むりやり喚ばれて、冒険者にされたJK達。その3。
順番をミスってたみたいなので編集…m(_ _)m
「どうやら、今回も残念ながら『真竜の涙』では無かったようです。」
大空の蒼を現す如く美しい長髪。
その体躯は、さほど目立ったところはないものの……。
全身から溢れる美貌は彼女を包み込んでいた。
幻想大陸ファンタジスタに於ける【偉大なる魔術師・バレンシア】。
大陸には数多くの魔術師が存在している。
バレンシアは、その魔術師達の元祖ともいえる存在であり、現在の魔術師ギルド総帥でもあるのだ。
魔術師ギルドが創設された頃からの総帥なのだが、年の頃は20歳ぐらいに見える。
……何の魔術なのかは分からないが、若返る事が出来るのかもしれない。
昨日、ようやく密林を抜けた冒険者達一行。
彼女らは散々苦労しながらも何とか街へ帰還を果たした。
宿を取り、直ぐ様に寝入ってしまったが、あまりの空腹の為、寝起きは早く。
早朝から大枚を叩いてかなりの量の朝食をかっこんだ。
その後、軽く風呂に入り、身なりを整えた彼女達は、今回の依頼主である魔術師・バレンシアの屋敷へと報告にやってきたのであった。
豪邸とは云えないまでも。
周りを豊かな自然に恵まれた郊外の、それなりに立派な屋敷の一室にて。
手元に並べられた昼食を待たされている3人の少女を目の前にして限りなく無表情に近いが、声質が失念を語っているバレンシア。
「どうやら、今回も残念ながら『真竜の涙』では無かったようです。」
冒頭へと戻るのであった。
「あの~……。せめて、これを食べてからにして、もらっても、いいんじゃあないですか~……」
カナミはどうやら空腹を訴えている様子でその右手には箸が握られている。
正直……箸を置くぐらいしろ、と突っ込みを入れざるを得ないが。
自分の空腹も鑑みても、敢えて放っておく事にして早々に本題を切り出すヒナ。
実は3人とも昼食を目の前にしてから、バレンシアが部屋に来るまでの間、随分と待たされていた。
既に、調理された食材から立ち上る湯気は無い。
「この前の小鬼族の住処にあったのが違うとして、次の目星はついているのですか?」
さっさと交渉を済ませて食事を楽しみたいヒナが話を切り出す。
今、彼女達の目の前の机には、準備された食事とは別に。
美しい光を放つ『非常に高価な宝石』と思える代物が置かれている。
「大体……。私達は本物を1つも見た事がないのにそれをどうやって判別しろと?」
トールは机の上のそれを拾い上げバレンシアに問う。
「目の当たりにすれば、それが貴女達にも、いえ……誰にでもそれが本物の『真竜の涙』であると感じる事が出来るでしょう」
半ば分かっていたであろう返答が、改めて彼女達に溜め息を促す。
「でも、この宝玉は『竜の涙』ではあるのですよね? 報酬は頂けますよね?」
あれだけの苦労をしたのに全く報われないのは納得がいかないとばかりに。
ヒナは軽く机に箸でコンコンと苛立ちを現す。
大体、毎度のことなのだが……。
いつも突然に、ところ構わず、空気も読まずに。
『貴女達を召喚します。』とは、かなり理不尽なのである。
正直、腹立たしさを覚えざるを得ない。
確か、初めての召喚は……入浴する前の脱衣場だった。
『貴女達は選ばれたのです』
全裸で異世界に召喚させられ、何が何だか分からない状態で。
偉大なる魔術師・バレンシアである私の直属の冒険者になるのですと告げられたのだ。
『これは私達の世界……。ファンタジスタ大陸だけの問題ではないのです!』
いや、その前に服を着させて欲しい。
大体……何故、幼馴染みが皆召喚されたのかも意味がわからない。
しかも、3人とも全裸で入浴する前であったのだが…
ある意味、仲が良いのは証明されたのかもしれない。
絆が深いとこんな事もあるんだね~、などと惚けた台詞のカナミには呆れたが。
トールにいたっては、『まぁ、何とかなるだろう』と仁王立ち。
召喚主がバレンシアという女性ではあったが。
他に男性がいたらどうするのよ!と突っ込んではみるもよく思い出してみたら……。
