いきなりボス登場。JK達、雪辱を誓う。その16。
なぁんかキリが悪い…ので。次週の更新公約撤回(笑)
1本アげました。
微かに聴こえる虫の音。
涼しく感じるのは季節の旋律だからなのだろうか。
時折寂しさを奏でる風は火照る躰を撫で付け、熱い体温を紛らわせた。
豪邸とは云えないまでも。
周りを豊かな自然に恵まれた郊外の、それなりに立派な屋敷。
その屋敷の中庭の一角を月光が照らしだしていた。
飛び散る汗も涙も構わずに、一心不乱に剣を振るう女性。
「ダメだ……ダメだダメだダメだ! ……こんなの……全然……ダメなんだ!!」
血塗れになり破れた手の豆なんてどうでも良い。
掌の皮がいくら破れようが…今の自分はそんな痛みなんてどうでも良かった。
小さかった頃から大好きで、一番大切だった彼女をヒナを自らの不甲斐なさで。
我が儘で、自分勝手な恋愛沙汰で、傷付け罵倒し尽くしてしまったのだ。
況してや彼女に憎しみすら吐き出してしまった。
そして、ひとつ年下の愛らしい妹のような彼女カナミにも酷く辛く当たってしまった。
あの和気あいあいとした夕食をも、和やかな空気をも寸断して…
自分は「あんた達とは関係ない」とばかりにその場から逃げ出したのだ。
「……は……はは……一体……何をしてるんだ……アタシは……」
己に課した鍛錬は息切れを以て躓き、涙が剣光を鈍くする。
地面に突き刺さった剣を頼りに、彼女トールは魂の慟哭を細やかにした。
風呂上がりのあの夕食会。
彼女、トールは空腹を我慢してでも参加なんてするべきではなかった。
だが、幼馴染みで家族同然のカナミやヒナが楽しそうにしていたので拒否する事も叶わずに。
「何で……あんな事をしてしまったんだ……」
とめどなく溢れる涙が地面を濡らしていく。
不甲斐なさは己の拳を何度も何度も地面に叩きつける。
きつかった……
只ひたすらにきつく心が締め付けられた。
ひとくち、ひとくち、食べ物を口にいれる度に。味なんて感じない。
皆が…彼が、愛しく、それを取り巻く周りが疎ましかった。
耐えられない……。
一噛み一噛みすると涙の味しか感じない。
切なくて苦しくていたたまれなくなった。
そして逃げ出した。
「……馬鹿だ。アタシは……」
何の返答も無い夜の月に彼女は嗚咽を吐く。
「お? なんだ? トールじゃんかよ。こんな時間に特訓かぁ。良いこッたァ!!」
意中のヒト、暑苦しい漢。
『灼熱』のジャニアース=シャイニングが弟子のトールに唐突に声を掛けた。
ドキドキが止まらない。
近づく度に、顔を見る度に。
声を聞く度に高鳴るこの激しい鼓動を彼に聴かせたくない。
落ち着け、落ち着け……アタシは弟子であり彼は師匠なのだ。
一先ず布で掌の血を拭い、ついでとばかりに涙も拭う。
多分、顔にも血が付着してしまっているだろう。
でも、仕方がない。これが今の私だ。
「師匠。こそ……。こんな夜更けにどうしたのですか?」
何とか自分を圧し殺し、冷静を保とうと会話に努める。
「ン? 確か……誰かに呼ばれたような……??」
2、3歩歩けば忘れる鶏頭。だが、そのノリで今日まで、いや、此れからも生きて行くのだ。
『灼熱』が『灼熱』たるには、余計な知識や気遣いなどこれっぽっちも必要ないとしないのだ。
「てかよ。何か……迷いが見えるな。今のお前さんは、よ」
ずいっと近付きトールの瞳を、その奥底を除き混むジャニアース。
ち、近い、顔が近いッ!!
