いきなりボス登場。JK達、雪辱を誓う。その4。
ちょいと投下しま~す。
「ははぁ……。そういう事か、成る程ね……」
一際大きな椅子に座り、今までの経緯をヒナから詳しく伺うレインシェスカ。
その顎に添えられた指を数度叩きながら。
「そっかぁ。ヒナちゃん達、苦労してきたんだねぇ」
ヒナ達は、これまで出逢ってきた者達に積極的に介入した事はない。
どちらかというと、極力、異世界の住人に関わらないように接してきた。
要は……『竜の涙』もとい、【真竜の涙】なる宝玉を、集めれば良いだけの話。
あの魔術師に従い、こなせれば、それだけで良いのだから。
だが、今は違う。自分達の力不足を痛感した。
確かに、幾度か危機は乗り越えてきた。
それが慢心に繋がっていったのだろう。
多分、カナミもトールも同じく悔しい思いをしている。
今、現実世界に帰ってしまえばラクになる……ワケがない。
「お願いがあります」
ヒナは真っ直ぐにレインシェスカの目を見た。
ベッドに横たわるカナミも同じく彼女の方に視線を向ける。
「アタシ達を……鍛えてください」
「……やっぱり、そうきたか~……」
過去の経験からなのか、何となく予想はついていた。
レインシェスカにだって挫折した事は何度もある。
その度に激しい修行や、人生の先輩に教えを乞うたものだ。
「いや、その気持ちは分かるんだけどねぇ……その、さ……」
柄にもなくモジモジしている巨漢の乙女。
と、そこへ突然。激しい足音が豪快に笑う。
思わずその衝撃で一瞬心臓が止まりかけた3人の女性陣。
カップに入ったスープを盛大に溢してしまった。
「良いじゃんかよ!! 俺ッちが全員纏めて弟子にしてやらァな!!」
蹴りでドアを破壊しつつ、暑苦しい漢が参上した。
後で宿の主人からこっぴどく叱られるだろう。
「ジャン。アンタね。毎回毎回……いーかげんにしろッ!!」
3メートル近い彼女はゆっくりと椅子から立ち上がり、振り向き様に、彼の顔面に拳を乗せた。
宿の主人から叱られる前に、彼女がキレた。
それでもびくともしないのは凄いとは思う。
どうやら、昔から彼は扉ひとつまともに開けられないらしい。
その度にレインシェスカは彼に激しく突っ込み、宿の主人に謝罪していた。
だが、今回は違っていた。そう信じたい。
何せ、彼の両手は埋っていたのだ。
『お姫様だっこ』というのだろうか。
所々、土埃に塗れている傷だらけの女性、トールがそこにいた。
「おっと、勘違いすンじゃねぇぞ? 相手してくれッてんで少しだけ胸ぇ貸してやッたンさ」
意識の失っている彼女を空いているベッドに優しく乗せてあげる所は意外かもしれない。
しかし、躊躇なく服を脱がそうとしたので、またもやレインシェスカからの鉄拳制裁を喰らう。
「いや~、何度も何度も立ち上がりやがッてよ。中々にアツい奴じゃあねェか!!」
……そろそろ、変形するのではないだろうか。
彼はその頭を擦りながら、どっしりと床に胡座をかき
懐から酒瓶を取り出し、それを一気に飲み干す。
「あのね~……この娘達はバレンシアのお気に入りなんだよ?」
「ンな事ァどーでも良い。大体あのババァ……人任せにも程があるッてンだ!」
『ババァではない』と窓の外から爆撃されるかもしれない恐怖に彼女達は一瞬怯えた。
用心を以て、窓をそっと閉めてみる。
「こないだ、ジャンが言ってたじゃねぇか。寧ろ、恩を売れるンじゃね?ってさ」
「そうじゃな……。あの悪どい魔術師に貸しを作れるのは中々に嬉しいモンじゃわい」
何処から話を聞いていたのだろうか、更に男2人が部屋に乱入してきた。
赤く長い後ろ髪を括る、ポニーテールをした『人狼』の種族。
破壊された扉の傍に片寄り
片手の親指でコインを器用に弾き飛ばしている。
もうひとりは。
もっさりとした髭を蓄えた、小柄だが逞しい体つきの岩の妖怪…もとい、大地の妖精、いわゆる『ドワーフ』である。
彼は酒樽を脇に抱え込み、部屋の家主に何の断りもなく酒盛りをしようとしていた。
だが、皆それが当たり前のように次々とカップに酒を注いでいく。
「おぅ、嬢ちゃん。呑みな呑みなァ!」
まだ未成年の女子高生に酒を勧める立派な中年男性のジャニアース。
彼女達は勿論、丁寧にお断りさせて頂いた。
「というか……。弟子入りさせて頂けるのでしょうか……?」
いきなり始まった真っ昼間の宴会に戸惑うのは仕方がない。
しかも、まだ、何も話は進展していないのに。
「ジャンが決めたら……もう。止まんないわよ?」
この場に彼が現れた時から、彼女は既に腹を括るしかなかった。
『一度走り出したらもう止まらない』
それがジャニアース=シャイニングという漢の生きざまなのを知っていたからだ。
「だな。まぁ……バレンシアの所には俺から伝えておくわ」
並々と注いだ酒をグイッと流し込み、干し肉をかじる獣人。
「パッカー。いつも面倒かけてすまんの。さて……そろそろ。あの娘さんを治してやらんと、の」
ドワーフの男は酒を片手にトールに近づく。
……口に含んで吐きつけるんじゃあないだろうな……
焦って止めようとしたヒナだったが、どうやらその心配はなかったようだ。
「ガガッちの回復魔法は絶品よォ! どんな傷でも直ぐに治ッちまわァ!」
ガガッち、と呼ばれたドワーフの片手から発現した淡い光がトールに注ぎ込まれる。
その光を受け入れた途端、彼女の身体の傷が一瞬で消え失せた。
「そちらのお嬢ちゃんは……あぁ。精神にダメージを喰ろうとるみたいだのぅ。どれどれ……」
やはり酒を片手にするドワーフが今度はカナミへと近づく。
先ほどのヒナではないが…彼女も同じ事を考えたらしい。
サッと布団を被ろうとしたのだが、まだ十分に思うように身体を動かせない。
酒を呑みながらドワーフは空いた片手をカナミの額に当てる。
思わず体を固めて瞳を閉じる。
だが、ぽわぽわと、体の芯から暖かくなっていくのを感じた。
「うむ。これでよし。後はゆっくり寝ることじゃな」
ぽんぽんと、まるで子供をあやすようにカナミの頭を撫でる。
亡くなってしまったお爺ちゃんを思い出したカナミは再びゆっくりと眠りに落ちる……筈だった。
宴会は、まだ始まったばかりなのである。
次は来週予定です。ストックは在るのですが…もうちょい貯めます…
追記、一部名前を編集しました。