剣道部の道場で、同世代の異性が居ようが御構い無しに着替えていたトールを見たことがあった。
脱衣場で着替えなさいと、昔から何度も忠告してきたのだが…
この歳になっても変わらない、ブレない強さ。
男前過ぎる女子高生なのだ! と、それはまぁ置いておこう。
「勿論、報酬は御支払します」
バレンシアは懐から小さめの革製品の袋を取り出した。
そしてその中から数枚の通貨を机の上に提示する。
「まぁ、金貨9枚なら良いじゃないか」
と、トールはその金貨の中から1枚を選び、歯で一噛みする。
「いや、金メダルっちゃあ金メダルだろうけど……毎回やらなくて良いからね?」
ヒナは咄嗟に、その他の通貨をかき集めて自分達共用の財布へと移す。
ちなみに、カナミはそのやり取りの最中に我慢できなかったようで、既に、食事を平らげようとしていたのだが。
さて、この世界においての通貨であるが……。
銅貨、銀貨、金貨、銅札、銀札、金札などがある。
銅貨100枚で銀貨1枚分の価値があり、銀貨100枚で金貨1枚分の価値がある。
つまり、それぞれ、100枚分の価格でランクが上がるのだ。
街での宿泊代などは銅貨10枚もあれば充分なので、今回の報酬は丸儲けだろう。
ちなみに、銅札、銀札といっても鉱物で出来ているのではなく、元の通貨に用いられた人物画や模様が使用された紙幣である。
無事、報酬も頂けたので、安心して昼食を食べ始める3人にバレンシアから依頼が出される。
「さて、では次の場所ですが……。『魂の泉』と呼ばれる湖に、強い反応が見受けられます」
バレンシアの傍らには、不思議な輝きを放つ水晶球が有り、彼女はそれに手をかざし何か呪文のような言葉を呟いて言う。
『遠見の水晶球』と云われる魔術師必須の魔力の籠った水晶である。
「日数にして往復3日程度でしょう。必要最低限の装備は準備しています」
咄嗟にカナミは持っていた地図を広げて場所を再確認しつつ、『魂の泉』について以前、街中で聞いた情報を頭から捻り出してみる。
「確か…精霊とか蜥蜴族が割りと目立つ所ですよね~…」
「竜族は蜥蜴族に起源を持っているかもしれないという伝承も残っています」
バレンシアはちらりと壁際の本棚へと眼を配る。
竜族が先なのか、蜥蜴族が先なのか……。
卵が先か鶏が先かはあえて、触れないでおくことにしてみる。
「なるほど、少しは信憑性もありそうですね……。何せ『竜の涙』ってぐらいですし」
淡い希望でしかないが、とは付け加えずにヒナが応えた。
「で、例の物は作ってくれましたか?」
トールは何やら、時折風に揺れるカーテン越しの窓に映るシルエットを気にしていた様だった。
「今回は、前々からの貴女達の希望の乗り物も用意させました」
そう言うとバレンシアは食事を終えた頃を見計らって、彼女達を屋敷の勝手口から外へと促す。
そこには、馬車と、その傍らには木製らしい二輪車のような物が人数分配置されていた。
「自転車だ! やった!」
3人は小さくガッツポーズをする。
「にしても……。馬車の方が良いのでは?」
「いやいや~……。小回りが利くので全然嬉しいですね~♪」
「うん、ちゃんと籠も着いてるし……。良いね、これ!」
「ちょっと試しに載ってみるか……」
3人の中では比較的に体つきがしっかりしているのでトールが座ってみる。
正直、座席の具合が気になっていたが羽毛でも埋め込んだのだろうか。
それを革で包み込んでいるようで臀部への衝撃は少なそうだった。
「悪くないね……。うん。それにこれなら直しやすいし潰しも利く」
辺りをぐるりと運転してみて多少は車輪に違和感があったが眼を瞑る事にしたトール。
「じゃ、早速……行きますか!」
馬に、宜しく頼むよ、とばかりに首筋を軽く叩き、ヒナが皆に号令をかける。
馬車に人数分の自転車と日数分の必需品を載せピクニック気分になっている3人であったが。
それが大きく覆る事を彼女達はその時は未だ知る由もなかった。
取り敢えず、あとは来月にしよっかな…(T∀T)