いきなりボス登場。JK達、雪辱を誓う。その12。
|д゜)チラッ
余裕があるうちに投稿しておきます(笑)
「おうおう、そんな感じだ。に、しても……もう。俺を越えてンじゃあねぇか?」
顎に手を添えて、彼は彼女の向上ぶりに酷く感心をした。
素早く歩み、矢を放つ。または、動く目標に合わせて的確に矢を放つ。
更に、自転車を漕ぎながら弓矢を穿つ。
「いやぁ、素晴らしいですね。ヒナ様は。あの不思議な乗り物を操作しながら……」
狩人パッカードの感心も納得だと頷く剣士ソード。
ようやく体調。もとい、心が回復したヒナとカナミは個々の訓練を再開していた。
ヒナは狩人パッカードに従事し、カナミは相変わらず神官のガガザードに教えを乞うていた。
特に、ヒナの弓術は目を見張るものがあり、観客はその度に感嘆を漏らしていた。
「ふふん。これぐらいは朝メシ前よ!」
「……ンだとォ? 調子ノッてンじゃあねぇぞ?」
どや顔のヒナに自分の腕を見せ付けようとするパッカード。
彼は近くに見える大木を一息で駆け登り霧の中を素早く動く目標の動物『鹿』に弓矢を穿つ。
「きゃん!?」
そんな鳴き声の鹿はいないと思う。
どうせ鳴くなら「きょん!」ではないだろうか。
「ちょっと! いきなりは止めてよね! 危ないじゃないッ!!」
突然の死角からの強襲に怒声を放つ鹿。
数本の矢が刺さっている。
どれだけ射たれても死ぬことはないようだ。
さすが鹿だ、なんともないぜ。
ちなみに、そんな『鹿』という目標役に務めているのはレインシェスカである。
彼女は、分厚い革製品で梱包されている。
箱状態の彼女は『濃霧』の魔法で周囲に霧を撒き散らし、自身を『幻影』の魔法で、八丈島の。もとい、『鹿』に見せては、霧に包まれた河川敷を、ところ狭しと駆け回っていたのだ。
「あ、わりィわりィ」
「アンタもね、調子のりなんだから。気を付けなさいよね。全く、もうッ…」
アクティブな魔術師レインシェスカはぶつぶつと呟いた。
自分はそうではない、とでも言うのだろうか。
「彼は身体能力に優れた種族『狼人』といって、今のように機敏な動きを得意とするのさ」
ヒナに詳しく説明をするソード。
彼は常に女性の傍から離れようとしない。
ならばレインシェスカと伴に『狩られ役』をすれば良いのでは?と思ったのだが…
「ソード様はあのようなふざけた格好をしてはなりませんのよ?」
と御付きの美女シアンナに口煩く止められてしまったからだ。
そんな彼女も常に男性の傍から離れようとしないのは。流石、魔性の女と言う事にしておこう。
「よッと。じゃあ、次だ。こればっかりは……。魔法を全く使えねぇ俺にゃあ上手く教えられねぇンだが……」
樹の幹から素早く飛び降りてきたパッカードはポリポリと頬を掻きながら剣士ソードに目配せする。
「あぁ『魔力付与』だね。良いかなヒナ嬢。先程の『灼熱』を受けた感じを思い出して欲しいのです」
ぞわっとした。思わず、両腕で身体を覆い隠そうとする。
あの辱しめを思い出せと、彼は言っているのだ。
キッ!! とヒナは僅かに殺気を含み「断固拒否する!」と目で語る。
「いや……違う、違うのです。先程の『灼熱』から受けた熱を……。魔力の流れを思い出して欲しいのです」
?
腕を組みながら思わず頭の上にハテナを浮かべるヒナ。
「そして、その感覚を……熱を、魔力を今度は全身に纏い、徐々に掌へと集中させるのです」
「成る程。トールッち程じゃあねぇが……ああいうのを想像しろってこッたな」
「ご名答。多分ヒナ嬢にも彼の『灼熱』の固有技能は僅かに魔力として伝播していると思います。ですので、トール様程使いこなせないとは思いますが……」
「あ……アタシにもあんなのが出来るって事ですか!?」
「ま、可能性はありますわね。何せあの暑苦しい彼はかなり特殊ですから」
前にも言っていたのだが、その時はヒナもカナミも放心状態だったので、そのとんでもない事実を聞かされていなかったのだ。
昼休憩を終えた後、焔を身に纏ったトールは今暑苦しい漢ジャニアースと組んず解れつ、辺りを桃色。もとい、灼熱色に染めていた。
その異常な光景を観た彼女達ふたりは、トールは遂に異世界の住人になってしまったのだなぁと呆れ返っていたものだ。
「あそこは何か……別世界だよなァ。『狼人』の俺ッちに言えたモンじゃねぇが」
「もう、トールったら……。人間離れしてますもんねぇ。でも、そっか……あんなのをイメージすれば良いって事ですね!」
ちょっとワクワクしてきたのか鼻息を荒くして気合いを入れるヒナ。
「さぁ、やってみてください」
頷き、早速取り掛かってみる。
先ずは深く深く、何度も深呼吸をする彼女。
あの時、確かに感じた『熱さ』を思い出す。徐々に身体に熱を帯びてきた。
「熱い……熱苦しい……ってか、超熱い! 早く外に出さないと……! 全部、燃やし尽くされちゃう…ッ!」
指で掴んだ矢にその想いを託す。
放たれた刹那、矢は焔の弾丸となり標的に当たった。
刺さった箇所から炎は徐々に拡がり始める。
「はぁ……はぁ……で、出来た……? やったぁ!!」
その身に宿った熱を追い出した事による嬉しさなのか
または、弓矢に炎の魔力を付与させる事が出来たからなのか。
疲労は隠せないが、ヒナは、とにかく嬉しさを素直に吐き出し安堵した。
「……あ……? ……あッつ!!」
鹿ではなく、本体は分厚いだけで特に防水加工など施されていない革製品なので、よく燃えます。
辺りを覆っていた魔法の類いは全て解除され、燃え盛る箱の中からレインシェスカが飛び出した。
飛び火しているのでは、と何度も自分の身体中を確認している。
「あ。ごめんなさいッ!!」
ヒナは彼女に駆け寄り、同じ様に身体に飛び火していないか確認した。
何とか無事だったようで、ふたりともホッと胸を撫で下ろす。
「あ……ありがと……。とりあえず成功したみたいね。おめでとうヒナちゃん!」
「こちらこそ、ありがとうございます。レインさん。……うわッ!?」
レインシェスカはヒナを抱き締め高く抱えあげた。
これが本当の『熱い抱擁』というものかもしれない。
だが、ふたりとも忘れている。
本当に感謝せねばならないのは剣士ソードや狩人パッカード、陳びに魔術師シアンナ。
そして、熱い抱擁をした『灼熱』のジャニアースだと言う事を。
やはり……今章、ちょいと長引くかもです。
(´-ω-)人
極力、丁寧に…自分も含めて、読者にも分かりやすく
感情移入しやすく丁寧に書いていくつもりなので…
重ね重ね、御容赦くださいませ。