幾ら今が深夜で闇色が濃くなってはいるとはいえ彼の顔が近づく程に、朱色は頬どころか全身を染め上げていく。
ダメだ。隠しきれない。抑えきれない。
激しく高鳴る鼓動を。熱い情熱を。
穢らわしい感情を。もう我慢出来ない。
カツン!
その行為は頭突きとして代替された。
決して下手な接吻をして歯と歯が当たった衝撃ではない。
額と額とが密着している。漢の『灼熱』がそれを通して伝わってくる。
「迷いがあンなら受け入れちまえよ。それはそれ! これはこれだ!!」
……何か……使い方が間違っている気がする。
でも、何となく分かる気もする。
漢の真っ直ぐな瞳を見据える。彼の瞳の中には未熟者が映っていた。
彼女トールは、じゃあ、お言葉に甘えて……と……意を決して。
初めての唇を彼に捧げた。
「ッ!?」
咄嗟に、漢は初めての感触に全身の動きを止めた。
柔らかくも瑞々しい唇が恋を伝えた。初めてにしては巧く出来たと思う。
重なる唇を離し、潤う瞳を、ありったけの想いを全身で魅せつける。
「あんた……。何……してんのよッ!!」
それは突然、顔が変形する程の衝撃を横っ面に見舞った。
現場にたまたま?現れたレインシェスカがジャニアースを力の限りぶん殴ったのだ。
「お、俺じゃあねぇよ! いや、マ、マジで!」
真っ赤に腫れた頬を擦り、見苦しい姿勢で言い訳をしてみる。
今の彼には『灼熱』は似合わない。
「はぁ!? あんな事……しといて言い訳なんてすんじゃあないわよ!!」
「いや、マジで! 違えンだって! だって俺が好きなのは……」
ハッとしてぐうっと自分の口を慌てて塞ぐ。
ヤバい。色々ヤバい。
この場から逃げ出したい。貴様には死すら生温い!
「くッ!! ……お……覚えてやがれぇぇぇッ!!」
一目散に彼はその場から脱出した。
その捨て台詞は多分、決してその漢が普段から使っている台詞ではない。
……しまった。師匠を敵に回してしまった。
だが、何だろう。この満足感は。
「……ったく、あの男は……。大丈夫? トールくん?」
「あ……はい。大丈夫です」
何だろう。この優越感は……。
たったあれだけの行為で、彼女レインシェスカに勝った気持ちだ。
ふと、唇を指でなぞる。感触がまだ残っている。
一歩どころか百歩進んだ感じがする。
「そうか……アタシは……まだまだ子供だったんだな……」
「ン? どうしたの? トールくん? まさか……アイツ!!」
「いえ、違うんです。コッチの話です!」
あまり下手なことをこれ以上口にすれば、怒り心頭のレインシェスカによって、彼が埋められてから殺されるかもしれないので。
とりあえず、今の自分の心情は心境は誤魔化しておくことにするトール。
何故か全てがスッキリしてしまった。
汚ない女だと、穢らわしい女だと罵られても良い。
私は少なくとも、その想いを伝えたのだ。
彼が一途に想うヒトよりも先に。
退かぬ、媚びぬ、省みぬ!の精神で。
今此処において、トールは完全に開き直り、その瞳には今まで以上に喧しい焔が宿ったのである。
やるべき事が定まった彼女は次に、謝らなければならないヒナ達を探そうとその場を後にした。
その、筈だった。
トールは屋敷の壁際で、私たちは壁です。気にしないで下さい。と周囲に同化したフリをしている、カナミとヒナ、そしてマブダチを唆したパッカードを見付けた。
そう、一部始終、視られていたのだ。
嵌められていたのだ。
「……あんた達……」
左から右、そして右から左へと拳を鳴らすトール。
下手くそな壁は次に地面に化ける。
それは五体投地というか、いわゆる全身土下座『土下寝』であった。
とりあえず…第2章はあと1本程で終わらせます。
次章からはハード路線になるので…ちょいエピソードを挟んでから突入します。
茶番は終わりだァッ!!(自分で言う)




