いきなりボス登場。JK達、雪辱を誓う。その3。
それは、ヒナが悪魔・グランヴィアに『竜の涙』を渡した直後の事だった。
「む。『霧』の魔法か」
陽も高く、小鳥の鳴き声が四季を語る駄々っ広い草原。
その周囲を霧が覆い始め、陽の光をも遮る。
じっとりと肌に絡み付くだろう湿気は、意外にも不快感を抱かない。
「いや、これは……更に上級の『濃霧』より上位魔法……『蜃気楼』の様です」
ダークエルフのバルテズール、その両手から周囲の魔力を感知しているようだ。
僅かに発光している両手の輝きは暗く、闇を表する。
と、突然に灼熱は声を盛大にする。
「どおりゃあああああッ!!!!」
霧の中から、大地総てを蒸発させるが如く襲い掛かる業火。
宇宙の真理を一切無視したプロミネンスが宣うかのように、それは爆燃した。
「はッはーッ!! コレを避けッかよ!! 流石は『魔王の系譜』だぁなァ!!」
激しく燃え盛る太陽のような超癖ッ毛の赤髪。
蒸せ返る程のごりッごりの筋肉を見せびらかす巨漢が叫ぶ。
初見で圧倒される鬱陶しいまでの桁苦しい熱さ。
……要するに……『暑苦しい漢』。
その豪腕に携わるは、その漢の何倍も質量のある様な、戦斧と槍が合わさった武器『ポールウェポン』。
何の魔力を付与されている武器なのかは判らないが、触れた大気がチリチリと焦げ爆ぜる。
その豪快な得物は大地を蒸発させる程の炎熱を帯びていた。
「ふむ。貴様が誰かは知らぬが……よかろう。来る者拒まず。俺を愉しませてみろ」
常人なら、いや。異世界大陸ファンタジスタに巣食う魔物でも瞬時に反応できない。
そんな、意表を突いた強襲に関わらず、彼の爆撃を見切った悪魔・グランヴィアは片手で招く。
どうやら、先程のヒナ達では満足出来なかったのは明らかだ。
「ちぃッとばかし違うぜェ? 俺ッち、独りで相手出来るわきゃあ無ぇだろうがよォ」
徐々に、『蜃気楼』の魔法がその効果を発揮してゆく。
灼熱の太陽を体現したかのような漢が何十体にも増殖し悪魔を取り囲んでゆく。
暑苦しさの倍率が更にドン!である。
かと思えば……。
元来、駄々っ広い草原であった舞台は、多種族が平和に穏やかに暮らす、遠く離れた街の商店街。
激しい水流によって流れてくる生き物や巨木など、その悉くを呑み込み喰らう荘厳なる滝。
事の発端は些細な理由なのだが、血で血を洗う戦争に明け暮れる夥しい軍勢。
有りとあらゆる混沌たる風景や様々な人生を『蜃気楼』の魔法は見せ付けた。
「ぬぅ。これは……少々、厄介ですぞ」
「うわ……ちょっと『精神汚染』の効果も混じってる? 頭がクラクラしてきたよ……」
悪魔・デルメトが呟きを漏らすのも致し方無い。
それは本来の『蜃気楼』の魔法を改良したモノであった。
そもそも『蜃気楼』の魔法は遥か遠くに有る現象を近場に映し出す。
云わば『遠見の水晶球』という魔法道具や『遠視』の魔法に近い。
だが、今、効果を表している魔法の効果・影響は大幅にそれとは違っていた。
術者の体験イメージを組み込ませる、という複雑な術式の『蜃気楼』。
幾ら魔術に精通したダークエルフとはいえ、それを看破する事は不可能に近い。
何せ『その者(術者)を理解する』事が出来ねばならないのだから。
既にバルテズールは『魔法解除』の術式で挑んでいたのだが、それが通じないのが、その証明だった。
「グランヴィア様、ここは退れた方が良いか、と……」
「させねェよ?」
にやりと不敵に笑う漢。
『蜃気楼』によって数十体に増殖した彼は一斉に襲い掛かる。
「全て。叩き潰せば良いだけだ」
悪魔・グランヴィアの呟きは、それを体現せしめた。
四方八方から襲い掛かる焔に、時には拳で、時には蹴りで、時には体当りで、周囲の対象と見なした、その総てを叩き潰していったのだ。
「どわッ! ……ッち。流石にバケモンだァな……」
手痛い反撃を喰らった漢は、軽く悪態を突く。
