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ドラゴンNO涙  作者: caem
第1章・竜と悪魔と魔術師と
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むりやり喚ばれて、冒険者にされたJK達。その4。

 空を僅かに澱ませた雲が雨を降らせ大地に染み込む。


 時には激しく穿つ雨は、大地を削り災害をもたらす。


 だが、実に単純に、全ての生物がその恩恵に尊きを学ぶ。


 地上に落ちた雨水はやがて湖となり滝となり川へと流れを任せ、いずれは大海へと悠久の想いを馳せるかのように、神秘を奏でる。


 そんなごく当たり前の自然の摂理に反してその『水』は狂喜乱舞していた。

 無論、幻想世界・ファンタジスタ大陸に於いてはあまり珍しい現象ではない。

 ただ、違うのは、その動く『水』は自我を有した美少女だという事。




 ウンディーネと呼ばれる『水の精霊』であった。




「ちょっと……。数が多過ぎるんだけど!」


「って言ったって~……どうしようもないじゃな~い」


「私は剣だから良いけど、弓矢だと弾数が厳しくなるな」


 『魂の泉』と呼ばれる湖の上を、自転車で乗り回しながら…ヒナ達3人は大勢のウンディーネと戦っていた。




 【偉大なる魔術師・バレンシア】から予め渡されていた『呪符』の効果である。

 『水に浮かぶ』という魔力が籠められており、対象を水に沈めないようにする。

 その御札を各々の自転車に貼り付けていたのであった。


 他にも『呪符』は準備されており、彼女達それぞれが装備している武器に付与されている。

 というのも『精霊』の類いには通常の武器が効かないのだ。

 『精霊』にダメージを与えるには魔力を付与された武器か、純粋な攻撃魔法のみ。


 ちなみに、ヒナの手にする弓には『魔力付与』の御札が貼り付けられていた。

 そこから放たれた弓矢に魔力を付与する事が出来るらしい。


 最初は弓矢1本1本にその御札を貼り付けようとしていたのだが、カナミの提案で、弓そのものに御札を貼り付けてみたところ、それが功を奏したのだ。

 ただし、放たれた弓矢に付与された魔力も程無くして消えるのだが。


 トールの場合は、彼女が愛用している剣である。

 所謂、ロングソードと呼ばれる形状の剣の柄に御札を貼り付けていた。




「大体……。狂った精霊がこんな大量に居る事自体おかしいんだよね~」


 自転車を漕ぎウンディーネから逃げ回りながらも

 自分の額に『御札』を貼り付けているカナミが疑問に思う。


 ……遊んでいる訳ではない。


 カナミは戦闘能力が皆無に近い。

 なので『防護壁』の魔力を付与された御札を自身に貼り付けているのだ。


 その他、頭脳班として2人をサポートする役目でもある。

 班といっても1人だが。


 籠められた魔力を攻撃のエネルギーとして解放する御札もあるのだが、それはまだ、使用は控えている。


 まだ本来の目的地には辿り着いていないので温存しているのだ。



 通常、精霊は滅多な事では姿を見せたり襲い掛かってくる事はない。

 だが、今、彼女達が相手にしている『それら』は違っていた。


 暗黒に限り無く近い鈍さをその眼に宿した水の精霊。

 それは明らかに破壊衝動の顕れであり、自らの仲間すら攻撃の対象として認識する『狂った精霊』と呼ばれた。


 清らか且つ、恩恵に携わる万物に生命をもたらすと伝えられている湖『魂の泉』。


 水の精霊ウンディーネを始め、他の精霊や生き物達は決して荒ぶる事はなく、『魂の泉』に立ち寄った村人や冒険者に危害を加える事もなかった。

 寧ろ助言を与えてくれたり、傷付いた者がいれば癒してくれる尊き存在。


 しかし、今だけは状況は違っていた。


 至る所で混沌に犯された精霊が群舞している。

 精霊同士で戦っているのも見掛けられる。




「頑張るしかないね、目的地の洞窟まではあと少しだから」


 まるで、本棚に僅かに積もった埃でも払うかのように剣を振り、後方から或いは周囲から放たれる水の弾丸を、そして精霊本体を薙ぎ払うトール。


 両手離しでの自転車操縦はその身体能力、もとい、精神力の高さを現していた。


「もうじき、呪符の効果も切れそうだし……アタシも切れそう~……」


 ひらひらと、自分の額に見放された呪符が空を舞う。

 ついでに、自転車を漕ぐ脚力も空回りし始める。


 『魂の泉』と呼ばれるその湖は、かなり広い。

 面積にして凡そ700㎞はあるのではないだろうか。

 その中で精霊達の攻撃を避けつつ、自転車で走り回っているのだから、元々体力の無いカナミには相当辛いだろう。


 それでも、ヒナとトールの2人が善戦してくれているお陰でカナミには傷ひとつ付いていない。

 いつもすまないね~と口に出したら、いいから漕げ!と叱られた。


 自転車を漕ぎながら、弓矢を放っては確実に獲物を仕留めていくヒナに。

 トールに負けず劣らず、凄い身体能力だ。



「愚痴は良いから! もうちょいナンだから!」


 実はそれなりにヒナも疲れているのだが、何とか気合いでカバーする。



 やっと見えた。近づいた。



 彼女達の目前には……

 湖のほぼ中心に位置する浮島があり、その目線の先にはおそらく目的の、宝珠【真竜の涙】が隠されているであろう祠と洞窟らしいものがあった。


「みんな、走って!!」


 追ってくる精霊を無視して、振り向きもせず、3人は一斉に自転車を漕ぐ!漕ぐ!




 ずっしゃあああああッ!!


 ガシャン、ズダダンッ!!



 ……激しく転倒したのは言うまでもなくカナミである。


 彼女達は本来の任務を遂行すべく、ようやく浮島へと辿り着いたのであった。

 浮島に着いた彼女達に、狂った精霊達が攻めてこないのが不思議だが。


 2人は、激しく転倒したカナミを起こして介抱してあげる。


「……ちょっと、休ませて~……」


 3人は一先ず、揃って仲良く倒れこんだのだった。
























「所詮、貴様らは駒にしか過ぎんのだがな……」


 その遥か上空にいた混沌の元凶はそう呟いたが、彼女達の耳には届く由もなかった。。。




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