いきなりボス登場。JK達、雪辱を誓う。その7。
おぅ、しっと………予定が一日ズレてたわ………
なので、もう1本アゲときま~すヽ(;▽;)ノ
あれだけ激しかった豪雨も完全に止み、蒼空は一際明るく大地を照らす。
大河では漁も再開されそれぞれの船では賑わいをみせている。
街の通りでも露店などが再開され、他の街からきた旅人や商人達などで賑わい活気を取り戻していた。
傍らの大河から名を頂いた『ライカル』の街は、自然と伴に向き合い繁栄してゆく立派な街なのだ。
「よし! じゃあ、もう3周!!」
パン! と叩かれた手の音は走り込みの合図だ。
蒼空高く、季節を告げる野鳥の鳴き声が響き渡る。
心地好い風に棚引く草原と、新たな芽吹きを祝う花弁に誘われる美しき蝶々達が踊りを魅せつける。
その華麗なダンスに心を奪われた者達は、ダンスホールで罠を張り彼女達を待ち構えていた。
蟷螂や蜘蛛達といった肉食昆虫が手招きしている。
水辺では、小魚が群れをなし、所々で跳ね回っている。
肉食系の男子か、或いは女子にでも追われているのかもしれない。
だが、その肉食系男子や女子はあくまでも『魚類』であり、漁師という商業を営む『人類』という最強種によって狩られているのは致し方無い事だ。
そんな河川敷の傍らで女子達が走っている。
現代で云う所の『青春スポ根ドラマ』のように、女子高生達がキラキラと汗を流していた。
残念ながらリズムをとるホイッスルは無いが、生徒に付き添いながら時折顧問の先生は檄を飛ばす。
いや、その先生は数名の生徒を軽く追い越す余力は残してはいたのだが。
既に数周の往復を繰り返していた彼女達の様子を見て、熱血コーチは立ち止まり、約1名の生徒に喝を入れる。
「はい! 一旦休憩しま~す! ……ほら、もうちょっとだよ! カナミちゃん、頑張って!」
「は…………はひ…………」
ぜぇぜぇ、と、息も絶え絶えにカナミはガクガク震える脚を引っ張る。
彼女は何せ…現代世界では、運動とは程遠い存在の帰宅部兼、パソコン同好会に所属しているのである。
辛うじて、普段の移動の際は自転車を乗り回しているカナミ。
サイクリングが好きだからとか、風を感じたいだとか、そんな健康的な理由ではない。
所詮、買い物ついで遊びついでにしか過ぎない。
なので……。
自ら進んで、早朝や深夜に自主的にランニングをしているほど活発なヒナや、剣道場である実家で精神と肉体を鍛え、尚且つ、高校の剣道部でも優秀な成績を誇るトールになんて、まるで、敵う筈が無いのは明白だったのだ。
「ほら! もうちょっとだよ! カナミ、頑張れ!!」
ヒナとトールは既に、顧問の『熱血先生・レインシェスカ!』の元へと辿り着いていた。
トールなどは既に次の授業に向けて屈伸などのストレッチを入念にしている。
皆の元に漸く合流できたカナミは即座に地面に倒れ、起伏の少ない胸を激しく上下させた。
そう、ヒナ達は晴天に恵まれた今日この日を以て、遂に
冒険者グループ『紅の蜃気楼』による訓練をやっと開始する事が出来たのだ。
訓練を開始する前に、皆で話し合った結果。
先ずは、最低でもヒナ達がレインシェスカの基礎体力と等しくなるようにする事。
冒険者グループ『紅の蜃気楼』の中でも最も身体能力が低いのは彼女なのである。
狩人のパッカードでさえ、彼女の攻撃に、その行動に余裕で対処出来るらしい。
まぁ……一発喰らっておけばその後の話が順調に進むであろう『突っ込み』だけは、敢えて耐え忍んでいるのだが。
なので、以前。散々たる如く辛酸を舐めさせられた事のあるヒナ達は体力向上に努めていたのである。
「いやぁ、それにしても……。トールくんは流石だね~。もう、アタシを超えてるんじゃない?」
「いえ。まだまだ全然です。これぐらいでは……相手にすらならない」
何故か『くん』付けされている女子、トール。
それに対して本人も、他の2人も違和感を覚えないのが不思議だ。
しかし、そんな彼女は苦笑いで言葉を返す。
かつての光景を思いだし、その悔しさは、彼女の握り拳が皆に語り伝えていた。
触る事すら出来なかった。一瞬で意識を奪われた。弄ばれていたに違いない。
下手をすれば誰かが命を失っていた。
自分はあまりにも無力なのだと、トールはその瞳を大地へ落とす。
しかし、次に顔をあげた瞬間には、その瞳には炎が宿るのだった。
恐怖を捨てろ! 前を見ろ!
進め! 決して立ち止まるな! 退けば老いるぞ! 臆せば死ぬぞ!
