エピソード。-0.5【冷徹なる孤独】
短文です。
異世界……もとい、異世回です。
今回は『氷帝』の竜のエピソード。
エロ、グロなし。
一枚の細雪が散らつき、暖かみを帯びた土に舞い降りては、しゅんと溶け、消え行く。
ようく目を凝らしても、六角形の美しい微細な冬の訪れなど見えもしない。
雪の結晶に、同じ形は無いというのは覆されたらしいが。
それはさておき。
私は、どうやら其処で産まれたらしい。
峻険な山容で、常に四季は冬の訪れのみ。固定された雪国。
特に嫌ではなかった。
寧ろ、他の季節など要らない。
珍しいとは思う。
私は其処らに潜む爬虫類だったのだから。
普通、同種なら比較的暖かい南方の熱帯地方に棲息するらしい。
だが、私にとってはこの地がお似合いだった。
唯ひたすらに美しかったのだ。
雪が舞い、降り積もってゆく光景が。
冷えて、凍える。
徐々に、芯から。
固まって逝く自分の躯など擲ち、冷め逝く大地と一体化しては痛みを伴う。
ああ。四肢は、もう動かない。
さっさと、暖かみを覚えているうちに穴蔵へ逃げてしまえば良いのに。
「何故に……こんなにも……美しいのだろうか……」
瞳の端から零れ溢れる涙が、瞬時にコロリと落ち、割れた。
切なさがぐうっと、胸を締め付ける。
これは、私がまだ『氷帝』と呼ばれる遥か以前の話である。
「俺は出てゆく。お前はどうする?」
ある日のこと。穴蔵にて食事をしていたら突然。
同じくして唯の爬虫類だった同居人の彼が私に問い詰めてきた。
此処に居れば、毎日、なんの気兼ねもなく暮らしていける。
「……君はどうして此処を出ていくんだい?」
質問に答えず。
逆に、純粋に疑問をぶつけてみた。
「此処は俺の居場所では無い。もっと良い棲みかを。そして、俺はもっと強くなりたいのだ。伝説の『真竜』のように……」
「でも、あんなの『お伽噺』だよ。きっと。」
「断じて、否!」
握り拳を地に叩き付け、憤りを表す彼。
器用だなぁ。
同じ蜥蜴なのに僕には出来ないよ、そんな真似は。
だって、痛いもんね。
「お前も薄々感付いているだろう! 俺達が『竜の血脈』だという事に!」
ずうっとひた隠しに、いや、気付きたくなかった真実を彼は突き付けてきた。
思わず目を逸らし、黙ってしまう。
「沈黙は肯定と解く。分かっていただろう。お前も……」
難しい言葉知ってるなあ。
いったい何処で覚えてきたのだろう。
いや、多分……洞穴の奥にあった紙束を読んで学んだと推測される。
たかが唯の爬虫類になど学べる筈がない経典の数々が其処には保存されていたのだ。
既にその部屋の主は居ない。
ただ、所々に置かれていた怪しい玩具が目立つ。
中には、フラスコに入ったまま封印された生物などもあった。
よくよく考えてみると、二人は此処で創られたのかもしれない。
「そりゃあ……僕だって気付いていたさ。でも……良いじゃあないか。此処でおとなしく暮らしていたって……」
恐る恐る、下から睨み付けて、不満を口にした。
だが、上から帰ってきたのは覚悟をしていた暴力ではなかった。
「いいさ。俺はお前の意見が聞きたかっただけだ。何も一緒に来いだなんて言っていない」
そう告げると彼は踵を返し、ごうごうと降り続ける雪を見詰める洞穴の入り口へと歩み始める。
その佇まいには、最早迷いなど一切感じられなかった。
「俺は行く。お前も……頑張って生きてゆけ……」
たった一言を残して。
雪原の彼方へと消え行く背中を追う事も叶わずに。
ただ、見守るしか出来ない自分に、僅かばかりの悔しさが募る。
