いきなりボス登場。JK達、雪辱を誓う。その9。
舞台は元に戻ります(笑)
「ん~……こりゃあちょっと方向を変えないと……かもねぇ」
何度目かの訓練を終え彼女は腕を組み考え込む。
その視線の先には、約1名の女子高生が地面に突っ伏している。
他の女子高生2名は割りと元気なのだが…如何せん、その差がひどい。
端から眺める漁民や、町民が何事かと心配するのも分かる気がする。
その度に「いえ、大丈夫です」と断りを告げているのだが…決してその1名を虐げているのではない。
寧ろ、彼女の為に何かを奉してあげられないかと悩んでいるのだ。
女子高生ではあるものの、異世界大陸に召喚された剣士トールは勿論、弓術の使い手として召喚された弓道部のヒナも順調に訓練をこなし、現段階では、1段階は確実に基礎能力が向上していたのだが……
相変わらずといって進歩が見られないのが、今大地に接吻している女子高生カナミ。
精神的に凹んでいるのではない。
体力的にぶっ倒れているのだ。
ドワーフで回復魔法に特化された『神官』であり『癒し手のガガザーザ』と云われる彼の腕を以てしても、カナミの疲労回復の度合いが多いので苦労していた。
冒険者としての実力向上が目的である訓練の進行状況は芳しくないのは定かであった。
「能力の『譲渡』……いや『伝播』か『覚醒』をするべきかな?彼女の場合は」
「ん、そんな手があるのか。……って……」
まるで訓練に初めから居たように、当たり前に同席し観察していたように彼は言う。
レインシェスカは何処かで聞いたようなその声に懐かしさと鬱陶しさを感じ、ふと振り返った。
「おぉ!! ひッ…さしぶりじゃあねぇか!! ナンだよ!! 元気にしてたかよ!!」
突然、河川敷の傍らにある大木の裏から、その大木の太さにも勝るとも劣らぬ巨漢が、『意中の異性』として再認識してしまい以降、挙動不審になっていたレインシェスカの元へと、その男への懐かしさと嬉しさを理由に彼女達の元へと一瞬で馳せ参じた。
「で…………。誰だったっけか?」
一同はお笑い芸の如くずっこけかけるも、問われた彼は溜め息をつき答える。
「相変わらずだね、ジャン。剣士時代の元同僚じゃあないか。ソード=ディスクだよ? 思い出してくれたかい?」
短く清潔感のあるキチンと整えられた銀髪でそこそこの高身長。精悍かつ甘いマスク。
体躯も壮健としており、なにより。その身体に装備された甲冑や剣、マントに於いても黒色で統一されていた。
イケメン、とでも言うのだろうか。だが、全身漆黒なのが少々、痛い。
「そうそう!! ソードじゃんかよ!! ナンだよお前!! 元気そうじゃんかよ!!」
バンバン!と彼の背中を叩く『暑苦しい漢』ジャニアース。
だが、隠しきれない滲む汗が、彼が惚れた女性レインシェスカへの誤魔化しの現れでもある。
「で……何の用なの?」
あからさまに不愉快そうにソードへと伺うレインシェスカ。
「レイン。君も変わらないね。寧ろ、美しさと愛らしさが倍増したのではないだろうか……あぁ、麗しの君よ……」
彼女の手をさりげなく優しく掴み、『騎士』としての最低限の振舞いのように、その手の甲に接吻しようとする漆黒の剣士ソード。
レインシェスカは突発的にその掴まれた手を引っ込み、彼の愛の囁きを否定する。
もしかしたら彼女は件の『暑苦しい漢』を気にしているのではないだろうか?
