むりやり喚ばれて、冒険者になったJK達。その10。
遺跡を後にしても、彼女達は走り続けていた。
そして、自分達の自転車を見つけ次第、搭乗し、後ろを振り返る。
問題は……。
カナミの自転車はこの孤島に辿り着いた際、壊れてしまったので。
トールの自転車の後方座席にて座っている。
いわゆる『2ケツ』状態である。
暫くして一斉に、遺跡周辺の森が騒ぎだし鳥達や野性動物が逃げ惑う。
そして盛大な破壊音とともに、それは遂に地上に顕現したのだ。
「うわ……。あれ、なんて怪獣?」
良い得て妙である。
何せ…竜であった頃の原型が、ほぼ留まられていない。
遺跡の入り口を破壊したそれは超巨大な岩の蜥蜴を連想させた。
やがてそれは鈍い動作で周辺の何かを探している。
「ほっほ~い、こっこまでおいで~♪」
突然、カナミはレディにあるまじき行為をする。
女子高生がそれをするには…いや、今時、小学生でもしないのではないだろうか。
他人の自転車の後部座席にての『おしりペンペン』であった。
「ちょッ! アンタ、はしたないッ!」
「いーから、いーから。ほら、ふたりもやって!」
全く照れもせず、自信満々なカナミ。
何か作戦でもあるのだろうか。
とりあえずカナミを信じて。ヒナは、顔を赤らめながらもそれをした。
「へ……へ~い。鬼さん、こちら、手の鳴る方へ~」
いや、相手は正確には『悪魔』なのだが。
ヒナは恥ずかしながらも手を叩きながら、慎ましく引き締まったお尻をフリフリしてみた。
そして次に、トールは至って冷静にそれをやらかす。
「キスマイ……アス!!」
右手の中指を立てるという行為をする冒険者……もとい女子高生である。
多分今頃、実家の剣道場に飾られている『質実剛健』がガタンと落ちているかもしれない。
…………ぷちん。
『ガキどもがぁぁぁ…………。舐めやがってぇぇぇぇぇッ!!!!』
最後の挑発が、その意味を知らないベルトーグであっても怒髪天を衝くに到らしめた。
その巨躯を大きく激しく揺さぶらせながら、ヒナ達へと進撃を開始する。
辺りの木々をなぎ倒し、或いは、大地を根こそぎ削りとる。
「きた。きたきたぁぁぁッ! 走って走ってぇぇぇッ!!」
自転車に乗ったふたりをせっつかせるカナミ。
何せ彼女はトールの後部座席なのでやる事が無い。
せめて、御札を新しいものと換えるぐらいだ。
『魂の泉』と呼ばれる湖のほぼ、中心に位置する浮島。
浮島自体は其ほど広くは無い。
恐らく、自転車で浮島の周囲を走っても30分もかからないぐらいであろうか。
しかも、その島の中心部に遺跡はあったので、脱出するのにそう時間はかからない。
それでも、自転車に対する悪路はあるので…あとは体力と運転技術次第なのだが。
後方をチラチラと気にしながら、カナミは一旦自転車を、ヒナ達2人を止めさせる。
「……け……つ……お尻が。痛い……」
一瞬、『ケツが』と言いかけたが言い直したのは流石にレディだからなのだろうか。
だが、まぁ。それは、そうであろう。
ベルトーグを惹き付けながらも撒く為に、右往左往しながら、悪路をお構い無しに駆け巡ってきたのだから。
しかも、後ろの車輪には『立ち乗り』用の部品が無かったのである。
無論、運転手達2人は立ち漕ぎだったので、ダメージは無い。
「あいたたた………。うん、やっぱりな~………。多分あいつ、今飛べないんじゃない?」
そうなのだ。
『悪魔・ベルトーグ』は彼女達の前に現れた時、確かに『飛行』していた。
更に、竜に対して『雷撃』の魔法も使っていた。
だが、今のベルトーグを診るに…『周囲を取り込み巨大化する』という魔法以外に、他の魔法を使用していないのは明らかであった。
「あ~……。何となく分かったよ、カナミのやりたい事」
ヒナ達も理解したようだ。
なので、更に…彼女達はベルトーグを挑発する。
「ほ~ら、こっこだよ~! 悔しかったらジャンプでもしてみたら~?」
「おっそいな~? そんなにブクブク肥っちゃって。もうバテちゃった?」
「マザー……ファッ」
トールの挑発は2人から口を押さえられたので最後まで言えなかった。
『そぉぉぉ……こぉぉぉ……かぁぁぁぁぁッ!!!!』
浮島に激震が走る。
その巨躯は大地を踏み締め天に昇るが如く、中空に身を投げた。
狙いは勿論、ヒナ達である。
だが、彼女達は今。
『魂の泉』という『湖』の上にいたのであった。