「僕は……此処で自分なりにやってみるよ……『真竜』に到達してみせる!!」
あれから、数十年の月日が経った。
ただ雪景色に心を奪われていた彼は大きく成長していた。
白銀に染まる体躯。
羽ばたけば吹雪をもたらす雄々しい翼。
溜め息でさえ、全てを凍りつかせる。
孤軍奮闘。切磋琢磨。
幾度も己を奮い立たせ、研磨し続けた結果が実る。
雪原の支配者。
いつしか彼は『氷帝』と呼ばれ、世間から畏れられる存在と成っていたのだ。
遠い目で、遥か昔を鑑みる。
あの、此処を去っていった熱い彼は今頃どうしているだろうか、と。
降り続ける雪原で思い出に浸りながら。
日課である見廻りへと向かった。
途中何度か、雪国の他の住人達が各々、彼に敬い、挨拶を交わす。
「皆、変わり無いか?」
厳しくも優しい声が、住人達を心の底から癒し尽くす。
本来なら、彼が言霊を吐くだけで相対した万物は凍り付くであろう。
だが、そのあたりはきちんと操作出来るようになった。
数えきれない程の特訓が実りを魅せる。
「あのう……少し問題が……」
大雪原スノウランド。
決して四季の内、冬季しか訪れない土地。
住人のうちの一人、銀色の狐、シルバーフォックスが彼に訴え出た。
彼はいわゆる『長老』という立場であり、皆の纏め役なのである。
と、同時に『賢者』としても有能であり、様々な知識や魔術を行使する事が出来る。
彼は懐から透き通り光り輝く水晶球を取り出し、魔力を注ぎ込む。
「……此れで御座います……南方の方角から『炎帝』らしき存在が此方へと向かってきておりますじゃ……」
其処に映し出されたのは、大軍を率いながら、美しい緑豊かな景色を燃え尽くしてゆく竜の軍勢。
その由々しき事態に『氷帝』は注意を促す。
「分かりました。皆の衆は守りに徹してください。決して闘うては、姿をさらけ出しては成りませぬ……」
『氷帝』彼は長老にそう告げると、遥か頭上へと翼をはためかせ飛び上がる。
空を遮る雲をも一瞬で飛び越え、蒼さを揺蕩う中、独り、目を凝らした。
張り詰めた静寂の彼方。
遥か遠くから、猛々しい炎の唄が聴こえてくる。
燃やせ。燃やせ。
真っ赤に燃やせ。
怒る心に火に付けろ。
倒せ。倒せ。力の限り。
お前の力を魅せてやれ。
概ね、意義無し!
野蛮な轟きが蹂躙しては此方へと向かってくる。
意を決した彼『氷帝』はこれ以上の進軍は許さないとばかりに彼等の元へと即座に赴いた。
「ほう。貴様が噂の『氷帝』か! 我は『炎帝』なり!! いざ、勝負!!」
対した彼には、何処か面影があった。
だが、件の彼には、まるで過去など捨て去ったかのように。
定めとは、宿命とは。
かくも哀しきものなのだろうか。
思い出を頼りに。
彼は成長したのだな、と感慨に更けるも。
対した彼は違ったようだ。
「さあ!! 掛かってこい!! 我が炎にて葬りさってやろうぞ!!」
かつての愛しい日々を懐かしむ間など皆無であった。
才能、力に溺れ、挑んできた彼に対し。
呆れを程越して、腫らす瞳の隈からは一際の涙が零れ落ち結晶化する。
そして、此処から。
幾重にも渡り、戦火は斬って落とされる事となる。
嘗ての友。
彼に尊大なる敬意を評して。
あるぇ?
このぐらいならシリアス耐えられるかな?(爆)
くれぐれも。ナンバリングには深い意味は有りませぬ(笑)
某歌詞を、一番と二番を混ぜています。
付け足した一句は某・風呂寝るとかいう曲から抜粋。
良い時季になりましたよね。
タプタプと溜められた熱い風呂が待ち遠しい……
次回は金曜は10月6日辺りにて!多分(笑)




