プロローグ【不即不離。いつでもあなたを、視ています】
現代世回、もとい、現代世界です。
グロあります。キモヲタ成分、濃い目かと?
お気をつけくださいませ……
回りの暗さは僕のため。 あの娘が来るのを待っている。
夕暮れ時は寂しそう。 とっても独りじゃあ。
い ら れ な い。
3人の女子高生がいつも『通り路』として利用している道より遠く離れた裏路地から愛を込めて。
荒い鼻息と、止めどなく溢るる涎を反芻させながら、小型のビデオカメラを隅々までチェックしていた。
「ぶひぃ。ぶひぃ。だ、大丈夫なんだな。うん。ぼ、ぼっきゅんは大丈夫なんだな。はぁはぁ……はぁはぁ……」
しまった。 もう描きたくない。
だが、しかし。
勇気を振り絞って頑張ってみる。
ほたるさん、良いですよね。
それは、また別の『だが、しかし』。
「……ぶひぃ。ぶひぃ……き……キッターーー!!……」
望遠レンズ越しに見えるちんまりとした身長。
服装から察するに『女子高生』を視界に納めて興奮の坩堝に殉じる。
長い黒髪を左右の中央より少し高い位置で纏め、両肩に掛かる長さまで垂らした髪型が風に靡く。
決して、彼の荒い鼻息で靡いた訳ではない。
いわゆる『ツインテール』。
『二つ結い』の女子高生であった。
「……はぁはぁ……はぁはぁ! ……はぁはぁはぁ!! 今日もまた一段とかわゆすなぁ……カナミたんッ!!」
興奮冷めやらぬ。 裏路地で。
何やら下半身をモゾモゾしている。
てか、外でナニをするのは辞めなさい。
チャックに手を掛けようとしたので少々、割愛させて頂きます。
そう。
彼と彼女との初めての出会いは某アニメショップだった。
いつも通りに出掛けて、いつも通りの趣味集め。
そしていつも通りの店員の兄さんに商品を手渡す。筈だった。
目の前に。
カウンター越しに、『天使ちゃん』が降臨したのだ。
My Angel Oh Sweet Honey。
ふっと現れたMy angel。その笑顔で救いだしてよ。
どっきん。 どきどき。
ばっくん。 ばくばくばく。
ばくさんのかばん。
高鳴る鼓動が更に激しく心を揺さぶる。
痛い。 痛いよ。 胸アツだよ。
助けくれよ、『天使ちゃん』!
DOしてAngel気づいちゃくれない。
誰よりHeavyに愛してる。
LaLa裸。 ららら。
言葉に。 出来ない。
貴女に会えて、本当に良かった。
嬉しくて。 嬉しくて。
萌え萌え、きゅん。
色彩豊かな欲望は、ただひとつに纏まる。
欲しい。 彼女が。
ビデオテープ越しでも良い。 録音されたMDから流れる声だけでも逝ける。
旧式のカセットテープなら、もっと深くに刻み込める。
アツさは増し、汗が躯に迸る。 いつも汗だくですけどね。
どぎまぎしつつも、勇気を出して手にしていた得物をカウンターへと捧げる。
駄目だ。 元々、対峙した人の顔ひとつまともに見れやしないのに。
況してや、今は『天使ちゃん』が眩し過ぎて瞳なんて開けていられないよ。
俯く彼。
懐から財布を取り出し、ひたすら無言に取り繕う。
全身から。 掌から滲む汗がその動揺を語る。
「はい。確かにお預かりしました。ありがとうございました♪ またのご来店を……にゃん♪」
鼻血が宙に舞う。
天を仰ぎ、神が彼を祝福している。
今、この時の為に、俺は産まれてきたのだ!