だが、それでもその漢の身体には目立つ程の傷はなく、みなぎる闘志は更に燃え盛る。
「俺ァ、『紅の蜃気楼』ッてぇ冒険者達のリーダー。ジャニアース=シャイニングってンだ。よぉく覚えときな……」
冥土の土産とばかりに、わざわざの自己紹介。
対する総てを灰塵にする前触れか、または、己が倒されてしまう前置きか。
漢が、すぅぅぅと深く息を吐くと、徐々に辺りに熱が帯びる。
継いで、吐き出した息を、熱量を、がっつりと吸い込む。
「とっておきのぉぉぉ…………超! 必殺技だァァァッ!!」
漢は燃える。文字通りに。
その手に持つ武器のみならず、身体そのものが燃え上がる。
ただでさえ『暑苦しい』のが『熱苦しく』なった。
と同時に、周囲の『蜃気楼』の魔法の効果が彼に吸収されていく。
「く……ッ……。これは……ッ!?」
先程から、『魔法解除』の術式を続けていたバルテズールに苦悶の表情が浮かぶ。
目前で燃え上がる漢は、その魔力すら糧として喰らい、自らの燃料としていたのだ。
「もっとだ…………もっともっともっとぉぉぉ………ありッたけ! 寄越しやがれェェェッ!!!!」
奥義『魔力喰らい』。
漢は周囲の魔力を喰らう事で、自身の『灼熱』という固有スキルを倍増させるのだ。
「うぅ……何コレ……ボクの魔力まで勝手に捕られてく……」
「むぅ。俺の闘気でさえも奪うとは……」
どうやら彼等、悪魔の根源の魔力でさえも喰らっているようだ。
というか、そもそも彼等『悪魔』は魔力の塊のような存在なので、特に効果覿面だった。
「かッはァァァ……………ぼちぼち、イクぜェ……………?」
粗方喰らい尽くしたそれは最早『人間』として形容されていなかった。
焔の巨人。大精霊イフリートよりも遥かに熱苦しく雄々しい。
『太陽の化身』が具現化し、その得物をゆっくりと振り回した。
……………………
環境破壊は漢のロマンだと誰かが言っていた。
……………………
そこには……。
かつての爽やかな風を棚引かせる大草原は既に無く
何処までも拡がる地獄の焦土と化していたのだ。
「……ッち。逃げられちまッたかァ……」
元の『暑苦しい漢』に戻ったジャニアースが1人呟く。
「……ジャン……アンタねぇ……毎度毎度やり過ぎだってぇのよ!」
ガッゴン! と、と鈍い音がする程の突っ込みを喰らう。
ジャニアース=シャイニング。
略して『ジャン』と呼ばれた『元・太陽の化身』は彼女に激しい突っ込みを喰らった。
「全くじゃあ……。おぬし……『結界』を維持する方の身にもなれい!」
「ま、俺ァ……魔法なんて使わねぇから良いけどよ。……流石にコレは無ぇんじゃあねぇの?」
多分にも、会話に加わった3人の彼等は漢と同じパーティーの面子であろう。
その脇には、何の茶番劇を見せ付けられたのか?と云わんばかりに呆然としたヒナが居た。
「ゴメンねぇ、ヒナちゃん。こいつ、いっつも規格外だからさ……」
以前、レインシェスカと共闘した時には居なかった彼・ジャニアースの殲滅力を垣間見たヒナ。
正直、異世界大陸の住人…いや、冒険者を嘗めていたのは否めない。
カナミとトールは意識を失っていたようで何よりだったかもしれない。
トールは特に。
あんなモノを見せ付けられては…自信も糞もへったくれもない。
「いえ……助けて頂き……ありがとう……ございまし……た」
緊張の糸が切れたのか、途端に訪れたのは脱水症状ではない事を祈る。
何とか感謝の気持ちを伝えたヒナも、その意識を失っていったのだった。
『漢』と書いて『おとこ』と読む馬鹿野郎は書いていて楽しいwww
今章、物語の大体の登場人物を紹介していく予定です。
極力、一人ずつ語りたいので…話数(部数)が増えるかもしれません。
テンポが遅くなると思いますが、ご容赦くださいませ……
追記、ちょい編集しました。
名前の略し過ぎが気になったので…(^_^;)




