いきなりボス登場。JK達、雪辱を誓う。その2。
微かな木漏れ日が瞼を暖める。
何処からか聴こえてくる柔らかい風の音が耳を擽る。
全身からからじわりと滲み出る汗が逆に心地好く感じる。
優しくて、暖かい。
誰かさんが頭を撫でている。
「……あ、ゴメン。目が覚めちゃった? ……大丈夫?」
ベッドで横たわっていたカナミの髪を撫でていた彼女、ヒナが言う。
「……ヒナちゃん……。こそ、大丈夫~?」
「うん。アタシは平気よ。多分、ね」
取り繕うとはするが、苦笑いは隠せない。
お互い、付き合いが長いから。
それにヒナにとってカナミの存在は妹のそれに近い。
対するカナミも、ヒナは姉のような存在だった。
ちなみにトールは、ふたりにとって『兄貴』なのだが。
幼少の頃、ふたり共トールを『男の子』だと勘違いしていたのは懐かしい話だ。
「トールは……。あ~、何となく予想はつくけど~……」
もうひとつの空いたベッド。
布団が丁寧に折り畳まれているのはトールの実家、剣道場の躾なのだろう。
「何か……起きて直ぐに『武器屋に行ってくる!』ってさ」
「あ~……ぽっきり折られちゃったモンね~…」
カナミが言うのは折られてしまったトール愛用の長剣か、それとも鼻っ柱か。
自分達もぽっきり折られているので室内の空気が少し重く感じた。
今、彼女達が話しているのは部屋の一室。
両開きの窓が開けられた風景には大きくゆったりと流れる大河と、その河の氾濫から守るべく植え付けられたらしい大樹が並ぶ。
漁が盛んなのか、至る所で船が群れ、または、陸から釣竿を垂らす多種の民族が趣に戯れている。
ここは異世界大陸ファンタジスタに幾つかある街のひとつ『ライカル』。
傍らで流れる大河の名を貰っている街。
彼女達は、その街の片隅にある『ギネスの酒場』という宿屋に居た。
「お、目が覚めたみたいだね。良かった良かった!」
部屋の雰囲気を吹き飛ばすぐらいの豪快な大声が響き渡る。
半開きだった扉越しに会話を聴いていたのだろうか。
その両手には温められたスープらしいカップが美味しそうな臭いを漂わせる。
「あ、レインシェスカさん。この度は、どうもありがとうございました…」
振り向き、深々と頭を垂れるヒナ。
「レイン、で良いよ。で、ふたりとも大丈夫かい?」
レインシェスカと呼ばれた彼女は、2人にカップを手渡し優しく微笑む。
がっしりした肉体美と、まるで巨人のような長身。
身の丈、3メートルは有るのではないだろうか。
美しくも長い情熱的な赤い髪が窓の外から挿す陽光に照される。
そして何よりも……。
ヒナ達が集まっても勝てない程の凶暴な胸が目立つ。
顔や腕、露出された肉体の至る所に傷痕があり、その立派な体躯から想像するに歴戦の戦士ではないかと。だがそれは違っていた。
「あの……レイン、さん。確か魔術師でした……よね?」
「ん? 前に会った時に観ただろ? アタシは立派な魔術師だよ!」
まるで右腕の筋肉を誇示するかのように振る舞うレインシェスカ。
だが、彼女が見せ付けようとしているのは荒々しい筋肉の隆起ではなく、その右手、中指に填められた指輪である。
それは『魔法の発動体』であり、本来、魔術を行使するのに必要な『魔法使いの杖』を使わずにして、魔術を行使する事が出来るのだ。
ちなみに、こういった『杖ではない発動体』は魔術師ギルドなどで様々な形状で売買されている。
そう。彼女レインシェスカはこう見えて『魔術師』なのだ。
『杖、無くして、魔法を使う』。
よって、剣を取り扱いながら魔法を使いこなすという利点が大きい。
『魔法剣士』。
異世界大陸・ファンタジスタに於いては、そう珍しい事ではない。
しかも、レインシェスカはかなりの術師であり、剣技と併せる事が出来る。
冒険者の中では一際有名な『紅の蜃気楼』というパーティーの一員である。
実は、少し前に【偉大なる魔術師・バレンシア】の依頼で彼女達のパーティーと共闘した事があった。
その時、確かに彼女は魔法を使っていた。
だが、華麗に敵を、魔物を切り裂きながらも
ほぼ同時に攻撃魔法を放つ彼女に心を奪われた事は確かだ。
「ま、剣技のほうはからっきしでさ。途中で諦めたんだけど、ね!」
あれだけ見事に双方を融合させながらも『剣技と体つきは比例しない』と言う。
豪快に笑う彼女に、悔やむ様子は一切感じられない。
寧ろ、何処からか溢れ出てくる『当然!』という謎の自信。
ヒナは、初めて出逢った時からそんなレインシェスカに憧れを抱いていたかもしれない。
「で、さぁ……。何であんな所であんな奴等と出くわしたのさ?」
レインシェスカの、ふとした疑問がヒナ達の不運を伺い、二人は『たはは……』と自分達でも納得がいかない呟きを誤魔化そうと窓の外を眺めたのであった。
『進行形』って難しいと、常々思う今日この頃。
あかん。全部『解説回』になってまうwww
次は…やはり『回想』ですな……(爆)