リンゴン、リンゴンと教会の鐘は鳴り響く。
だが、それはあなただけの主観ですよ。
チラリと『天使ちゃん』の慎ましい胸元を視姦した彼。
名札には『戟卯田 香菜己(カナミです♪)』と書いてあった。
「か……カナミちゅあん……僕ぁ……君を絶対に……手に入れてみせましゅうぅ……」
閉店まで粘り、カナミが帰宅するまでひっそりと追け回したその日以降、生活は割りと激変した。
いつもなら、絶対に起きる事の無い時間に、朝早くに起床して、電車に乗ること1時間。
更に30分ほど歩き続け、彼女の家の近所の穴場で、その身を潜めながら、ひたすら神の扉『玄関』から出てくるのを待つ。
はぁはぁ。 はぁはぁ。
特に激しい運動をした訳でもないのに滝のように溢れ落ちる汗。
肥満を気にした事など今まで1度もなかったが、流石に堪える。
絶え間無く押し寄せる波を、リビドを必死に砂浜で食い止めながら。
「じゃ、いってきま~ふ」
な……なんてこった……
パンナコッタ。
こんがりと焼かれバターを塗られた脂っこい。
一面に熟れ嬉しいイチゴジャムを塗られた食パンを口の端に咥えた女子高生が扉を開けて軽快に躍り出た。
そのままに自転車に飛び乗る天使ちゃん。 いや、カナミさんや。
分かってないな。 ちみぃ。
そこはそのまま自転車になど頼らず、駆け足で。
角でばったり運命の人に体当たりするところじゃあないか。
だが、遠く離れた場所から眺めていた彼にとってはそんな事は些細な問題ではなかったようだ。
「…………良い…………」
どぼどぼと、大量に地面を濡らす涙と涎が、朝早くから周囲を穢らわしさで満たしてゆく。
恍惚の表情どころではない。
しなしなと膝から崩れ落ち、自転車で登校する彼女を突っ伏した大地目線で見送る。
偶然通り掛かった野良犬がそんな彼にマーキングをしたが、まるで気付く由もなく。
「あぁ……逝ってしまうぅ……」
桃源郷の彼方へと誘われ、薄れゆく意識の中、彼は決意を改めた。
『天使ちゃん』。 カナミを生涯、視守ろうと。
そんな毎日を繰り返してゆく内の一駒の夕刻時。
はい。 今ここです。 疲れるわ……
「……ああッ!? ンもうッ! でっかい女退けよッ! 需要ねえんだよッ!!」
珍しく帰宅時間が合致した長身の女子高生がカナミと触れ合い、竹刀袋で更に彼のビデオカメラから視界を奪う。
更に後方から猛ダッシュして合流するベリーショートの女子高生が爽やかに汗を流した。
「くっそ! 邪魔なんだよお! アイツら、いっつもいっつも!! ぶひぃぃぃッ!!」
地団駄を踏む彼だが、常にカナミを追う努力は怠らない。
様々な角度からカナミを狙い続けようと、ゴミ箱の上に昇ったり、または持参した脚立の位置をずらしたりと撮影を試みる。
決して、彼女達に近付こうとしないのだけは評価してみる。
「おい。そこのキモヲタ」
「ぶひぃ?」
誰も居なかった筈の後方から声が掛けられたので振り返る豚オタク。
何故ならば、工事中の立看板で後ろからくる可能性のある輩を封鎖していたのだ。
そして、そこには口許で煙草を燻らせるスラッとした長身で金髪の似合う輩が立っていた。
「お前の思想は確かに素晴らしいと思うがな……その立ち位置は俺だけなんだよ」
ぷはぁ。 と、白煙を撒き散らして目の前のキモヲタ君とやらに軽く威嚇の意を表す。
対して、彼は煙たそうに片手を振り回し、睨み返した。
「な。ナニを言ってるぶひぃ? 彼女は僕だけの天使ちゃんなんだぶひぃ!!」
「ぶひぶひうっせーよ。豚のまだマシだわ。豚カツ、豚しゃぶ超ウメーかんな?」
「ぶひぃぃぃッ! ぼ、僕ぁ豚なんかじゃあないッ! 喰らえい! 超ッ太鼓腹打ち!!」
怒髪天に来たのか。 あからさまに輩っぽい彼に立ち向かう。
迸る闘志を双眼に宿し勇猛果敢に飛び掛かった。
だが、それは瞬時に見事に交わされる。
途端、顔を鷲掴みされ、しかも身体ごと宙に浮かされた。
「とりあえず、な? あの天使ちゃんを視守って良いのは俺だけだ。因って、貴様には天誅を下す。……バルス!!」
目にも止まらぬ早業で。
彼の掌にはふたつの眼球が転がっていた。
「ぴぎゃあああああッ!! ……眼が……眼がぁぁぁぁッ!!」
夥しく流れ落ちる鮮血が辺りを朱に染めて逝った。
両手で覆い隠し、あまりの激痛を必死に抑え込もうと抗いながら、よろよろと裏路地から表道へと出てゆく。
そんな彼を見て、通りゆく人達の一際甲高い、絹を裂いたような悲鳴が響き渡った。
「馬鹿が……縄張り荒らしてんじゃあねーぞ……」
そう言うと彼は裏路地の壁をよじ登る。
ちゅうちゅうたこかいな。
計八本の腕を生やして。
暫くして、旧くなった、何か小さな器具を新しいものと交換した。
「よし。これで此所も完了っと」
作業を済ませ、音も無く、素早くも華麗に着地した彼の八本の腕は既に二本へと戻っていた。
軽く服装の汚れを叩き、足元に置いておいたジャンクフードで満たされたビニール袋を拾い上げる。
どうやら、事前に買い物を済ませたついでに立ち寄ったらしい。
遠くから流れてくる救急車のサイレンを聴きながら歪む口許からポツリと独り言が紡ぎ出される。
「あの天使ちゃん達はなぁ……産まれた時からずうっと視守ってんだよ。俺様の邪魔すんじゃあねーっての……か…ッはははッは!!」
表道には出ずに。
そのまま後ろに下がる彼。
『残虐』の悪魔は嗤いながら、闇の中へと溶け込んでいった。
はー……
途中、キモすぎて何度も挫折しかけましたわ(爆)
今章、前章にもましてハードになるやも……
(^_^;)
次回投稿は10月12日は木曜日辺りにしようかと。