どこかで聞いた事のある、そんな台詞を思い出す。
やってやれない事なんてない。
そこに壁があるのであらば、突き抜けていけば良い。
彼女は昔から…物事を打倒する気質に、体質に、『不屈の闘志』に恵まれ過ぎていたのだ。
実際今までに、ヒナとカナミの前では落ち込んだ姿を見せたことはなかったのだが……流石に今回はかなり堪えたようだ。
昨日の降り頻る豪雨の中、自主トレに励む事で自分自身に気合いを入れ直していたのは無駄ではなかったのだ。
「あぁ、あの時の悪魔かぁ……。でも、アレは『魔王の系譜』なんて呼ばれてるトンでもないヤツだからねぇ。格が違いすぎるよ…」
「アレを相手に生き残っていた事自体が、寧ろ幸いであろうのう」
倒れているカナミに『疲労回復』の魔法を行使しているドワーフのガガザーザが言う。
彼は幅広い回復系統の魔法の全てを極めて高い威力で使いこなすのだ。
身体の隅々に拡がる爽快感と満たされていく瑞々しさ。
あまりの気持ちよさに、このまま眠ってしまおうかとしたカナミ。
「コラッ。こんなトコで寝ちゃダメよ」
ヒナがカナミを優しく叩き起こす。
地面に倒れ込んだせいで汚れた服を手で軽く払ってあげている。
「あのぅ……そもそも。その『魔王の系譜』? って何なんですか~?」
よろめきつつも立ち上がったカナミは問う。
「それは、ね……まぁ。簡単に言えば『魔王の息子』? かな?」
「レインよ。そりゃあ簡単に言い過ぎじゃわい。そうさな……『魔王を継ぐ者』のウチの1人……といったところかの?」
あまり変わらない気がする。
ヒナ達の頭の上にはクエスチョンマークが並んでいる。
「要は……。あんなのがまだ他にもいるッて事だァな」
どことなくチャラい雰囲気を醸し出した『人狼』が、何か用事を済ませたようで彼等の元へと馳せ参じた。
「ほれ、トールッちの得物が仕上がってたぜッと」
そう言うと彼はその手に持っていた長剣を手放し彼女に渡す。
すかさず飛び跳ね、宙で鮮やかにそれを掴んだトールが喜びを綻ばす。
「ありがとうございます。パッカードさん」
「ンにゃ。良いって良いって……ッてかさ、その『さん』付け止めてくんない? 『パッカー』で頼むわ~」
何かの病気か、はたまたノミか。
彼はボリボリと身体をかきむしる。
「で……。その『魔王の系譜』ッてヤツは一体どれぐらい居るんですか?」
「ん~ッと確かギルドで今判明してンのは……。『暴虐』『残虐』『無道』だったか? まだ他にもいるッてぇ話だが」
それを聞いて、ヒナ達は正直にゾッとした。
まだあんな化け物……。『悪魔』が何人も居るというのだ。
「あンとき居たのは『暴虐』って呼ばれてる悪魔だな。でも、アイツはまだマシな方なんだぜ?」
「そうじゃな。アレは特殊な武闘派じゃからのう。むやみ矢鱈には殺したりはせぬ。どちらかと言えば出会したくないのは『残虐』かの?」
「アタシ達でも『残虐』相手だとギリギリだったもんねぇ。あの時はヤバかったよね~……」
どうやら彼等『紅の蜃気楼』は何人かの『魔王の系譜』と交戦した事があるらしい。
ともすれば納得がいく。
確か仲間から『グランヴィア様』と呼ばれていたあの悪魔『暴虐』を返り討ち寸前まで追い込んでいた事を。
「ま、ナンにせよ。ヤツラと出会したら何にも考えずにひたすら逃げる事をオススメするけど、な?」
「……そうもいかないんですよね~……」
それが自分達の強運なのか不運なのか。
ヒナ達は多分これからも『真竜の涙』を巡って『魔王の系譜』と交戦するであろうを自覚している。
「いや、でもな? 嬢ちゃん達は多分『真竜の涙』の依頼に特化した能力を持ってンじゃねぇか? じゃ、なきゃあ……。あのバレンシアがわざわざ別世界からコッチに喚んだりしねぇよ」
一応、ヒナ達は自分達が異世界に召喚された事を彼等に伝えているのだ。
真に協力してもらうには、信用してもらうには。
先ず自分達の全てを知って貰わなければと、そうヒナはふたりに提言していたのだ。
「で…………。あの『暑苦しい漢』は一体あそこで何をやっておるのじゃ?」
ドワーフのガガザーザはチラリと河川敷の端にある大木を見やる。
大木に負けず劣らずのその巨体は『頭隠して尻隠さず』などではなく。
ほぼ、全貌を晒け出しているのだが、自分は気付かれていないと思っているらしい。
「たははは……まぁ、アレは……。気にしないでやってくれや……」
ポリポリと頭を掻きながらパッカードは、昨日の『惚れた晴れた事件』を思い出しながら苦笑いを浮かべるのであった。
次の投稿は………多分、来週頭辺りになるかと。
では………これにて、ドロンッ




