう。
熱い思いを秘め飛び去った『炎帝』の竜や『無道』の悪魔などを眺めながら小刻みに震え出す肩が笑いを誘う。
「か……ッはははッは!! ったく、よぉ。アイツらは単純でやり易いわぁ。ちょろ過ぎんだろーが!!」
空中停止しながら腹を抱え、抱腹絶倒する器用な悪魔。
涙がちょちょ切れながらも、暫くしてようやく落ち着きを取り戻す。
顎を指で数回弾き、あくまでも愉しげに、次なる一手を攻めあぐねているようだった。
「ん~……よし。奴さん達にもぼちぼち表舞台に出て貰いますか、ね……く……ッかかかッか!!」
混沌を振り撒く悪魔『残虐』のナロウバ。
彼は、邪悪な笑い声を大空に轟かせながら、四方八方へと飛び散って往ったのだった。
ギリギリ攻めてみたけど……大丈夫かな?
(^_^;)
次回は土曜日辺りにしようかと。