ちなみに実は……。
影が薄いながらもこの現場にいた『狼人』パッカードはこの状況に流されつつある相棒の『灼熱のジャニアース』に「ほら! 今がチャンスじゃねぇか! イケよ!!」と声は小さいながらもせっついていた。
だが、空気の読めない漢は、そんな事は全く意に介さないのだった。
「もー……相変わらずだね、ソード。あ、ヒナちゃん達は知らないよね?」
次の訓練に心構え準備していたヒナ達ふたりは、レインシェスカというか、女性に対する彼の軟派な態度に正直引いていた。
出会った女性一人一人を掴まえては誉め倒し、愛を謳う。
あぁ、気持ち悪い。と思ったのだが……。
「彼は……ソード=ディスク。ジャンの元同僚で剣士。確か今は『黒の外套』って冒険者グループのリーダーだったかな?」
「お初にお目にかかります、麗しきお嬢様方々。御紹介に預かりましては……」
そういうと彼は極めて自然にヒナの前で跪き、彼女の手の甲にそっと接吻した。
『まんざらでもない』。
現実世界では、全くといって異性にモテた事の無いヒナは照れた表情を浮かべていた。。
何せ彼女は、イケメンの男性に好意を寄せられる事など経験した事がないのだから。
まるで現代劇のロミオとジュリエットを頭に浮かべ、頬を紅く照らしたヒナだったが、何やら怪しい雰囲気が漂っていたのを感じたのか
トールがすかさずヒナの手から彼の唇を引き剥がすようにずいっと間に入る。
「アタシは『トール』。侍だ」
言い切ったトール。
最早、誤魔化しはできないであろう。
色恋沙汰など侍には必要ないのだ! と謂わんや。
それ以前に、ヒナを……。
同性であり幼馴染みではあるのだが、唯一人の愛する女性に異性を近づける事を否定するように。
悲しいことだが、カナミはどうでも良いらしい、トールにとっては。
「おぉ。これは失礼いたした。トール様。私、剣士『ソード』を以降、お見知り置きを……」
そう言うと彼は、トールに対しても跪き、彼女の手をさりげなく掴み接吻する。
『まんざらでもない』
ヒナと同じくトールも今まで異性に好意を抱かれた事がない。
いや、本人が気付いていないだけなのだが。
こうまでして……というか。ごく自然に愛を以て接してくる異性に免疫がないのだ。
ちなみに、そんな茶番を余所にドワーフの回復魔法により意識を取り戻したカナミは……
「ん~……なに? なんなの? ふたりとも……モテモテ~??」
何せカナミは現実世界では『ネット同好会』の部員である。
『女子高生がふたりにイケメン』という状況は正に『誰得!?』かと萌えている。
下手をしたら。現実世界に戻ったら、同人雑誌に投稿するのではないだろうか。
「おぉ、これは失礼いたした。私は……」
三人目に取り掛かろうとした所で漸く気付いたのかレインシェスカがそれを止める。
「いい加減にしなさい! まったく……。で、何なのよ。その『譲渡』とか『伝播』? 『覚醒』とかって…」
「あら、そんな事もお分かりできせんの?」
突然美女が現れ、その妖艶を振り撒く。
周囲には華やかに薔薇が咲き乱れていた。
背中を丸出しにした漆黒のドレスを纏った彼女は、ソードの逞しい腕を組み、たわわに実った膨らみを押し付ける。
「ちょ……ま、良いか。彼女はシアンナ。高位の魔術師さ」
「どこぞの『偉大なる魔術師』とまではいきませんが……。お見知り置きを」
愛想よくニコリと浮かべた笑みだが、何故か身震いしてしまう。
まるで心の奥底を見透かされたような……。
ヒナ達3人はあの『悪魔』と出会った時を思い出してしまう。
「ええと……『譲渡』というのは文字どおり。僕達の固有技能を受け渡す事さ。で、『伝播』というのは……」
ソードとシアンナは親切丁寧に、子供でも理解出来るようにと説明をし始めた。
台詞の冒頭にもあったように……。
『譲渡』とは、剣士や魔術師などが実力を身に付けた上で、更に上級の位に成った時に、稀に授かる『固有技能』を適正のある他人に全て受け渡す事をいう。
ただし、生まれながらにして固有技能を持つ者も居るらしい。
ジャニアースなどが良い例である。
彼は生まれつき『灼熱』の固有技能を持っていたのだ。
次に『伝播』とは……
固有技能の魔力や波動を媒体の中に流し通すことにより、その媒体を徐々に…直接的に、自分の血筋と等しくする事をいう。
これに於いては、特に適正は関係ないのだが、かなりの時間と体力を必要とする。
最後に『覚醒』。
これは本人が自覚していない固有技能を覚醒させる事をいう。
この異世界に於いて、殆どの住人は大概何かしらの固有技能を持っているのだが
それに気付いていない者も数多く存在している。
ただし、それを使いたい者が必ずしも居る訳ではない。
何せ……多少強引で尚且つ危険が伴う方法で促し、覚醒させるのだから。
以上、私からの解説でした(誰だ)
「まぁ……ざっとこんな感じかな? で、どうだい。試してみるかい?」
戸惑うヒナ達。だが、彼は……じゃない、彼女は違った。
「是非、お願いしたい。どうすれば良い」
先陣をきって出たのはトールであった。
漲る闘志を瞳に宿し、何処からでも掛かってこい!と謂わんばかりに両手を広げる。
教えてもらう立場である筈なのに、その態度には欠片も見られない。
「先ずは……適正を見ようか……ジャン。お願いするよ」
「おう!! 出番だな、任せろいッ!!」
何故か服を脱ぎ上半身裸になった巨漢が。
その場でまるで天を抱くかのように両手を拡げた。
「さあ!! 俺の胸に飛び込んでこいッ!!!!」
一部の女性陣は引いている。
が、彼女トールは迷わず彼の大きな胸へ飛び込んでいった。
漢は自分の愛し子のように優しく彼女を抱き締め囁きを耳に淹れる。
「離すンじゃあねえぞ?」
抱き締められているのに、何を言ってるのやら。
と、次の瞬間……ふたりは焔に包まれた。
本当はもっと長かったのですが、2本に分けました。次回……ちょいエロくなりますw
明日か明後日に更新予定です。




