いきなりボス登場。JK達、雪辱を誓う。その6。
|д゜)チラッ……明日からちょいと宿泊を兼ねてのお盆参りでアップする暇がないので、一本投下しておきます……m(_ _)m
ごうごうと、激しく降り頻る雨が、窓の外を覗かせる。
防風林としての樹木が嬉々としてその役目を果たしていた。
大河の河辺や岸辺では、漁に出せそうになく出番のなくなった船が並び強風に煽られている。
「あちゃ~……。こりゃあ、当分やみそうもないね~……」
窓の外を見ていた彼女は独り言のように呟く。
それはその部屋に一緒に居た、未成年の女子達に投げ掛けていたようだ。
レインシェスカはもう昼前だというのに
まだ寝間着のままで、ヒナ達3人が宿泊する部屋に居た。
芳ばしい湯気が立ち上がり柑橘系の薫る飲み物を手に、窓の外の塩梅をみる。
「折角、ヒナちゃん達が息巻いてくれたのに……。この空模様だと数日はムリっぽいなぁ」
カップに注がれたそれを吐息で少し冷まし、彼女は軽く口に含む。
そうなのだ。
先日、晴天の河川敷で集ったヒナ達3人と冒険者グループ『紅の蜃気楼』。
リーダー『ジャニアース=シャイニング』の鶴の一声により厳しい修行が始まるのだと覚悟していたのだが……。
そんな初日は、ヒナによる、だらしない大人達への説教により丸1日を費やしてしまっていたのだった。
しかし予期せずして、深夜遅くから降りだした雨が今朝がたに強まってきた為に、当日の外での訓練は中止せざるを得なかったのだ。
読み書き程度の授業なら出来るのでは?とヒナ達から提案されたが、それは却下された。
冒険者グループ『紅の蜃気楼』のメンバーは『身体で覚える(叩き込む)』いわゆる、感覚派揃いである。
と、いうか、室内での講習など教える立場の自分達が寝入ってしまう。
今、唯一、カナミを相手に付きっきりで講習を行っているドワーフのガガザーザ。
彼だけはそういった意味で有能な講師であろう。
部屋にある2つの机のうちのひとつを占拠し、ふたりは向かい合っている。
講師である彼は、細かい装飾が施された分厚い本を片手に、解らない所があるようであれば何度も何度も、親切丁寧に教えている。
対するカナミもいちいち頷いては、一冊に纏められた紙束に筆を走らせていた。
「んむ……そろそろ、腹がへってきたの。一旦、休憩じゃな」
ぱたんと分厚い本を閉じ、勉強に集中してノートに書き込むカナミの肩に手をかける。
「何もかも、いっぺんにつぎ込む事はない。急いてはことを仕損じる、じゃぞ」
言うことが古臭く聞こえてしまうのは人生の大先輩だからだろうか。
最初はヒナも一緒に授業を受けていたのだが、途中で居眠りをし始めたので「アタシがやっておくから良いよ」とカナミから追い出されてしまったのは悔しくもある。
そんな彼らを遠目にしながら、レインシェスカは突然、ヒナに感謝を表す。
「……。昨日はありがとうね。ちょっとスッキリしたよ」
「いやぁ。アタシもやり過ぎちゃって……ごめんなさい……」
部屋にあるもうひとつの机では、昨日の『皆が、しでかした件』について、お互い様だと言うようにふたりは苦笑いを交わす。
ふぅ、と、彼女はため息を浅くつき、机の上で両腕を組み、可愛らしく顎を乗せた。
「ヒナちゃんのお陰でなんかスッキリしたよ。あいつら、いっつもあんな調子でさ……。いや、アタシがあいつらの…みんなのせいにしてたのかなって……」
哀しげな表情と吹っ切れた笑みを同時に浮かべる彼女はそっと瞳を落とす。
昨日の、ヒナによる説教の最中に『レインシェスカの生い立ち』を初めて聞いた面々は心底彼女を心配していた。
特に説教が終わった後のパッカードはかなり凹んでいた。
彼は特にレインシェスカをおちょくる事が多く、その殆どが彼女の図体によるものだったから。
「……レインさん……。我慢なんてしなくて良いんですよ……」
何故か自然と手を出してしまっていた。
ヒナは彼女の頭をそっと撫でる。
「そうじゃぞ、レイン。わしらに遠慮する必要など無い。言いたい事があったら我慢などするでないぞ?」
ドワーフの彼もまた、彼女の頭を優しく撫でる。涙が頬を伝う。
それは『仲間なんだから』と、彼女の心を解していた証しなのか。
「……うん。ありがと……」
雰囲気が伝染したのか、その光景を眺めていたカナミもホロリと涙を流していた。
ちなみに、この部屋に今、トールの姿は見えない。
伝う涙を拭い、何かを吹っ切った様子のレインシェスカは席を立ち、ふと窓の外を観て呟く。
「あの子は凄いねぇ。アタシにも分けて欲しいモンだよ……」
激しく雨が、暴風が殴り付ける中、一心不乱に剣を奮うトールが居た。
その身体からはもうもうと湯気が立ち上がり、風邪を引く気配など全く寄せ付けない。
