むりやり喚ばれて、冒険者になったJK達。その12。
今章ラストです。
「……はぁ……ッ……はぁ……ッ」
3人は青空を仰ぎ、大地に身を委ねていた。
その傍らには2つの自転車が共に横たわる。
決して、青春している訳では無い。
「いや……あれだけ、デカイとさ……避けるのも、キツいわ……」
体力には、いや、運動神経には抜群の自信のあるヒナでさえ、流石に息を切らしている。
「……ヒナは良いよ。アタシなんて……カナミを後ろに乗せてたのよ……久々に堪えたな……」
そう言うとトールは、まだまだ修練が足りぬとばかりに、寝転びつつも腹筋をし始める。
何処までも、脳筋肉質だ。いや、肉体的にも。
「まぁまぁ~、ふたり共、ナンとかなったから良いじゃあないの~♪」
トールの後部座席でラクをしていたからか余裕があるが。
それでも、振り落とされないように必死に彼女にしがみついていたので、疲労を隠せない様子のカナミは2人と同じ様に寝転んでいる。
「不思議なのは~……。『狂った精霊』とか居なかった事なのよね~……」
今、彼女達3人は『魂の泉』の中心部にある浮島ではなく、本島・大陸の陸地にいる。
竜を取り込んだ悪魔ベルトーグを挑発し、罠に掛け、湖に沈めたのだった。
「……そういや、確かに変よね……」
「まぁ、その分助かったと言えるけど、な」
「って~か、遺跡? 洞窟の中でもあのドラゴンと悪魔ぐらいにしか出逢わなかったし~……」
カナミの疑問に同調するヒナ達。
確かに湖上で戦闘した『狂った精霊』と遺跡内部の支配者『竜』。
そして、その竜をも取り込み新種のモンスターと化した『悪魔ベルトーグ』。
出会した厄介な相手は、それぐらいであった。
遺跡内部では、『奴等』に到る迄に、多少の罠になりうるぐらいの、所謂、大自然の脅威に晒される事はあったのだ。
道中、ただの水溜まりかと思いきや、進むに連れて、水中を潜らねばならない程の一方通行。
又は…露出した岩場もゴツゴツとして歩きにくく。
湖の何処からか、流れているのだろうか。
その足場を滑らかに湿らせ尚且つ、天井からも夥しい程の鍾乳石。
強いて言えば、大体そういう処には、虫や蝙蝠などの生物…もとい。
それに準ずる、異世界に於けるモンスターが居ても可笑しくはない。
なのに随分、ラクをした気がする。いや、作戦勝ちなのであろうか。
または、彼女達の強運なのであろうか。
『君達に礼を言いたい』
「……何……。アンタ達……今、何か言った!? 何か聴こえた……ッ!?」
ヒナは咄嗟に跳ね上がり、辺りをキョロキョロと警戒する。
同様に、トールとカナミも起き上がり辺りに注意を促す。
『我は原始にして偉大なる【真竜】の系譜。かつて、ある者に封印されてしまったが…』
告げられた『その声』は、耳に響くというよりは、頭に直接響く感じに近い。
それはまるでヒナ達の心を、真意を見透かしたように告げる。
『君達の望むべきを与えよう。我はやがて……。昇華される故に』
まだこれ以上何か襲ってくるのかと冷や汗を掻き、慌てる様子のカナミとヒナ。
トールは何が起きたのか分かっていないのか、それとも、これから起きるかもしれない異変に対するべく。
長剣を片手に勇み立っているのが、最早、常人…現代人では無い。
と、その時『魂の泉』を含め、周囲の大気がゴゴゴと震え始める。
彼女達3人は突然の現象に正直、どう対処していいのか判らないでいる。
よく状況を視てみると。
時間が経つにすれ濃い霧が発生し、湖の水位が下がっていく。
そして、霧が晴れるに連れ、一際目映い輝きと共に彼女達の目前に『それ』は顕れた。
大きさにして、拳3つ分程だろうか。
光輝く『それ』は、綺麗な水晶球に見えた。
『真竜の、それとは……次元が違うであろうが。我が【涙】の結晶を受け取るが良い』
その声が伝えているのは、目前に浮かぶ水晶球…
つまり、『魂の泉』そのものが【竜の涙】なのだという事実。
実は、遺跡に記された壁画にその内容はあった。
彼女達3人は解読出来なかったのだが。
かつて竜はその力を以て、地上の一角で尊き存在として崇められていた。
しかし、ある時…毎年のように竜に捧げられる財宝を欲した一部の種族が攻め混んできた。
元々大人しい性格だったのか、竜は彼等を殺す事は無く、溜め込んでいた財宝を譲り、無駄な争いを避ける為にと、この地へとやってきたのだ。
そしてその地でも竜は手厚い歓迎を受けたのだが…またしても、竜を狙う存在が現れた。
しかし、『時の賢者』なる聡明な魔術師により、竜は遺跡に封印される事になる。
『貴方の涙で、邪気を祓いましょう』
やがて、それは辺りへと流れ落ち、癒しの湖『魂の泉』と呼ばれた。
じわりじわりと、いや、急速に『魂の泉』は【竜の涙】として成り果ててゆく。
干上がった湖の畔に集うヒナ達の手元には。
光輝く、大きな、見事な宝玉が形成されていた。
『持っていくが良い。君達に大いに貢献するであろう。では……何れ……何処かにて…………』
掠れ逝く声と伴に蒼天へと。
遥かなる極みへと昇る竜を観た。
【竜の涙】を手に入れた彼女達は、眼を瞑り静かに両手を合わせた。
そして漸く、帰路に就くのであった。
さて、次章の分を…いや、文を貯めねばw