「でも、ちゃんと食べるモンは食べないとね!」
レインシェスカは気晴らしとばかりに、彼女を呼びに部屋をあとにしたのだった。
………………
一方、同じ宿屋の別の一室では。
普段は悲しみの表情など一切表した事の無い、暴虐且つ豪快な漢が
窓も締め切り、戸板も閉め、一切灯りを灯さずに。
暗く閉ざされた部屋の片隅でしくしくと涙で床を濡らしていた。
「……俺ァ……。なんて馬鹿な真似をしちまッたンだよ……」
暑苦しい事この上ない漢。『灼熱』の代名詞。
冒険者グループ『紅の蜃気楼』代表『ジャニアース=シャイニング』その人である。
路傍の小石の如く、小さく纏まっている彼は暗闇の一点を見つめ続け、泣き声を僅かに震わせた。
その都度、宿屋が揺れる程に、豪雨は更に喧しくなる。
彼が赤子の癇の虫のように涙を流す毎に、その豪雨は激しさを増す。
まるで、天に愛された御子のように。
と、そこへ空気の読めない男、いや。
唯一の親友ともいえるチャラい風貌の中年男性が、パッカードが親友の了承を得ずに扉を開け、彼の前に座り込む。
「なぁ、ジャン。お前さんが凹んでッとよぉ……何時まで経っても、空が晴れねえンだわ……」
パッカードは、両膝を抱え縮こまる彼の両手を無理矢理剥がし、半ば強引に、度数のキツい蒸留酒で満ちたカップを持たせる。
そして、極度の寒さに震えるような冷たくなった彼の両手を、まるで、卵を暖める親鳥のように彼はその手を優しく添えた。
「……お前さんが気にするこたぁ無ぇンだ。大体、何となくは気付いてたけど……。お前、レインに惚れてンだろ?」
虚ろな表情で彼に視線を交わしていたつもりだったのだが、その頬を真っ赤に染めた。
『真友』には、嘘・誤魔化しは一切通用しないのだ。
一際むさぐるしく、恋愛ごとなど皆無に思える暑苦しい漢。
ジャニアースはレインシェスカに初めて出会った頃から、首ったけだったのだ。
自分より図体がデカイとかは、彼にとって些細な問題では無かった。
初めて彼女に出会った時、彼は脳天から足の爪先まで痺れるような稲妻が走った。
これが世間でいう『蒼天の霹靂』というヤツなのか!!
『もう俺にはこの人しかいない』と本能が彼に告げていたのだ。
だが、彼は哀しき定めに囚われていた。
女性を。異性を。愛し、愛される事が出来ないのだ。
『家族愛』は分かっているつもりだ。
何せ中年男性に成った未だに、自分を産んでくれた母親を
厳しく育て上げてくれた父親を愛しているぐらいなのだから。
「なぁ、パッカー……俺ァ駄目なヤツだ。いや、ダメダメだァ……今ンなって心底そう感じたよ……」
への字口で、うじうじと、床に『のの字』を書いているジャニアース。
そんな彼を見て、噴き出す者は多々いるであろう。だが、パッカードは違った。
「馬ッ鹿野郎!!」
突然、暑苦しい漢は入れ替わる。
パッカードは彼を優しく……力一杯殴り付けた。
手にした酒をぶちまけ、床に突っ伏した彼は一体何が起こったのかとキョトンとした。
漢はそんな彼の胸ぐらを掴み真剣な表情で顔を近づける。
「良いか?お前は…ジャニアース=シャイニングだ!!」
そんなことは分かっている。
「俺達『紅の蜃気楼』のリーダーで……世界でいッちばん暑苦しいヤツだ!!」
自覚していないが、みんながそう言っているのは否めない。
「そんなお前が……いつまでもウジウジしてンじゃあねぇ!!」
額と額がぶつかり合う。
「当たって砕けろ!! いや、絶対にモノにしろ!! お前に出来ない事なんて無い!!」
暗闇に閉ざされた密室で、熱さだけが倍増してゆく。
根拠の無い自信がふたりの中で膨れ上がってゆく。
「良い……のか? こんな俺が……あの子を好きになっちまっても……」
「良いも悪いもへったくれもあるか!! お前はお前だ!! いつも通りに……豪快に行けッ!!」
その一瞬、豪雨はピタリと止んだ。
雲の隙間から光が射していく。
男のその瞳に、魂に、今再び炎が宿る。
『漢』が甦るのだ!
言葉なんて要らない。暑い……いや、熱い漢達は
どちらからかともなく、お互いを抱き締めあっていた。
「俺ァ……やるよ、パッカー! ンにゃ、ヤッてやんよォォォッ!!!!」
言葉の響きはいやらしいが、その心意気や良し。
漢は立ち上がり握り拳を天空…部屋の天井へと豪快に振り上げる。
天井に穴が開いた。
雨が止み、青空が顔を出した。
意中の人、レインシェスカが顔を見せた。
「うるさいッ!!」
また、雨が降りだしたのは致し方無いと思う。
そんな不器用な漢達を遠目に見て「青春しとるのう」と頷き、妻帯者のドワーフは呟くのであった。
ちょいと…ダラダラしていますが、今章はキャラ紹介に重点を置いています。
重々、ご容赦を頂きたく……(;><)




